第10話「現場監督、夜を照らす」
「神原、今夜の搬入、よろしくな。照明は……ん? あれ? 手配……してたか?」
午後4時すぎ、丸山課長が手配表をめくりながら、硬直した。
「……いや、照明塔、リース会社に依頼かけてないっす」
「は?」
「こ、今朝の書類に……見落としっすね……」
神原はその瞬間、夜間搬入の全体工程を脳内でシミュレーションした。
今夜の便を逃すと、来週の工程がすべて崩れる。
だが、工事区画に照明がなければ重機も人も動けない。周囲は住宅街、明かりなしで作業など絶対に不可能。
「詰んだ……」
そうつぶやきかけたとき、スマホの中で、ふわりと紫色の光が灯った。
《神原様、光属性……そろそろ導入なさいますか?》
――夜間作業では、安全のために照明塔を仮設するのが基本。
重機作業や手元の確認、作業員の接触事故防止に、強力な投光機が必要となる。
「……使えるのか?」
《まだ微弱ですが、“照明術”という光属性の基本魔法があります。
光球を生み出し、特定範囲を均等に照らすことができます》
「やるしかない……」
神原は詰所裏の静かなスペースに移動し、ヘルメットを深くかぶった。
「作業エリアを明るく、温かく照らす光……俺の現場を、止めない光を」
掌に意識を集中すると、ほのかな光球がぽうっと浮かび上がった。
《成功です。複数球の制御には集中力が必要ですが、少しずつ増やしていきましょう》
神原は現場の各所に光球を配置し、地面、作業帯、通路を等間隔に照らしていった。
午後7時。
「うお……これ、なんすか? 生き物みたいな光……」
「仮設照明……じゃねぇよな」
集まった職人たちが不思議そうに辺りを見渡す。
「神原さんが“何とかする”って言ってたら、これですよ」
高槻は神原の方をちらりと見たが、あえて何も言わなかった。
「搬入、始めまーす!」
ダンプとユニック車が続々と入り、順調に資材が降ろされていく。
作業が終わるころ、夜空は星でいっぱいだった。
「……なんか、静かだったな。いつもの夜勤より」
《光属性は、“場を落ち着ける”効果もわずかにあります。
魔力の質が“安心”や“調和”に近いからです》
「いい属性だな。現場に、合ってる」
《神原様の“照らしたい”という想いが、この魔法の核になっています》
ヘルメットの下で、神原は小さくうなずいた。
「魔法が、現場の一部になってきた気がするよ」
照明球がふわりとひとつ消えた。
それは、作業が終わったことを、静かに告げていた。




