第41話「現場監督 VS 魔導施工――図面なき工事との攻防」
「……これ、昨日なかったぞ?」
朝の現場。
外構予定地の一角に、“いつの間にか現れた構造物”があった。
鉄筋コンクリート風の塊。
だが、図面にも施工計画にも、どこにも記載がない。
「これ、誰かが勝手に置いたんですかね? でも、手で運べるサイズじゃないし……」
高槻が言う。神原は、触れずに目を細めた。
「おそらく……“異界側の自動施工”だ。施工図はなくても、あっちは勝手に進めてきやがる」
《この現象、“自律構築型魔導構造”です。
異界とつながった現場では、“意志”が物理化される場合があります》
エルの言葉に、神原はうなずいた。
「要するに、“誰か”がこの現場に施工命令を出してるってことだよな」
《はい。そして、それが現場管理を混乱させようとしているのは明らかです》
午前中。
設備屋と鉄筋屋の職人たちがぶつかりかけた。
「昨日とライン違うってどういうことだよ! 配管通せねぇじゃねぇか!」
「知らねぇよ、朝来たら構造物が変わってたんだよ!」
神原はすぐに間に入った。
「落ち着け。今日の“構造物”は、一時的に撤去対象にする。
重機の搬入も止める。まずは状況の安定優先だ」
「でもよ、監督……」
「お前らのせいじゃねぇ。俺が全部責任取る。
これは、“図面にない魔物”との戦いなんだよ」
《匠様、異界構造の排除には、“固定図面の明示”が最も有効です。
強く、明確な“施工意志”を持って、図面通りに現場を縛るのです》
「じゃあ……俺が、この現場の“段取り”をもう一度、全員に宣言する」
昼休み。
神原は全職人を集めて、ひとつひとつ工程をホワイトボードに書いて見せた。
「これは、いまこの現場が向かっている“正しい施工の流れ”だ。
勝手に出現した構造物に惑わされんな。俺たちは、人の手で建てるんだよ」
午後。
現場に響く打設の音。
図面に忠実に、鉄筋が、型枠が、配管が組まれていく。
そのとき、異界から伸びかけた“新たな魔導ライン”が、一瞬ビリビリと震えた。
《……異界の指示が、消失しました。
匠様の“意志ある段取り”が、異界構造を上書きしました》
神原はため息をついた。
「魔法より大事なのは、“工程表”だったかもな……」




