第31話「旧現場からの呼び出し――封じたはずの記憶」
「……え、俺が?」
神原匠はスマホを見つめたまま、表情を変えなかった。
だが、その声のトーンにはわずかな“ひっかかり”があった。
「旧○○市の物流倉庫、ちょっとした補修だけのはずなんだけどな。急に“現場監督だけ来てくれ”って、変だろ」
高槻が眉をしかめた。
「その現場って……たしか、神原さんが昔――」
「ああ。施工中に、大きな事故があった場所だ」
《記憶、ですか》
「エル……正直、あんま思い出したくねぇ」
《ですが、今このタイミングで“その場所”に呼ばれるのは、偶然ではないはずです》
神原匠は静かに頷いた。
「わかってる。俺にとって、あそこは……“魔法なんか無くても何もできなかった場所”なんだよ」
旧物流倉庫の現場は、すでにほぼ稼働しており、今回は“基礎部の点検”という名目での出張だった。
だが、現場に着くと、何かがおかしい。
転倒しているカラーコーンが“毎朝元に戻っている”
地面に描いたチョークラインが、翌朝には“真逆の方向”を向いている
作業員のひとりが、「倉庫内に“黒い人影”を見た」と証言している
神原は建物を見上げながら、つぶやいた。
「……まさか、ここにも来てるのか?」
夜。
単独で倉庫内に入った神原は、ライトを照らしながら歩いていた。
そのとき、足元で――
パチッ
床のコンクリートに、一瞬だけ“ヒビのような光”が走る。
すぐに消えたが、匠には確かに見えた。
《神原様、ここには“残留魔力”があります。かつてこの地で起きた事故――その影響と重なり、異界の干渉が強まっています》
「ってことは……事故は、偶然じゃなかったのか?」
《可能性は否定できません》
「……ふざけんな」
匠の手が震えた。
「事故で仲間がケガした。俺は何もできなかった。
あのとき、魔法があったらって何度も思った。
でも今、こうして使えるようになって……もし、それでも守れねぇなら――」
《神原様……今なら、できます》
エルの声が、強く、静かに響いた。
匠は“光魔法・照痕”を再び発動させる。
倉庫内に、薄紫の光が舞い、床と壁に“渦”のような痕跡が現れる。
「来いよ。“おれが終わらせてやる”」
そのとき、倉庫の奥で――黒い影が形を持ち始めた。




