アップデート1日目3
ピィーィィィ・・・
俺達は、北の森の中に来ていた。
加奈のレベルがだいぶ上がって来たので、草原では物足りなくなったのだ。
目の前に芋虫が現れた。
加奈に「やるか?」と目で合図すると、ぶんぶんと首を振っている。
そりゃそうだよな。こいつを素手で殴れるなら、これからの虫退治はすべて加奈に任せる。
虫は俺が焼き払い、加奈はウルフを倒していった。
ドロップアイテムが出やすいのは加奈だけかと思ったが、そうではない。
俺が倒しても、糸や毛皮が手に入った。
シビアなドロップ率は改善されたようだ。
ただし、俺はまだ一度もレアアイテムは手に入れてないが。
「う゛っ……」
加奈が背中からぶつかって来た。どうしたんだ?
振り返ると、どや顔をしているビートルと目が合った。
コイツに後ろから体当たりされたのか。
俺が一人で納得していると、「こんのー!」と言いながら、加奈がビートルを追いかけ始めた。
あのカブトムシは、殴れるようだ。
しばらくすると、「んふーっ!」と加奈が鼻息を荒くしながら帰ってきた。
無事倒せたらしい。
アオーンッ!!
近くでウルフの遠吠えが聞こえる。
前方をよく見ると、ウルフの群れが見えた。
でかい! 一番後方にいるウルフが、他の3倍以上の大きさがある。
フィールドボスだ!
これは俺と加奈だけでは対処できない。逃げよう!
「加奈、転移石だ。逃げよう!」
「転移石?」
そうだ! こいつ初心者だった。
今からアイテムを渡す時間は無い。追いつかれる方が先だ。
「俺が食い止めてるから、先、逃げろ!」
「え・・・うん、分かった!」
加奈はウルフと反対側の方向に走り出した。速い。
あれなら、運が良ければ逃げ切れるだろう。
俺は、自分がターゲットになるようにファイアーボールを撃ちながら、左の脇道へとウルフたちを誘導して行った。
・・・・・
『仁、大丈夫ー?』
「おう、今神殿にいるから、そっちへ向かうよ。どこだ?」
『北門のとこー。』
あの後、すぐにウルフ達に追いつかれて俺は倒された。
転移石を使う間もなかった。一瞬でHPバーが溶けた。
所持金が半分になっている。
ほとんどはギルドに預けてあるが、5000G近くを失った。トホホ……。
――北門へ向かうと、加奈が手を振っていた。
どうやら、きちんと逃げ切れたようだ。
冒険初日からあんな大量のウルフに噛まれたら、トラウマになりそうだからな。
逃げ切れてよかったよ。本当に。
「仁お兄ちゃん。ありがとうね。」
「ああ。加奈が無事でよかったよ。」
「くそー。あのワンコロめ。今度会ったら、とっちめてやる!」
「間違っても、フィールドボスに一人で突っ込むなよ。」
コイツなら、やりかねん。兄さんなら、やりきりそうだが。
「SEOは戦闘するだけが楽しみ方じゃない。他にも、釣りだとか、BBQだとか・・・」
「BBQ・・・? 仁、誰かとBBQしたの?」
加奈が小首を傾げながら聞いてくる。
しまった! 兄さんに口止めされてたんだ!
「ああ、いや・・・うん、昔の知り合いとBBQしたんだよ。偶然出会ってね。」
「ふーん・・・」
加奈の目が半目になっている。
コイツ、妙に鋭い時があるからな。嘘をつくと、一発でばれる。
今回、嘘は言っていない。ただ、腑に落ちてはいないようだ。
「そうだ! 今度、美味しいケーキ出す喫茶店に連れて行ってやるからさ。な。」
「・・・まぁ、いいけどね。」
何とか誤魔化せたか?
そういえば、リコにも同じようなこと言ったっけな。
一緒に連れてってみるか。年も近そうだしな。
そんなことを話していると、いい時間になったので、俺達はログアウトした。
・・・・・
「ただいまー。」
今日は、夜のバイトだった。
普段なら、もうリビングの明かりは消えているが、まだ点いている。
テレビの音もしているし、誰かいるようだ。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「・・・おう、おかえり。遅かったな。」
父さんと母さんだった。
父さんの手元には、お酒の入ったグラスがある。
こんな時間まで飲んでるなんて、珍しい。
「今日仁はバイトで遅くなるって、さっき言ったでしょ?」
「ああ・・・そうだったかな。」
顔が赤い。父さん、どうやら大分飲んでいるようだ。
テレビで、SEOのCMが流れだした。
「仁、最近流行っている、あの、ぶいあーるゲームとかいうの、面白いのか?」
「・・・うん。おもしろいよ。」
急にどうしたんだ? 父さん。
「今日なんかイベントがあったんだろ?会社の若い奴等が、前よりも大勢休み取っていてな。」
「ああ、うん。」
イベントというか。今日はアップデートの初日だ。
第2陣の人が増えたから、人数もいつもの10倍位いた。
「今日は部長がいたから、大丈夫だと思ったんだ。そしたらあの人、今日午前だけの出勤だったみたいでな。俺は『こんな忙しい日にどうしたんですか?』って聞いたんだ。そしたら、どう答えたと思う?」
「うーん、全然分からないや。」
「『”屋台”を買いに行く。』って言いだしたんだよ。屋台! いったい何をする気なんだ? あの人。」
どうやら父さんの会社の部長さんは、だいぶ破天荒な人らしい。
確かに屋台を買ってどうするんだろう? 父さんの会社って飲食店の経営もしてるのかな?
「この間は急に『釣りがしたい。』とか言い出すしさ! 道具引っ張り出すの大変だったよ。」
「家中、引っ掻き回してたわね。」
母さんは、父さんにお酒を継ぎ足している。
それ、もう飲ませない方がいいんじゃないか?
「・・・そういえば、仁。お前は釣りに連れてったことなかったな。今度行くか?」
「え!?」
釣りはこの間、SEOでやった。
結構楽しかったし、実際行けるんなら行きたい。
俺は黙って頷く。
「よし、じゃぁ、次の日曜日にでも連れてってやるか!」
「あらあら、それじゃあ私は、家で魚が釣れるのを待ってますね。」
母さんは行かないらしい。
やった!
SEOで釣りまくった、俺の腕前見せてやるぜ!
俺のことを初心者だと思っている父さんを、驚かせてやろう。
俺は内心でほくそ笑む。
「朝4時に出発だからな。」
「え゛……。」
次回 ラーメンを食べる話の予定です。




