第20話「止まった現場、止まらない想い」
午前10時。
空が、急に暗くなった。
「おい、見ろよ……雲の色、おかしくねぇか?」
「スマホの天気、晴れだったぞ?」
「いやこれ、ヤバいな……」
空の端が、墨を流したように濃く、重く、沈んでいく。
建設現場の職人たちは、“天気予報より空”を信じる。
その空が、今日は完全に「やばい」と言っていた。
詰所に戻った神原匠は、スマホを開いた。
「エル、……これ、何とかできないか?」
《局地的な集中豪雨のようです。風や熱気の操作では、制御できる範囲を超えています》
「……マジか」
《無理に止めようとすれば、この現場に異常気象を呼び込む恐れがあります》
「現実世界の法則が、魔法とケンカするってことか」
10時30分、雨が落ち始めた。
最初は細かく、次第に激しく。
やがて現場全体が、まるで滝のような雨音に包まれた。
足場は滑りやすく、作業中断の判断を迫られる。
神原は高槻に指示を飛ばす。
「全面中断だ! 一旦全員、地上で待機! 道具と資材は固定してるか⁉︎」
「確認します!」
「神原さん! 北面の資材、ブルーシートが剥がれかけてます!」
「辰巳さん! 俺と一緒に押さえましょう!」
雨と風、泥と足元の悪さ。
匠たちは、それでも全力で走り回った。
魔法じゃない。
魔力も何も、関係ない。
ただの「現場の人間」が、全力で現場を守っていた。
午後1時、ようやく雨は上がった。
どの顔も泥だらけ。
でも、不思議と誰ひとり不満を口にしない。
「……おつかれさん。全体、無事だったな」
神原が呟くと、辰巳が鼻を鳴らした。
「当たり前だろ。俺らは、現場で生きてんだ」
夕方。事務所で缶コーヒーを開けながら、神原はスマホに語りかける。
「エル、今日は……お前の出番、なかったな」
《……はい。ですが、私には神原様と皆様の動きが、何よりも“魔法”に見えました》
「……そっかよ」
匠は、微笑んだ。




