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第13話「風は、上へと昇る」

「……神原、タワークレーン、止まったぞ」


朝一番、丸山課長の声がいつになく低い。


「どういうことですか」


「朝の立ち上げ点検で、旋回モーターの異常。修理は最短で明後日。今日の搬入はすべて……中止だ」


神原は一瞬、頭が真っ白になった。


今日の工程は“柱材と床配筋の楊重ようじゅう”がメイン。

クレーンが止まれば、建物はその日一日、まるごと動かなくなる。


高所に部材を人力で上げるには限界がある。

電動ウィンチや簡易リフトでは間に合わないし、そもそも搬入ルートが確保されていない。


「……詰んだか?」


そのとき、ポケットのスマホが紫に光る。


《神原様。風属性の“集気浮揚”を、応用してみませんか?》


――タワークレーンとは、高層建築における“命綱”とも言える存在だ。

大量の資材を安全かつ効率的に地上から上階へ吊り上げるため、なくてはならない設備である。

逆に言えば、それが止まれば“現場の心臓”が止まったに等しい。


「そんな高度に浮かせる魔法なんて、いま使えんだろ」


《通常の浮揚はせいぜい数メートルまでですが……“風の層”を段階的に重ね、誘導すれば、可能性はあります》


「……風のエレベーター、か」


神原は、悩んだ末に、事務所の奥で高槻を呼んだ。


「今日の作業、他の職に影響出す」


「手配は全部切り替えます。予備作業出せます」


「……頼む。あと、誰にも見られねぇよう、3階以上の作業帯、封鎖しとけ」


高槻は一瞬驚いたが、すぐにうなずいた。


「わかりました。匠さん……“やる”んですね?」


神原は小さくうなずき、ヘルメットを深くかぶった。


無人の5階スラブ。神原は、束ねた配筋パネルの下に立ち、息を整える。


「風よ、支柱となれ……空へと運べ……」


両手を掲げると、足元から上昇気流が生まれ、徐々に風の渦が資材を包む。


《重力バランス、良好です。速度、上昇安定》


資材がゆっくりと、だが確実に、空へと浮かび上がった。

階ごとに設置した風の“層”が、段階的にそれを押し上げていく。


まるで、見えないクレーンが働いているようだった。


30分後。


「……完了。予定分、全部上げた」


神原は汗だくで座り込んだ。


《魔力の消耗、激しかったですね……ですが成功です》


「これが……風属性の真骨頂ってやつか」


高槻が上階に駆け上がってきた。


「神原さん! 材料、全部上がってるって……どうやって……」


「風がな、気まぐれに仕事してくれたんだよ」


「気まぐれにしては、完璧すぎません?」


「……それを言うな」


その日の作業は、無事完遂した。

誰も気づかなかったが、タワークレーンが動いていないのに、資材が所定の位置にあることだけは記録に残った。


夜、神原はエルにそっとつぶやいた。


「いよいよ、“やばいレベル”に近づいてきたな」


《それでも、神原様の想いが魔法を成長させているのです。

今日の風は、現場の“止まった時間”を、再び動かしたのです》



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