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第14話「所長の眼光」

「おい、匠」


朝礼前、背中から飛んできた低くて太い声に、神原は一瞬で背筋を伸ばした。


「所長……!」


振り返ると、ガタイのいい男が肩を揺らして笑っている。顎には無骨な髭、ヘルメットのステッカーには『鉄斎』の文字。


「だいぶ現場が回ってるみたいだな。最近、やけに空気がいい」


「は、はい。おかげさまで……」


「で、その“おかげ”ってのは誰だ?」


神原は一瞬、言葉を詰まらせる。


「……みんな、のおかげです」


「ふん……まあいい」


所長・武藤鉄斎。現場歴30年を超えるベテランで、豪快な昭和気質。

神原にとっては“言われたくないけどグッとくることを言う”タイプの上司だ。


「午後、久々に巡回すっからな。見せてもらうぞ、おまえのやり方」



午前中、現場は通常運転。

だが神原の心中は落ち着かない。


「……魔法は、さすがに隠しきれないかもしれねえな」


《神原様、ご安心ください。今日の範囲であれば、魔法の使用痕跡は外からは感知されません》


「いや、鉄斎さんの勘は鋭い。何か、気配を感じ取ってる」



午後、所長巡回。


「ユニック誘導の出し方、変えたな」

「……はい。最近の搬入物が重くて、見通しが悪く……」

「悪くはねぇ。むしろ的確だ」


神原が説明するたび、鉄斎は笑みも見せずに黙ってうなずく。


「それにしても……粉塵が少ない。前はもっと見えづらかったぞ、この通路」


「え……そ、そうですかね。気流、ですかね……?」


「ふん……」


冷や汗をかきながら、神原は高槻と目を合わせた。


(バレてる……か?)



その日の夕方。

所長が事務所に戻ろうとしたところで、ふと振り返った。


「匠」


「はい」


「おまえ、何か“変わった”よな。最近、とくに」


「……何が、ですか?」


「知らねえよ。ただ、俺の目はごまかせねえ」


神原は思わず笑った。


「変わりましたよ。現場の流れが見えるようになってきた。……少しだけですけど」


「そうか。ならいい」


武藤所長は、それ以上何も言わず、笑って事務所へ戻っていった。


《神原様、驚きました……あの方、まるで“魔法の気配”を感知したような》


「まさかね。でも、あり得なくもない。あの人、現場じゃ半分“妖怪”扱いだし」


神原は空を見上げ、ヘルメットを押さえた。


「まだ俺は、バレてねえ。だが、見られてる。なら、もっと“堂々と”やるだけだ」

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