アップデート1日目2
『仁、チュートリアル終わったから、こっち来て。』
「どこにいる?」
『えーっと、噴水の前。』
「分かった。」
錬金小屋でちびアルクと調合を行っていると、加奈からチャットが来た。
それにしても、このちびアルク。ヤバい。
買って来たお菓子、全てあげてしまった。合計1000G近くしたのに・・・
孫娘を甘やかす、祖父ちゃんの気持ちが分かってしまった。
俺、まだ大学生なのにな。
・・・・・
「仁~!こっち!こっち!」
大声をあげて呼ぶ、銀髪の女の子がいた。加奈だ。
周りの人が、こっちを見てくる。恥ずかしい。
「ちょっ、大声で呼ぶのやめろ。こっち来い。」
「えー。」
口を尖らせる加奈の手を引っ張り、北の草原を目指す。
――北の草原に着き、人が少なくなった所で手を放した。
改めて、加奈を見る。
銀髪をポニーテールにして、眼は緑色だ。
加奈は兄さんとよく似ているが、配色まで似てしまうとは・・・
加奈と兄さんは父さん似、俺は母さん似なので、俺と加奈の顔つきは全然違う。
美形の加奈や兄さんと違い、俺の顔は平凡だ。
名前は【カナカナ】となっている。
服装は、武道家だ。体にぴったりとした服に、ひらひらの上着を着ている。
「よーし、今から狩りをしよう。」
「はーい。」
「それじゃ、まずはスライムだ。」
俺が近くにいたスライムを指さすと、加奈は走って行った。速い!
スライムまで到着すると、ボコボコとすごい勢いでスライムを殴っている。
ダメージは、ほとんどが1だ。
偶にクリティカルの音がして、3ダメージ入っている。
ものの5秒ほどで倒して帰って来た。
「あー、楽しかった。」
加奈はご機嫌だ。だが、俺は気になる。
「お前、移動と攻撃速度、速くないか? 攻撃力は低すぎるし。どんなステータスにしたんだ?」
「えーっとね。AGIとLUCKに半分ずつポイント振って、あとは全部1ポイント。」
コイツ! 極振りしやがった!
「おまっ! 何でそんなステータスにしたんだよ!?」
「だって、速く走りたいじゃない!それにLUCKが高いと、レアアイテム出やすいんだってさ。」
「・・・分かった。それじゃ、どうしてAGI型が有利な【軽業師】にしなかったんだ?」
「直接モンスターを殴れた方が楽しいでしょ?」
どうやら、俺の妹は戦闘狂だったらしい。
加奈のHPが半分くらいに減っている。
始めて間もないので、攻撃を食らってしまったみたいだ。
極振りしたせいで、HPは紙のようなものだ。
「これ、使えよ。」
「何? これ?」
「ポーションだ。上のコルクを抜いて、中の液体を飲め。」
「ふーん。」
加奈は言われるがまま飲む。HPが全快した。
俺が渡したのは、最初に作っていた初級ポーション(ランクF)だ。
今の加奈なら、これで十分だ。
・・・あれ? そういえば、加奈、普通に飲んでるぞ。
ユージが、ポーションの味が変わると言ったのを思い出す。
俺も同じ初級ポーション(ランクF)を飲んでみた。
――薄い緑茶の味がする。美味しくはないが、普通に飲める。
初級ポーション改の方はどうだ?
「ちょっと、これ、飲んでみろよ。」
「えー……ちょっと!こっちのが美味しいじゃない。こっち先にちょうだいよ。」
「お前、貰っといて図々しい奴だな。それ、さっきのポーション10個分以上の価値があるからな。」
俺は、文句を言いながら、加奈に初級ポーション改(ランクS)を10個渡した。
自分でも飲んでみる――美味い。以前と変わらない味だ。
「ねぇ、仁。もらったポーションどうやって取り出すのよ?」
加奈が手を閉じたり開いたりして、「ポーション!」と唱えている。
メニューボタンの使い方が分からないらしい。
「お前、チュートリアル受けて来たんだろ。メニューの開け方教わっただろ。」
「仁に聞けばいいやと思って、聞き流してた。」
こいつ、完全に人頼りだ。
「左上の中空にメニューって文字が薄くあるだろ。それに触れて、アイテムって書いてある文字を・・・って、何笑ってんだ?」
「いや、だって、下手なパントマイムみたい。」
加奈がくすくす笑っている。
相手からは自分がメニューを操作している画面は見えない。
今まで当たり前だと思っていたが、知らない人から見たら変な行動だろう。
「いいから、言われた通りやってみろ。」
加奈にやらせると、ポーションを取り出すことができた。
確かにこれ、傍から見ると変な行動だな。俺も笑った。
・・・・・
・・・おかしい。
加奈がさっきからレベルアップしまくっている。
ファンファーレが鳴りっぱなしだ。
「加奈、レベルアップするの速くない?」
「仁、知らないの? 今週新規の人は、経験値2倍なんだよ。しかも、私18歳以下だから、1日2時間しか入れない代わりに更に経験値2倍。だから、仁の4倍の経験値がもらえるのだー。」
加奈は「のだー。」と言いながら、兎を殴り続けている。
経験値4倍かよ!
これは、今週中にレベル抜かれるんじゃないか?
戦闘中に、「助けて! カナカナさん」って呼ばなくちゃいけなくなる?
そんなことを考えていたら、加奈の倒した兎から、白いアイテムが落ちた。
兎の毛皮? ・・・違う! アクセサリーだ!
「【兎の尻尾】?」
「レアアイテムだ! それ!」
何てこった! 早速レアアイテムゲットしやがった。
これがLUCKの差か・・・いや、俺と加奈のレベル差ならLUCKは大差ない。
これは、リアルラックの差だ!
「ふふっ。どう?」
加奈がアクセサリーを付けた。
お尻の部分に、服の上から白い小さな兎の尻尾が生えている。
女性ならいいけど、これ、男性はどうなるんだ?
「ああ、よく似合ってるよ。」
「このアクセサリー、アイテムがドロップしやすくなるんだって。」
更にレアアイテムを求めるのか。




