第14話「所長の眼光」
「おい、匠」
朝礼前、背中から飛んできた低くて太い声に、神原は一瞬で背筋を伸ばした。
「所長……!」
振り返ると、ガタイのいい男が肩を揺らして笑っている。顎には無骨な髭、ヘルメットのステッカーには『鉄斎』の文字。
「だいぶ現場が回ってるみたいだな。最近、やけに空気がいい」
「は、はい。おかげさまで……」
「で、その“おかげ”ってのは誰だ?」
神原は一瞬、言葉を詰まらせる。
「……みんな、のおかげです」
「ふん……まあいい」
所長・武藤鉄斎。現場歴30年を超えるベテランで、豪快な昭和気質。
神原にとっては“言われたくないけどグッとくることを言う”タイプの上司だ。
「午後、久々に巡回すっからな。見せてもらうぞ、おまえのやり方」
■
午前中、現場は通常運転。
だが神原の心中は落ち着かない。
「……魔法は、さすがに隠しきれないかもしれねえな」
《神原様、ご安心ください。今日の範囲であれば、魔法の使用痕跡は外からは感知されません》
「いや、鉄斎さんの勘は鋭い。何か、気配を感じ取ってる」
■
午後、所長巡回。
「ユニック誘導の出し方、変えたな」
「……はい。最近の搬入物が重くて、見通しが悪く……」
「悪くはねぇ。むしろ的確だ」
神原が説明するたび、鉄斎は笑みも見せずに黙ってうなずく。
「それにしても……粉塵が少ない。前はもっと見えづらかったぞ、この通路」
「え……そ、そうですかね。気流、ですかね……?」
「ふん……」
冷や汗をかきながら、神原は高槻と目を合わせた。
(バレてる……か?)
■
その日の夕方。
所長が事務所に戻ろうとしたところで、ふと振り返った。
「匠」
「はい」
「おまえ、何か“変わった”よな。最近、とくに」
「……何が、ですか?」
「知らねえよ。ただ、俺の目はごまかせねえ」
神原は思わず笑った。
「変わりましたよ。現場の流れが見えるようになってきた。……少しだけですけど」
「そうか。ならいい」
武藤所長は、それ以上何も言わず、笑って事務所へ戻っていった。
《神原様、驚きました……あの方、まるで“魔法の気配”を感知したような》
「まさかね。でも、あり得なくもない。あの人、現場じゃ半分“妖怪”扱いだし」
神原は空を見上げ、ヘルメットを押さえた。
「まだ俺は、バレてねえ。だが、見られてる。なら、もっと“堂々と”やるだけだ」




