浮かれ日
朝、目が覚めるとなぜか枕が濡れている。
こういうことが私には、時々ある。
見ていたはずの夢は、毎テーマ楽しみにしていたホテルビュッフェで、知らずよだれが出てるほど安穏ときらめきと喜びに溢れている。
ただ、金さえあれば満ち足りる事が出来た場所は遠く、失ってしまったという感覚だけが、目覚めてからは強く残る。
そういう食欲が戻ったのはあの日。
巨目さんに見られずに外に出れる喜びを知った日。
あの時から、私の日々が、日常という一定の平穏に戻ってきた。
あれから何日か経った。
巨目さんは本人の意思(?)なのか可不可の問題か、アパートの先何メートルかまでしか近づかない。
デカイから十分怖いけど。
いや、怖いのはデカイからだけではない……。
完全に海面下にいる時は下をスイスイ通っているけど。
こんな風に、少しは冷静になれるのはベランダに出るようになったからだと思う。
私の持論「よどむ事は良くない」
窓、カーテン、閉めっぱなし。日にも当たらず。
ホント、よくやってたな、私。
風呂だけでも結構ストレス解消になったのか?
またやりたくはないな。
そのうちに巨目さんルールがわかってきたたので、ベランダに出て巨目さんが出ても、しゃがみこんで居留守(?)使ったりもした。
私は多分浮かれまくっている。とても。
さて
本日、雨です。
この海上で初めて。
洗濯とかするとホントに晴れのありがたみを感じるよね。
ちなみに海上では洗濯物が飛んでくので、室内干しです。
網戸が砦になってくれるかもと思ったら、風強すぎて洗濯物が飛んでなくても勝手に網戸開いてた。
今日は頑張って1階に行ってみようと思います。
雨は結構降ってるから、ベランダも濡れてる。
ベランダよりは同じく半外(?)でも階段のほうが、濡れないでしょう、多分。
心臓がばくばくする。
私はもしかしたらまだ住人同士の争い妄想にビビってるかもしれない。
あのトキメキは何だったんだ?
今回の1階は海面に近く、つまり巨目さんに近く、確認を第一とし、撤退を躊躇する事はないと誓います。
いったい私は人にいて欲しいのか、いたら怖いのか。
結論から言うと住人はいなかった。
104は上の204と同じ状況だった。
まぁこの辺は後に語りましょう。
次にウチの下の部屋へ。
105は以前、挨拶に何度伺っても出てきて貰えなかった。 (考えたくはないが)拒絶されるの凹む。
緊張して声も大きくしたが、多分、不在。
うんともすんとも応答なし。物音なし。
なにやら扉のデザインが違う気がする。
が、自信ないのでスルー。
この状況で不在という言葉は間違いかもしれないが。
ノックして、失礼しまーす、と開けた。
ら、なんと。
畑でした。
“……さちこ、ボケとかいらないの”
違うし、早智子現実を見ろ!
扉を開けたら、室内なのに畑だった。
壁も窓もある。
カーテンはないけど蛍光灯もキッチンも備え付けのまま。
しかし床は、土。
畑。
ウネも作物もある。
なんじゃこりゃーー!
手を伸ばせばすぐなので、台所のシンクの蛇口ひねったら水は出た。
部屋の共通点を探しても、もはや比較しようもないが、何か確認したくなる。
さっきまでの無人部屋、パンチ少なかったんだな。
どんな日本語?
いやパンチされたいんじゃないんだ。
謎レベルが予想の斜め上だったが、土の上、多分小さなタタキだったスペースに踏み上がった。
上がったついでに靴先で土を少し掘ってみたが、床が出てきそうになかった。少なくともあるべき高さには。
数日前から全てが謎だが、住人さんの趣味ではないと思う。
畑だから出てこれなかったとかじゃないと思う。
誰の趣味の、何の意味が、とかは全謎のままだけど。
壁や仕切り(?)というか間取りは、どの部屋とも共通していた。
この部屋の床は全て畑だが。
トイレ等の小さな場所まで畑。
つい癖でトイレ(の位置にある畑)に入る前に蛍光灯のスイッチを入れたが、ついた。
……植物に、使うの?
植物が使うの?……畑から抜けてよじ登って?
考えるの止めよう。
作物の違いはほとんどわからなかったが、部屋ごとに違うようだった。
そしてリビングへの引き戸を開けて(引き戸や壁は白いままある)また驚いた。
壁と窓に囲まれた畑の中に、農作業用らしき小さな小さな小屋があった。
驚きに呆れが混じってきた気がする。
小さな小屋はガラスか何か透明の壁で、白く塗られた木で組まれてた。
小さい温室にも見える。 かわいい。
でも植物を中に置いているように見えず温室ではないし、作業小屋にしては物も置いていない。
その中には、何故か下へと続く階段があった。
海上に浮いてて1階で、更に下へと続く階段とか意味がわからない。
やはり白く塗られた金属の手すりがあり、土の地面から下へ、真っ直ぐ階段が伸びている。
この小屋はこの階段のためにあるようだ。
どうしても気になり、その階段を降りる事にした。
カン、カンと鳴らしながら降る。
履いてるのはスニーカーで、わざと鳴らさなくても響くから、そういうよく音のでる素材なんだろう。
非常階段みたいな階段を、降りきる底に何故かまた畑……
に、
畑に指が生えていた。




