第40話「“異界の監督”からの干渉――現場に届いた謎の指示書」
「……これ、見覚えありますか?」
朝、ひかりが手渡してきたのは、差出人不明の“施工指示書”。
封筒は会社支給のものと同じだが、
中に挟まれていた紙の書式は、明らかに違っていた。
「手順が……変だな。躯体組立の前に“封印処置”とか、“魂安定層を確保”……?」
「神原さん、文字の一部、魔導語ですよ」
高槻が指を差すと、見慣れない記号と構造スケッチが浮かび上がった。
《これは、異界式の“魔導建築手順書”です》
エルがすぐに解析を始める。
《“魂留め構造”と呼ばれる特殊な施工手順。
かつて異世界で、“建物に精霊を宿らせる”ために行われた工法です》
「……建物に、精霊を?」
《ただの構造物を、守護の拠点に変える方法です。
しかしこの方法は、重大な欠点があります》
「……なに?」
《“途中でやめてはいけない”のです。
未完成のままだと、建物が“霊的暴走”を始めます》
「……最悪じゃねえか」
午前中、現場では図面との食い違いをめぐって軽い混乱が起きていた。
「神原さん、これってどっちが正なんですか?
昨日もらった施工図と、今日事務所にあったこれ、寸法が合わないっすよ」
「昨日のが正だ。今日のは、イタズラか手違いだと思っておけ」
職人たちには、魔導施工の話は伏せたまま。
だが、エルは静かに告げる。
《この“偽施工指示書”、書いたのは人間ではありません。
“こちら側を知る、異界の何者か”です》
午後、急きょ所長を交えて調整会議が開かれた。
「神原、この“異常指示書”について、どう考える?」
「今は詳細不明です。ただ、現場の進行を妨げる意図があると判断しています。
実害が出る前に、情報を遮断します」
武藤は腕を組んで黙った後――ニヤリと笑った。
「お前、図面にないものでも“段取り”でねじ伏せるのな」
「……現場ですから」
「気に入った。だが、お前ひとりで背負うなよ。これはもう、チームの仕事だ」
その言葉が、神原の胸にしみた。
夜。
匠とエルは再び“魔導手順書”を読み解いていた。
《この構成……どうやらこの指示書は、“現場全体をひとつの祭壇”にしようとしています》
「つまり、建物としての完成じゃなく、“何かを召喚する構造体”……ってことか」
《はい。すでに何カ所か、現場内に“その要素”が入り込んでいます。
例えばあの“壁”、そして昨日の“ひび割れ”》
「それじゃ、俺たちの現場が……“誰かの魔法陣”にされてるってのかよ」




