表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/101

第53話「“最終チェック”と、新しい現場の気配」

「神原、3階の手直しチェック、今日中に片づけとけよ。明日から内覧対応の準備入るからな」


いつものように、課長・丸山のひと言で朝が始まった。

匠はヘルメットを被りながら、軽くうなずく。


「了解です。今日で最終チェック、全部回ります」


※建物の竣工前には、「手直しチェック」や「是正確認」と呼ばれる工程がある。

各工種の仕上がり状況を確認し、クロスの浮き、建具の開閉、給排水の漏れなど、不備があれば修繕を指示する。

この工程は、建物の“完成度”を決める最後の砦。些細な見逃しが、入居者からのクレームにつながることもある。


高槻と並んでフロアを回る匠は、タブレットで図面を確認しながら指示を飛ばしていく。


「この開口部の縁、少し隙間あるな。コーキングやり直し」


「了解です。あとは……このユニットバス、扉がわずかに斜めです。閉まりが甘い」


「枠が浮いてるな。ビス増し締めと調整、職長に頼んどいて」


一つひとつ、不具合を拾っていく作業は地道だが、現場監督の本領が問われる場面だ。


昼過ぎ、3階西端の角部屋。

匠は天井付近のクロスに手を当てて、わずかな浮きに気づいた。


「エル。見た目はほぼ問題ないけど、下地の浮きが気になる。魔法で確かめられるか?」


《“構造触知”を使います。隠れた躯体のゆがみや、仕上げ材の密着度を感知できます》


匠が静かに手をかざすと、軽い震えが指先に伝わる。

天井材の一部が、下地から浮いている箇所をピンポイントで把握できた。


「……下地だな。浮き幅3ミリくらい。やっぱり感覚だけじゃ限界あるな、こりゃ便利すぎる」


「神原さん、またその妙な“カン”ですか? やたら当たるんですよね」


高槻が苦笑いしながらメモを取る。


「勘じゃなくて……経験値ってやつだ」


「ふーん(どう考えても勘じゃないですよね)」


作業がひと段落し、事務所に戻ると、所長の武藤が声をかけてきた。


「神原。来月から新しい現場、動き出すかもしれん。おまえ、行く気あるか?」


「……次はどんな物件です?」


「駅前再開発の一角。先に古いビルの解体から入る。杭、山留、土工……インフラからフルセットでやるから、なかなか面白いぞ」


「……行きます。面白そうだし、今の現場で“やれること”はもう全部やった気がするんで」


所長は豪快に笑った。


「よし! その心意気、気に入った」


夕暮れの現場。

最終確認を終えた匠は、壁にそっと手を当てた。


「おまえとは、ここまでだな」


《……この現場は、魔力の流れがとても穏やかでした。きっと、いい建物になります》


「うん。ここに住む人が、“この空間好きだな”って感じてくれたら、それが一番だよな」


風が静かに吹き抜ける。

ひとつの現場が終わり、次の現場の“地ならし”が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ