ときめかない
ピッ、と明かりを点けた。
私は頭でごちゃごちゃグルグル考えて行動に移せない口だけ女だ。
でも、元々考えるのが嫌いなので、考えるのに疲れて何も考えないで動いてしまう開き直り女でもある。
考えるがゲシュタルト崩壊しそうだ。
ゲシュタルトが何かは知らない。
今は、卵が孵るのをそのヒビを見つめながら今か今かと待ち焦がれている恐竜のようなときめきは褪せて消え去り、とってもシラケた気分で物置を見ていた。
“物置って、アンタ人様のウチを”
物置だ。
“……。”
紛うことなき物置だ。
明るくなると一層、人の気配を感じなかった。
一応、影になっているところも覗き込んでスマホで薄っすらだけど照らして見たが、誰もいなかった。
なーにが!
ここに隠れ住んでるかも、だよ!
誰もいないよ!
カーテンかかるガラス窓の向こうにもう回り込んでるかもしれない巨目さんに、明かり点けて存在アピールしちゃっただけだよ!
そもそも、避けて籠もるなら冷蔵庫とか引きずって入れるか?ここに。
電源入ってないのに。
カーテンわざわざ外す?全部。
そりゃ、冬物が一切ない人だったらそれも有るかもだけど。
夜がめっっちゃ寒いし。
でもさぁ、おかしいだろ。
同じく閉じ籠もってた私も風呂入って洗濯機まわしてたのに。
もう、この204で(入る前からか)精神のアップダウンが激しすぎて、セルフツッコミも長続きしない。
疲れた。
何してんだろ。
どうなってんだろ。
結局、そこにしか行き着かないのに、疲れが半端なかった。
巨目さんがいなくなったら、部屋に戻って風呂入って寝よう。
風呂の窓に、ダンボールを切ったのを嵌めて、外から見えないようにして。
それで風呂に籠もる事が増えた。
シャンプー兼ボティソープの大容量買いをしていたが、姉は私のが気に入っていなかったのと、コンディショナーがなかったので、自分の分を別にセットで買っていた。
1人で使ってどれほど保つかわからないが、今のところ気にしないで風呂に入れて良かった。
もう最近、風呂しか楽しみがない。
”いや、めっちゃ食ってんじゃん!“
海上(引き籠もり)生活、始めに風呂に入れなかったのも、実は大きいかもね。
え? 私?
コンディショナー?
クエン酸ぶっかけるとなんとかなるよ。
帯電防止には何の役にも立たないけどね。
姉ちゃんのシャンプーコンディショナーはいい匂いで、温存しておきたいのだ!
使ってるけど。
だって使わないで死んだら(以下略)。
もう帰ろう。
もし、窓の外ギリギリで巨目さんがいたら怖いので、窓の方は後回し。
引き戸の隙間を再び覗き込み(やっぱり見えなくて)次に指先1本分くらい開けてみた。
ものぐさな私が、慎重に。
怖いよ~、怖いよ~。
何か自分に言い聞かせながら。
注射する医者みたいだな。
事前に『はい、チクッとするよ~。チクッと』みたいな。
あれ本当に恐怖か痛みか和らげるの?
今のところ効果を感じた事ないな。
いきなりブスッ!はショックか。
暴れて事故とかケガとか引き起こしたりするのもね。
……巨目さん多分、見えなくてもいると思うけどね。
いなくなる時あるのかな?
はーい、キッチンダイニングの外には~?
ん?
……いない。
次。
閉めて、あと1枚(?)互い違い(?)の引き戸も開けてみる。
上から風呂敷みたいのを被せてるストーブみたいな四角いのに座り。
そーっと、指先1本分。
やっぱりいない。
ちょっとずつ広げ、最後には首出して見渡した。
おんや?
これは、ホントに向こう側に回り込まれてるかもしれぬ。
また戸を閉めて物を避けながら窓に近づき、カーテン越しにゆっくり触って窓が開いてないか、確認する。
私にしては慎重な思いつきだ。
多分、大丈夫。
端から少しずつカーテンをめくって外を見たが、何と巨目さんはいなかった。
……屋上に上がって見下ろしてるとかじゃないよね?
私は断じて窓開けないぞ。
また部屋を横切り戸を開けて外を見る。
玄関も、開いてない。
滑り込めるように、戸を開けたまま窓際まで来たが、巨目さんはいなかった。
頑張って玄関のスコープから覗き、扉を開けてみる。
階段とかに入り込んでたらどうしよう?と思ったが、いなかった。
モジャモジャ抜いてもこの階段に入れないと思うけどね、大きさ的に。
今のうち!
思いきって部屋に戻った。
人様の部屋に上がったからか、部屋から出たからか。
私は少し大胆になった。
ずっと出てなかったベランダに出てみた。
もちろん巨目さんの不在を確認してから。
風が気持ち良かった。




