第39話「異界と現場をつなぐ、“最初のヒビ”」
「神原ァ!」
武藤所長の声が、朝の事務所に響いた。
「3階の通路下、設備配管から“光が漏れてる”って報告が来てんだよ! なんだそれは!」
「……光、ですか?」
「そう、青白い光だ。誰も触ってないのにチカチカしてて、しかも“音”までするってなぁ……幽霊でも出るのか?」
「……確認します」
匠は高槻と共に現場へ走った。
3階通路下の天井。
配管スペースの天井ボードを外すと、確かに“ひび割れのような光”がじわじわと伸びていた。
「これは……」
《異界と現実を分ける“魔力障壁”が、部分的に破られています》
エルの声が震えていた。
《ここが、“異界とつながる入口”になりかけています。
“現場”の力で保っていた封印が……少しずつ溶け始めています》
その時、後ろから誰かが駆け寄ってきた。
「匠さんっ、所長に報告書まとめてって言われて……って、えっ、なにこれ⁉」
事務員の小田切ひかりだった。
匠と高槻は目を見合わせた。
「ひかり、今日はここに入るな。あとは俺たちでやる」
「なにか……良くないことが起きてるんですね?」
ひかりは察したように口をつぐみ、黙ってうなずいた。
夕方。
匠は武藤所長に状況を説明する。
もちろん、魔法や異界の話は出さず、“地中からの自然発光鉱物の可能性”として報告書をまとめた。
武藤は缶コーヒーを片手に、黙ってそれを読み込む。
「お前さ、ここ最近ちょっと……変わったよな」
「そうですか?」
「前より“何かを背負ってる”顔してる。……ま、言わなくていいけどな」
匠は苦笑した。
「いつも見透かされてる気がします」
「当たり前だ。俺は現場監督歴30年だぞ。お前らの5歩先を歩いてんだ」
そう言って、所長は背中で笑った。
その夜。
匠は再び、3階の“光のひび割れ”を見に行く。
エルがささやく。
《これは……自然な接続ではありません。誰かが“つなげようとしている”痕跡です》
「誰が? 何のために?」
《それはまだ……わかりません。ただ、確実に“意図”を感じます。
この現場は、“異界側から”観測されています》
匠は静かに拳を握った。
「だったらこっちも……本気で向き合うしかないな」




