第23話「現場で起きた“消えた工具”事件」
「神原さーん! ちょっと来てください!」
朝から叫び声が響いたのは、5階の仕上げ区画だった。
そこにいたのは若手職人の市川。
腰袋の中をガサガサとかき回し、頭をかかえていた。
「インパクトドライバーが、消えたんすよ!」
「……またどっか置き忘れたんじゃねえのか?」
「いやいやいや! さっきまで持ってたんですよ!? 腰袋からスッと抜けた感じで!」
市川の言うことに、最初は誰も信じなかった。
しかしその後――
「俺の水平器もないぞ」
「工具箱の中、勝手に荒らされたみたいになってる」
「おかしいな……俺の差し金、机に置いてたのに消えてる」
不自然な“工具の紛失”が続出し始めた。
《神原様。この現象……“魔力干渉”の痕跡があります》
「やっぱりか」
神原匠は、朝からずっと感じていた現場の“ざわつき”に、確信を持ち始めていた。
《自然に起こる揺らぎではありません。明らかに“意図的”です》
「魔力で、工具をどっかに飛ばしてるってことか?」
《あるいは、“見えなく”しているかもしれません。簡易的な隠蔽系魔法……存在の錯視です》
昼休み。事務所では、市川が大騒ぎしていた。
「絶対おかしいっすって! 現場に妖精いるんじゃないっすか⁉」
「お前なぁ……そんなに毎回事件が起きる現場、そうそうねえぞ」
高槻があきれたように言うと、小田切ひかりが苦笑い。
「でも、変な話、ここ最近“道具の整頓”がよくなった気もします。誰かがこっそり整理してるのかなって……」
匠は内心でピクリと反応した。
(……整頓?)
午後、現場の一角で“消えた”とされていた工具のいくつかが、
まるで意図的に並べられたような状態で発見された。
しかもそれは、整理整頓の手本のように美しく配置されていた。
「神原さん……これ、誰かやってますよね?」
「……ああ。たぶん、“魔力で”な」
高槻が一歩、前に出る。
「もうひとりの魔法使い……ここに、いますね」
匠は無言で頷いた。
《神原様。これは警告かもしれません》
エルが静かに言った。
《“わたしはここにいる”――そう伝えているのかもしれません》
「……面白ぇじゃねぇか。なら、こっちも返事してやらねぇとな」
匠は、足元のホコリを軽く吹き飛ばした。
風が、ほんの少しだけ“円を描いた”。
《挑発……ですか?》
「違ぇよ。現場の礼儀だ」




