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暗がりトキメク

 


 なにこれ、自殺の準備みたい。

 怖っ。


 テキトーなイメージでビビっていると

 早知子(さちこ)が降臨して説教かましてきた。

 お怒りである。


 “サチ子、何てことを!貴方に自殺の準備なんてわからないでしょ、失礼よ。お向かいさんに謝りなさい。

 しかも不法侵入じゃない。盗人猛々しい、って貴方のことよ!”


 あ、はい。すみません。

 つーか暗くてやっぱり怖いです。


 “本当に反省しているの?口ばっかり”


 厳しいな、さちこ。あんたは何番目だよ?ホントに私の脳内なの?

 お母さんから飛んできてんじゃない?


 これはこれで怖いので、戸の隙間から様子を見ようとするが、光は一筋漏れるもののその他はわからない。


 電話なのに電話として使えない携帯電話をポケットから取り出し、室内を照らす。

 ちなみに懐中電灯のマークがなくなって、照らそうとしても光はあまり強くないので、ぼんやりしか見えない。画面の明るさだけだから。


 全く、ただでさえおぼつかない操作に環をかけて携帯が使えない。


 “さちこ、スマホだろうとなんだろうと自分の物をちゃんと使いこなそうとしてたら、もっと今何か出来たんじゃないの?”

 早知子はうるさい無視しよう。

 もう、ただでさえ暑いのに。

 汗ダラッダラ。

 でも出ない。


 なんかぼんやり見えてるって、もしかしてこのほうが怖い?



 巨目さんが戸越しにまだ見てるかもしれないので。

 うっかり背中で引き戸を開けないように、ゆっくり慎重に身体を反転させる。


 205(ウチ)と同じなら(多分同じ)4.5畳の部屋。

 205では『巨目さんと目が合っちゃった心臓どっくどっくパニック』によって、カーテンが落下したままのあの部屋だ。

 “落下はそうなんだけど、あれはお前が……”

 どした?早智雄(さちお)先進もうぜ?


 居住者の整理じゃなかったら、大家さんが夜逃げされてまとめた。それくらいしか想像つかないな。

 なんでこんな1室に?


 ぼんやり闇の中には、四角い物が多くある。

 本棚、タンス、冷蔵庫(多分電気入ってない)その向こうに衣装ケースを重ねて置いているようだ。はっきり見えないけど。


 生活必需品が詰め込まれてるけど、生活感がない感じ。

 暗いから?

 闇は最強に異質を演出できると私は知っている。

 “あんたが確立したみたいな言い方間違ってるからね”

 別にいいじゃん、沙智子(さちこ)

 実際明るいお化け屋敷とかないでしょ?

 沙智子(さちこ)は去った。

 馬鹿(わたし)を相手にしたくないらしい。


 怖いのに1人で探索する。

 “さちこ、あんた元々1人。”

 早智子(さちこ)が言う。


 私は物心ついた頃から妄想が常に片隅にあったが、それ以外にも(これは誰でもあると思うが)自分で自分にツッコミ入れてたりした。

 それが混じって錬成したのか、単なるツッコミどころか第2~6サチコまでくらい、プラス男キャラまで脳内で話すようになってしまった。

 ここ数日で。


 一人暮らしは独り言が多くなるとは云う。


 でもまさかここまでとは。



 やっぱり私には会話する相手が必要かもしれない。

(この暗がりの向こうの光の中の巨目さんは除く)


 その時、閃いた。


 巨目さんを怖がるのは勿論、私だけではないハズだ。

 もしかしたら、ここの住人は巨目さんを避けて、この部屋に閉じ籠もったのではないか?!


 突然興奮して、熱くなってきた。


 まさか!


「誰かいますか?」


 波の音しかしない。


「205の伊藤です」


 やはり応答はない。

 興奮してて気づいてないかもしれないが、誰かがこちらをうかがったり、注視している気配はない。


 “絶滅した恐竜が仲間見つけた時みたいだね”


 佐知子(さちこ)が見た事ない場面で、私の興奮を例える。


 中学の頃、告白しようと待ってた時だってこんな緊張と胸の高まりはなかったと思う。(記憶自体が遠すぎて擦り切れてるが)


 ドキドキして何故か胸に手を当てていたが、汗ばむそれを解いて左手側のタンスに寄った。

 1人だったら『狭いな、物多いな』で済むが、人がいたら間に空間が必要な気がしたのだ。


 左手に何か触れた。


 カチャ、とプラスチックのような手触りであまり重くない。

 つい持ってしまったのでスマホで照らして見ると、デンキつまり電灯のリモコンだった。

(デンキつけて、って明かりの事言うの普通だよね?)


 ウチにあるなら他の部屋もあるだろう。

 違ってもそれだけなんだけど。


 ただ、当たり前の、いつも通りの物を目にして、ふと醒めた。

 暗くて狭い中で興奮していた事実に。


 この狭い中でずっと黙ってるとか、ないでしょ。

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