第四章 阿佐田鉄工所
ふたばと友希は喫茶店を出るとまた東の鉄格子の扉へ向かって歩き出す
住宅街から小学校へと繋がる
ふたば「この小学校は楓真や楓が通っていた学校ね」
友希「そうなんだね!ふたばは一度も行かなかったの?」
ふたば「言ったじゃん、私は15歳の時ここに越して来たからさ小学校は通って居なかったのよ」
友希「あっ、そっかそっか…私は第1小学校だったから全く知らないわ」
小学校の門前に到着
日曜日なので門は閉ざされている。
ふたば「裏口に周れるかな?」
友希「いや、ここで学校の中に入ったら住人に不審者として通報されるかもしれないよ」
ふたば「あ〜そっか…私の頃は自由に校内へ入れた時代だったのかもね。今は難しいよね」
友希「楓真くんに聞いてみたら?扉があったかどうか?楓ちゃんでも良いし…」
ふたば「そうだね、友希冴えてる〜、楓真起きてるかな?楓真に聞いてみよう」
ふたばは弟の楓真に電話を掛けてみた
(プルルルル、プルルルル)
楓真「ん、何?朝から。深夜バイトでクタクタ何だけど」
ふたば「あっ、ごめん…楓真がバイト始めて居たなんて知らなかったよ、お疲れさま。あのさ、どうでも良い事何だけどさ」
楓真「どうでも良い事なら掛けて来ないでよ。眠いんだよ!」
ふたば「いいからちょっと聞いて。楓真の通った第3小学校の前に来てるんだけど・・校舎が閉じてるから入れ無くてさ、この学校に鉄格子の扉ってどこかにあったかなぁ?」
楓真「アネキ〜そんな事で電話して来ないでよ。体育館の通路の方に開かずの扉があったのは覚えてるけど。その先は家と変わら無い無法地帯でしょ。そんなの誰も気にして無かったけど…まぁ変わり者のアネキが気にするのは間違いでは無いかな!ははっ」
ふたば「フン、失礼な!そうなんだ、体育館の通路の方にあるのね、ありがとう。じゃあゆっくり休んでね〜バーイ」
友希「体育館の方ね、分かればここは行かなくても良いかもね」
ふたば「まぁ小学校の鉄格子を開けてまで荒野に出る事を考える人なんているわけ無いかな。まぁ私もローズが荒野へ向かって行く姿で気になったぐらいだし」
友希「あの島へ向かった動物達も生きるか死ぬかの運命かもしれないからね」
ふたば「うん、うん、でも少なからずローズは島人から気にいられて居るんだと思うけどね」
友希「東の鉄格子の扉の管理をしているのは職員室かもしれないね。ここは良いよね」
そして2人は南へ向かって歩き出す
車の行き交う様子が増え、人も増えて来た
そしてまた住宅街に入りその先を抜けると「阿佐田鉄工所」という工場へと到着する
ふたば「小学校からだと300メートル先だね、ここが南側付近かな?こちらの鉄工所も今日は休業日みたいだね」
友希「あっ、ここ知ってるよ!中学生の頃お世話になったの!ふたば覚えて無い?私がチャリ通の時さ途中でパンクして学校休んだって話。あの日この付近でさパンクしちゃったのをここの鉄工所のおじさんに直して貰ったんだよ!あれから10年かぁ~。懐かしい」
ふたば「そんな事あったんだ。知らなかったよ」
友希「鉄工所の向い側が本宅だったような?ほら、阿佐田って表札があるよ!あの時のお礼しようかな…」
ふたば「今さらでびっくりされないかな?まぁ、でも良い機会だし挨拶してみても」
(ピンポーン。)
友希「おはようございます」
インターホンを押す
阿佐田家女性「あーはいはい、どちら様でしょうか」
友希「私以前パンクした自転車を直して頂いた事がありまして、両親はお礼に伺っていたはずだと思いましたが、私はその当時直接お礼出来てなかったので…今さらですが」
阿佐田家女性「あ〜そうなんですね。ちょっとお待ちくださいね」
ドアが開くと見た所60代の女性夫人が出て来た。
笑顔はあるが、憔悴した表情も浮かべている
夫人「おはようございます〜、あら、よく見れば覚えてる。あの時の子ね、随分大人になったねぇ〜、あの時貴方にはそこのリビングで待ってて貰っていたけわね……うっうっ、あらごめんなさい。ついつい思い出したら涙が出てきちゃって…」
友希「何かお辛い事があったんでしょうか?思い出させてしまってごめんなさい」
夫人「実はね…あぁそうそう、あの日は娘にパンクの修理を主人は教えながらさせていたんだっけ。時期阿佐田鉄工所を受け継がせるのに主人は必死でしたよ。鉄工所の作業とは無関係な物でも、些細な事でも従順であれ。と言うのが亡き主人の信念でした。今は娘は5年前に出て行き何処へ行ってしまったのか…行方は知らず…何で顔を見せてくれないの!…ごめんなさい、うっうっ、貴方達に怒ってるわけでは無いから」
ふたば「ご主人が他界された事、娘さんが行方不明な事はとても辛く心配ですよね‥」
夫人「今はもうお店は閉めてしまったの。私は遺族年金と…僅かな資産で犇々と生活してる。でも貴方達にこうやってお会い出来て何だかとても幸せな気持ちです」
友希「もしよろしければ娘さんのお部屋見せて貰いたいんですが…」
ふたば「友希ッ、もう図々しいんだから」
夫人「娘の部屋へずっと入って無かったから出て行ったままの状態になってるけど…良いですよ」
友希「ありがとうございます」
ふたば「すみません、いつもこうなんです」
夫人「喧嘩しないでね。私は暫く貴方達みたいな娘の様な子達と話す事も会う事もしなかったんだけど・・何だか貴方達を見てると娘と会話してる様で元気出るわ。娘の部屋は2階の階段上がって奥だから後ろから付いてきて。あぁ鍵があったわ」
2人は階段を上がって娘の部屋へ案内された
鍵を開けると埃っぽく2人はムセてしまった
2人「ゴホ、ゴホ」
夫人「あら、ごめんなさい。いつかは娘が帰って来られるように掃除しておくべきだったわ。今窓を開けますね」
花柄のベッド、花柄のカーテン、年季の入った学習机、少女漫画が入った本棚、テレビ、ラジカセ、そしてイルカのぬいぐるみが処々に置いてある。
友希「イルカが好きだったんですね」
夫人「イルカがね、あの娘は昔から好きだったの。水族館のイルカのショーはあの娘が生まれてから20歳になるまで…ずっと3人でね観に行くのが定番だったの」
ふたば「どうして娘さんは出て行ってしまったんですか?」
夫人「鉄工所の後継にされるのは嫌って散々行ってたの。主人が後を継がないなら出ていけ!顔を見せるな!って怒ってね。私はその時主人を止めたんだけど娘は泣きながら荷物を少し持っただけで出て行ってしまったの。それからもう5年は経つのね」
ふたば「それは残念ですね。娘さんやりたい事が他にあったのでしょうね」
夫人「まぁね、花陽は周りからは美人だ。モデルになれるなんて言われていたしね…でもこのアルバムは残してくれていたなんて…」
本棚の端に入っているアルバムを夫人は取り出すと2人にアルバムを見せる。
夫人「生まれた時。3500gだったの。花陽が生まれたのは朝でね。太陽の下で育つ色鮮やかな花がとても綺麗でね、元気を貰えたの。そんな子に育つ様に付けたの。そしてこちらは幼稚園時代、遊園地に連れて行ったら乗り物が恐いと乗らなかったっけ…だからかな。水族館へは毎日飛び跳ねるぐらい楽しみにしてたっけ…そしてね…アルバムを捲って行く…その時」
ふたば「あっ、あれ?この人ってもしかして…」
ふたばはある人を思い出す。
(そう、あの日、あの島で会った女性。結婚していて、時期子どもを望んでいるって言っていた女性、あの人心なしか似ている。たしかに長身で美人だった)
夫人「花陽の事知っているんですか?」
ふたば「……この事を言っては良いのかと…躊躇いますが…お伝えしなくてはいけないと思いまして…」
友希「えっ、何、何?教えて、私も知りたいんだけど」
ふたば「実は、失念島ってご存知でしょうか?その島に花陽さんは住んでます。今はご結婚されています」
夫人「失念島?聞いた事は無いけどどこにあるんです?娘がいるなら私を連れて行って貰え無いでしょうか?」
ふたば「実は、この事は黙っていたかったんですが…あの島には記憶を消すという風習があるらしく、花陽さんももしかすると記憶を消されてしまったのでは無いかと思います」
夫人「記憶を消す風習!?危険な目にあの娘は遭ったのでしょうか!!」
ふたば「お会いした時は少なからずそう言った表情や不安を感じて居ない様子でしたが…寧ろその風習に従順されていた様子でして…」
夫人「どんな花陽でも花陽は花陽、花陽はなんとしても家へ戻したいです。どこにあるんですか?」
友希「簡単に行ける様な場所では無くて…監視されている様で…ならず者は捕らえられる可能性もあります。ただ私達が向かった時は島長にお会い出来たので逃げ切れましたが…」
夫人「そうなんですね。どんな危険な場所でも私にはもう主人には会えないし人生1人切り。私が生きている限りは娘を取り戻したいです」
ふたば「鉄工所に鉄格子の扉なんてありますか?」
夫人「鉄格子の扉はあります。あれは私達が東西南北に作ったんです。有刺鉄線も。今は亡き飛龍家の主人から建てるように頼まれて作ったんです」
ふたば「そうなんですね、あの先には下りた事はありますか?」
夫人「無いですが…娘がよく主人に連れてって貰っていたって記憶があります。行った所で何にも無いし飛龍家の土地ですしね。主人は飛龍家の主人とは仲良かったものだったので主人が亡くなりその後を飛龍家の主人が追いかける様に亡くなる…こちらも運命だったのでしょうか…」
友希「鉄格子の扉はよく出入りはされて居たって事はそこから花陽さんは出て島へ向かったのかもしれません」
夫人「あの先から島へ…?どういう事ですか?海も山も無い県から島へ行くなんて…どうやって…」
ふたば「信じられ無いと思いますが、あちらの荒野を進むと島へと通じているんです」
夫人「私には全く信じられません。夢でも見てるんでしょう?」
友希「鉄工所の扉を見せて貰う事は出来ますか?」
夫人「良いですよ…また付いて来てください」
3人は家を出て鉄工所へと向かう。鍵を開けシャッターを開けると機械が並んでいる。そして奥へと進み
裏口へ向かう。裏口のドアを開けるとそこには有刺鉄線と鉄格子の扉があった。
夫人「こちらが扉です。南京錠で固く閉ざされていて開ける鍵がですね……ありません。」
ふたば「鍵が無いって事は花陽さんはこちらから自分で下りて鍵を閉め向かわれたんだと思います。こちらの鍵が開かなければまた別の手段を考え無いといけません」
夫人「そうですか…後はこの南京錠を溶接して無理矢理外すしか方法は無いですね。」
友希「そういやふたばのお父さん溶接出来るんじゃ無いんだっけ?」
ふたば「うん、お父さんは出来るだろうけど理由伝えたら絶対止められるし…話せ無い」
友希「そっかぁ~」
夫人「あぁ、そうそう、従業員だった佐滝さんに連絡してみようかしら…主人が他界してからこの店を閉める事になって…佐滝さんには失業して貰ったの。一番主人の次に仕事が出来る人だったわ。電話してみるね」
女性は佐滝さんに電話を掛ける
夫人「あっ…もしもし……」
夫人はもう一度掛けてみるが電源が入っていない様だ。
夫人「ごめんね、佐滝さんに繋がら無いけど、また時間を置いて掛けてみるからね」
時計を見るともう昼下がりの15時、1日は早く過ぎて行く…
ふたば「奥様、また後程お伺いしますが約束して欲しいんです。この事はどうか秘密にして貰え無いでしょうか?」
夫人「秘密にはしたく無かったけど、秘密にしなかった事で娘に何かあるかもしれないって事で解釈して良いんですね」
友希「まあ、そう言う事です」
夫人「お二人はもう帰ってしまうのでしょうか?もし良かったら…2人に料理を作って食べて貰いたいの」
ふたば「私達は西側の扉を調べに行きたいと思ってまして…」
夫人「ここから西側の扉の鍵は剛角神社の神主さんが所有してるの」
ふたば「神社なんですね。そちらにも行った事は無かったです」
夫人「そこの神主さんはとてもって言うか気難しい方だから会ってくれるかどうかな…」
ふたば「そうなんですね。お詣りしたついでに顔合せ出来ればなと思います」
夫人「どうしても、今日貴方達にはご馳走を振舞いたいの、貴方達が神社に向かっている間に私は買い物をしてご馳走を作って待ってて…良いでしょうか?」
友希「私達は何もしてあげられ無いのに…お言葉には甘えたいですが…ふたばは?」
ふたば「私もお言葉には甘えたいです!では、神社に向かったらまた引き返させて貰っても良いですか?」
夫人「沢山作って待ってるから楽しみにしててね」
2人「楽しみにしています。では行って参ります」
夫人「どうかお気を付けて」




