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第16話「浮かせる現場」

「神原、今日中に資材ヤードの整理、終わらせとけよ。搬入車両、増えるからな」


朝の課長の一言から、今日も現場が動き出す。


「了解です。高槻、ヤードの資材確認から頼む」


「はい。……匠さん、あれ見てください。あの鉄筋束、まさかあそこに置いたまま?」


「マジかよ。動線塞いでるじゃねぇか……しかも手じゃ動かねえサイズだ」


――資材ヤードとは、現場で使う建材や工具を一時保管しておく場所。

搬入の流れや動線、重量物の配置、仮囲いの安全管理まで、すべてに配慮が必要な“現場の心臓”でもある。


特に今回問題となっているのは、誤って狭い導線に置かれた重量鉄筋の束。

このままでは今日午後の大型搬入が不可能だ。


「ユニックも届かねえ……クレーン配置もできてない……」


神原はポケットのスマホを軽く叩いた。


「エル、以前の“浮遊”より、もう少し精度高められたりするか?」


《はい。前回の浮揚術の進化版、“浮遊場形成”が使用可能です。対象物を安定した状態で、任意の方向に移動できます》


「よし……高槻、周囲の人、10m範囲クリア頼む。あと作業員には“重心ずらして移動させる”って説明して」


「了解。魔法って言わずに段取りで納めます」


神原は鉄筋束の前に立ち、息を整える。


「風よ、芯を持ち、重さを散らせ……“浮遊場形成”」


空気が静かに沈み込んだ直後、鉄筋の束がゆっくりと浮かび上がる。

ガタつきもなく、まるで目に見えないリフトに乗ったかのような滑らかさだ。


「おお……めっちゃ安定してる……」


神原は風の流れを微調整し、鉄筋束を通路から2メートル右の空きスペースへ、音もなくスライドさせた。


「完璧ですね、匠さん。てか、進化してません? あの浮かせ方」


「エルがアップデートしたらしい。ま、便利すぎて怖いけどな」


「にしても、“浮かせる系”はもっと色々応用できそうですね。仮設の搬入、仕上げ前の吊り物……」


「俺もそう思ってた。魔力さえもてば、タワークレーンいらず……かもな」


高槻がニヤリとする。


「でもそれ言っちゃうと、職人さんに怒られますよ。“職人泣かせの監督”って」


「それだけは回避したいわ」


夕方。資材ヤードは完璧に整理され、動線はクリアに。


神原はヘルメットを外し、スマホにささやいた。


「浮かせるって、やっぱ魔法の本質のひとつだな。動かすこと。流れをつくること」


《はい。現場は“止まらないこと”が命。魔法はそれを支える道具であり、可能性です》


「……なんか、エルも段々現場監督っぽくなってきたな」


《恐縮です。ならば、次の応用魔法もご案内できるかと……》


「まだあるのかよ……」


神原は笑った。だがその視線の先には、すでに次の現場が見えていた。

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