第八章 ローズ
快晴と共に咲く庭のバラが美しい
ふたばの母澪花がバラの手入れをしている
その下でローズは丸くなって休んでいる
ふたばは日頃の疲れが取れ無いままの仕事で体調を崩し、今日は仕事を休んだのであった
リビングの窓を開けるとバラの甘い香りが良い匂い
ふたば「お母さん、おはよう。バラ見事に咲いたね」
澪花「おはようふたば、体調大丈夫なの?綺麗でしょ。お母さんみたいに」
ふたば「フフフ、ねぇねぇお母さん。ローズがそこで寝てるから枝には気をつけてやってよね。」
澪花「それは言われ無くても分かってるわよ、ねぇローズちゃん」
ローズ「ニャ~」
澪花「鍋に雑炊作っておいたから食べなさい。ふたば、今日は家でゆっくり休みなさい」
ふたば「はーい」
楓は学校へ、楓太はバイトから帰って寝ている
ふたばは雑炊を食べてまた寝る事にした
そしてローズは背伸びをし空を見上げて、安心したかの様に鉄格子の扉の破けた穴から異世界へと向かうのであった
晴れた失念島にも白いバラが咲いている
バラに水あげをしている女性
花陽である
花陽は阿佐田鉄工所の1人娘である
花陽「今年も綺麗なお花を魅せてくれてありがとう。直也バラが綺麗に咲いてるよ」
直也(夫)「お〜見事に咲いてるね、美亜、今日は鏡太郎君と麦の収穫へ行って来るよ」
花陽「はーい、行ってらっしゃい。私は昨日貰って来てくれた魚を日乾ししてから輪蔵さん家へ行って来るから」
直也「輪蔵さんが作る醤油は美味いんだよな」
花陽「そうね、その醤油で食べるお刺身は美味しいんだよね」
直也「行って来ます」
花陽「行ってらっしゃい。」
花陽(今日は天気が良いし、猫ちゃんやって来ないかな…最近ずっと顔出して無いし…)
花陽はいつ来ても良いように猫の為に魚を縁側の下に置くのを日課にしていた
最近は天候は悪く、猫に会えないのを心配していた花陽であった
猫に会ったのは3年前に遡る
縁側で洗濯物を干していると、バラの木の下で倒れ込んでいた一匹の白いお腹の大きな猫を見かける
花陽は敢えて声を掛けずにそっと見守って見ている事にした
そして暫くすると3匹出産したのであった
茶色、白色、茶白色の子猫であった
母親猫に花陽は毎日ご飯を与えていたのだった
そしてある日、天候が悪く荒波が押し寄せ
氾濫をしてからというもの…猫達が寄り付かなくなり猫達の消息を気にかけていたのだった
その1年後、バラが咲き始め暖かな陽気に包まれた朝
縁側の窓を開けると、1匹の白い猫がバラの木の下で眠っていた
花陽「君はあの日の子猫ちゃん…!」
それからというもの縁側の下に毎日欠かさず魚を置いていたのであった
猫は毎日は来ない為食べに来ない時は、港に出向き
猫達に魚を与えていた
白い猫は段々と大きくなって来ると1週間に2回、1回と訪問が減って来ていた
その白い猫は、毛並みがいつもツヤツヤしており、爪も手入れされていて首輪もしている為飼われてるのだろうと思っていたが、毎度花陽を頼って来てくれるのが嬉しいのであった
花陽は魚の日乾しを始める
すると、待っていましたと白い猫が早速現れた
その白い猫とは
七瀬家のローズである
ローズは
縁側の下に潜り込み早速魚を食べ始める
花陽「よしよし、良い子良い子」
するとバラの木の下で丸くなるのであった
まるで家族を思い出すかのように安心した表情を浮かべる猫…
この場所で僅かな温もりをその場で感じられている様子に見えるのであった
花陽(この子はきっと記憶を辿っている…そして記憶を戻したいと感じているのだろうか…でも…私には記憶は…
も…もう…無いのだ!亭主関白で厳しかった父、いつでも父には従順な態度で娘の意思を聞く耳を持たなかった母の事を思い出した所でどうだろう。何も変わら無いだろう…出て行った事後悔なんてしない!幸せになってやる!…って気持で「佐滝竜二」とここへやって来たんだ)
花陽は、鉄工所で15歳離れた歳上の竜二と恋に落ちたそして結婚を前提にしていたのだが父は許してくれるわけは無いと思っていた
母も父の言う事を聞き、味方してくれる訳では無いだろうと2人へは話さ無かった
花陽は自分らしく生きたかった
水族館でイルカの調教師になりたいって
思った時もあったのだ
竜二は竜二らしくありのままの花陽の気持を受け入れてくれていた
花陽が失念島を知ったのは、飛龍家の土地を囲むのにフェンスを父親と建てている時だった
その時飛龍家の次男が、荒野の中を自転車で走り抜けて行く…そして間もなく消えていった姿を目の当たりにしたのだった
それを思い出しある夜、荒野の先を進んで行く事に決めた花陽であった
真っ直ぐどこまでも歩いて行く…
すると蜃気楼の様にモヤモヤとした山道が見え…段々近づいて行くと鴨の鳴く声、遠くから波の音、船の音が聴こえて来たのだった
そして、眩しい光に包まれてはっきりと見え到着した場所は坂道だった
後ろを見ると林の中だった
花陽は異世界と繋がっているんだ!と直感したのだった
坂道を下れば集落が見える
更にその先には海があり船が浮かんでいた
その光景を数分間眺めた後また元の道を戻って行く…
そして家へと戻り何事も無かったかの様に過ごしたのだった
竜二は花陽の言う事は信じてくれていた
そして、花陽はその場所で竜二と新しい生活をしたいと思ったのだった
フェンスの設置が完了してから度々島を訪れるようになった花陽と竜二は、この町を出て島へ住もうと考えるようになる
そして、竜二には後で落ち合う事を伝え花陽はこの島に先に移り住む事になったのだ
そして、数カ月後竜二もこの島へやって来る
そして今に至っている
勿論青い水を飲まされたが、記憶が抜ける事は無かった
でも、自分の過去をここで話す事は厳禁でありそれがバレるとどうなるのかはわからない
ただ平然を装って生活していると何故だろう
苦痛を感じ無くなって行く
厳しかった父の面影、母の愛情でさえ忘れてしまう
何か足りない事だらけの島での生活でも、竜二と居るから辛く無い
寧ろ幸せだと思えてしまっている花陽
ただ、両親を置いて出て来てしまった事に対しては心の中に引っかかる物があった
花陽と竜二が抜けた後も鉄工所は続けて行ってるのだろうか?
両親は元気に過ごしているだろうかと…。竜二には話せ無いが思いふける事はあるのだった‥
花陽(輪蔵さん家に行かないと…)
バラの下で横になっているローズを眺め、花陽は醤油造りへ向かうのであった
体調不良で寝込んでいたふたばは、昼下がりの暖かい陽気に起き上がり、再びリビングへ
澪花が作ってくれた雑炊をレンチンして食べていた
ふと、ソファを見ると楓太がソファで横になっている
ふたば「ふう、そこで寝てると風邪引くよ!部屋に戻りなよ」
楓太「バイトでクタクタなんだよー!立つのもめんどくせー」
ふたば「もう、勝手にしな、そういやローズは?出かけたのかな?」
楓太「俺帰ってからもう居なかったよ」
ふたば「じゃあ明日まで帰って来ないかぁー」
楓太「そうそう、アネキ覚えてる?ローズが始めて家にやって来た時」
ふたば「楓が連れて来たんだっけ?」
楓太「いや、違う違う。隣近所のおじさんが子猫のローズをくれたんだよ」
ふたば「えっ!そうだったの?私就職仕立てで全く気にならなかったんだな~知らなかった」
楓太「それでさ、あのバラの木って元々無かったんだよな。いつの頃から芽吹いて成長して…でいつも晴れた日はあのバラの下で寝てたよな。だからさローズがバラを咲かせてくれたんじゃ無いかって思うんだよ」
ふたば「そうなんだね。てっきりバラが咲く下で寝てたからローズって付けたけど、それって後づけだったんだね」
楓太「楓が子猫の時にミルクって名付けてて、いつの間にかアネキがローズに変えたって事だよ」
ふたば「あ〜そうだったのね」
楓太「まあ、ミルクよりもローズって声掛けた方が返事は早いからね‥ローズの方が気に入ってるんだと思う」
ふたば「何だかいつもすれ違いの弟と久しぶりに話せて良かったよ!よし、今日はピザ注文してあげる。アネキの奢りでね!」
楓太「よっしゃー」
ふたば「ただし、楓が帰ってから注文するからね」
楓太「はーい」
その頃友希は、早番で帰宅し真守の部屋へ
真守は熱は下がったのだが、食事や水分を摂ろうとせず目を閉じ黙りこんでいる
友希「お兄ちゃん、少しでも食べたり飲んだりしてよ」
真守「…」
友希「お兄ちゃん」
真守「うるさいなぁ」
友希「怒る事無いじゃん」
真守「…君は誰、僕は…?キンザンカ、キンザンカ…」
友希「えっ?何、お兄ちゃん、お兄ちゃんは、真守お兄ちゃんだよ。私は妹の友希だよ〜!お兄ちゃんしっかりしてよ〜」
友希は真守を揺らしながら泣き喚くのであった




