第11話「バレた日」
「神原さん。……ひとつ、聞いてもいいですか?」
朝、事務所の給湯室。高槻が少し間を空けてから口を開いた。
「昨日の夜間作業。あの光、やっぱり神原さんですよね?」
神原は無言でコーヒーを注いだ。
「……やっぱり、か。だいぶ前から、おかしいと思ってたんです」
「何がだよ」
「3階の型枠解体の風、雨の日の乾燥、そして、昨日の光。全部、タイミングが完璧すぎる」
神原は一度口を閉じ、外の空気を見つめた。
「……誰にも言うなよ」
「言いません。信じてますから」
――高槻智也。26歳、神原の後輩で、現場の工程管理が得意な理論派タイプ。
だが、現場監督・神原匠のやり方に強く影響を受け、いつの間にか“現場の流れ”を読む力が育っていた。
だからこそ、気づいてしまった。あまりに自然で、あまりに不自然な“流れ”。
「じゃあさ、神原さん。なんでそんなもん、使えるんですか?」
「おまえ、信じるかどうか知らんけど……スマホに、賢者が宿ってる」
「は?」
「マジだ。俺にも最初は意味がわからなかった。でも、エルは確かにここにいる」
神原はスマホを取り出して見せた。が、当然、他人には声も光も見えない。
《……あなた様の選択、正しかったと思いますよ》
「今、話したんすか?」
「おまえには聞こえねえよ」
「……そっすか」
その日、現場では鉄骨階段の据え付け作業が行われていた。
「神原さん、搬入が遅れてるって、職人から連絡きてます」
「手配はこっちで確認済み。じゃあ、搬入ルートの確認を先にやろう」
そのまま二人で現場を歩きながら、高槻がぽつりと言った。
「俺、魔法って“ズルい”と思ってました。でも、使ってる神原さん見てたら……現場のために、って気持ちしか伝わってこないんです」
「……ありがとな」
「自分、魔法は使えないですけど、現場の段取りなら負けません。バレたんで、もう協力させてもらいます」
神原は、ふっと笑った。
「ようやくバディらしくなってきたな」
《おふたりの絆、微笑ましいです……》
その夜、神原は事務所でエルに話しかけた。
「これで、秘密を共有する相棒ができたわけだ」
《はい。高槻様は、信頼できる方ですね。魔法の影響範囲も、少し広げられるかもしれません》
「そっか。なら次は……もっと、大きな流れも変えられるかもしれねぇな」
夜の現場に、ふたり分の影が落ちていた。




