第24話「その魔力、善か悪か――“目撃者”の出現」
「……見たんだよ、本当に!」
その声に、現場詰所が静まり返った。
言ったのは、外構職人のひとり。普段は寡黙な中年のベテランだ。
「足場の上に、誰もいねぇのに……資材がスーッと宙に浮いて、勝手に運ばれてたんだ」
「……また、市川の妄想が伝染ったんじゃねぇの?」
辰巳親方が、笑いながら口を挟む。
「違ぇよ! 俺はハッキリ見た! あれは絶対、普通じゃなかった」
神原匠は、黙ってコーヒーを口に運んだ。
高槻も視線だけで「どうする?」と訴えてきた。
「ま、現場は忙しいし、気のせいってことにしとこうや」
匠がそう締めると、話は一旦流れた。
だが、空気の“ざわつき”は、消えなかった。
午後、5階の配管エリアで再び異変が起きる。
「おい、今さっきの鉄管、勝手に立ったぞ!」
「いやいや、誰かいたろ? 影とか……」
「いねぇよ。影がねぇんだよ」
資材が“自然に動いている”という現象が、頻発し始めた。
高槻が神原の元へ駆け寄ってくる。
「もう隠せませんよ。何かが、動いてます」
「エル……これは、俺らの魔法じゃないよな?」
《はい。これは“別の魔力”です。波長が異なります。》
「何か、意志を感じるか?」
《……まだ分かりません。“人為的”ではありますが、明確な敵意も善意も感じません》
夕方、現場が終わる時間。
神原は、誰もいない足場の先端まで歩いていった。
「ここだな。午前中、目撃されたのは」
風が静まり返り、空気だけが妙に重い。
《神原様。魔力反応があります。まだ微弱ですが、間違いありません》
匠は、作業手袋を外して風を手に集めた。
「誰だ……ここにいるのは。目的はなんだ」
その瞬間、小さな“きらめき”が空中に走った。
風が反応し、わずかに軌道を乱す。
「逃げたな……」
高槻が階下から声をかける。
「なにか見えましたか⁉」
「いや……気配だけ、だ」
事務所に戻った匠は、スマホを見つめていた。
《神原様。もしかしたら――あの存在は、“私と似たもの”かもしれません》
「……異世界帰り、ってことか?」
《それだけではありません。“この世界の理に、適応しようとしている”気配があります》
「なら、敵とは限らねぇか……」
匠は少しだけ口角を上げた。
「よし、だったら……こっちから探しにいくか」




