第二十三章 母の味
前夜の話の事
病院からタクシーを手配し
花陽と佐滝竜二は家へ帰る。そして、八潮友希から鍵を受け取り家へ入る
久しぶりの実家だ
だが今は母親の扶美子の事が心配で、懐かしさを感じたいわけでは無かった
竜二が玄関の前に立ちつくす
入って良いのか躊躇っているらしい
花陽「入って良いんだよ」
竜二「あぁ…お邪魔します」
ドアの内鍵をし、ダイニングへ
テーブルにはいなり寿司と唐揚げがラップに包んで置いてあった
いなり寿司は10個、唐揚げは沢山皿に盛り付けてある
花陽(お母さん…は若い子達におもてなしをしようとしてたのかな)
花陽は胸を締め付けるような気持がした
竜二「花陽、どうしようか?」
花陽「…今更女の子達に声掛けるのもね…もう帰っちゃっただろうし、冷蔵庫へ入れておこうか」
竜二「冷蔵庫に入れるのは勿体ない。僕は頂こうかな。花陽も栄養摂らないと」
花陽「私は喉通らないよ」
竜二「でも、奥さんは食べるななんて言わないよ。昔、よく社長が夕飯を家でご馳走してくれた事あったよ。それも奥さんの手料理ばかりだった。花陽は同席しなかったよね。毎回部屋に閉じ籠って…その時も花陽の分って器に盛り付けて奥さんが社長達よりも先によそってたんだよ。そんな人が食べるなって絶対言わないと思うよ」
花陽「そうなんだ。私は捻くれてたかもね…食べようとしないで。皆が帰った後、お父さん達も寝静まった後キッチンに降りて来てカップ麺とかにしてたかも」
竜二「そうだったんだ…あっ、その前に社長(お父さん)に挨拶しよう」
花陽「お父さん……お父さん亡くなってたんだって…」
花陽は再び涙を流した
ダイニングの隣に和室がある
襖を開けると仏壇があった
現役時代の貫禄のある表情の父の遺影がある
目の前に花陽は座り父の遺影を見つめている
竜二は傍で暫く見守る事にした
蝋燭に火を灯しお線香を焚き始める
花陽「親不孝な娘が帰って来たよ。お父さん。なんで死んじゃったのよ!私を…どうして探してくれなかったの!」
竜二「社長…お父さん…ごめんなさい。帰って来なかったのは私のせいなんです。花陽さんを攻めないで下さい。花陽さんにはこの事実は伝えられなかったのです」
勿論仏壇は静まりかえっていたが、穏やかな蝋燭の火と線香の香りに包まれると2人は気持が軽くなる様だった。暫く座り込む2人だったが、竜二は丸テーブルを仏壇の前に運びそこにいなり寿司と唐揚げを運んだ。それに気付いた花陽も冷蔵庫から麦茶と容器に入った惣菜を見つける。
そちらをお皿に盛り付け扶美子の居ない4人で食事を摂る事にした。
花陽「お母さんの味、美味しい…」
竜二「奥さんの料理はいつも最高だったよ」
花陽「お父さん、竜二さんとの子が私のお腹の中に居るの」
竜二「社長…お父さん…これから花陽と生まれて来る子と…お母さんを僕は守ります。だから怒らないで下さい」
花陽「お父さん…ごめんなさい」
竜二「明日僕の実家から車を持って来るから」
花陽「そうだ。竜二のお義父さんに挨拶して無いよね。私も…恥ずかしいよね」
竜二「僕の場合は定期的に実家にも寄ってたから。その時に結婚してる女性がいる事は話してるから、花陽も海外出張だと嘘ついてた。ごめん…花陽の写真は見せてたから嘘では無いと信じてくれていたよ。兄弟も5人居るし気にして無いからね。大丈夫、直ぐじゃ無くて。落ち着いたら挨拶に行こう」
花陽「あっ、ちょっと待ってて」
花陽は階段を駆け上がる。そして数分後降りて戻る
花陽「竜二…ごめんね。今まで私は自分の存在を誤魔化していた事で沢山竜二に迷惑をかけた…これはね、私が残しておいたもの何だけど…どうか使って」
花陽は部屋へ上がってドレッサーの奥に隠して置いた箱を持って来る。
そして鍵を開けると通帳と印鑑が入っていた
竜二「…君のお金は使え無い。僕は好きでやっていた事だからさ。花陽は花陽で使えば良いよ」
花陽「えっ、そんなの出来無いよ」
竜二「これからの事、どうしようか?島の事」
花陽「お母さんの事考えると戻るなんて考えられ無い。暫くここにいたいって思うよ」
竜二「うん、それは僕だって同じだよ。今日はもう遅いから寝ようか」
花陽「うん、そうしよう。ここで布団敷いて私は寝るから」
竜二「分かった。僕はリビングのソファで休む事にするよ」
その日の夜…花陽は夢を見た。ダイニングテーブルに並ぶ料理を囲む大人達。そこには父と竜二と扶美子と子どもが食事をしている光景であった。何も語らない父は普段見せなかった微笑みを家族へ見せている
とでも幸せな夢であった。
♫♫♫♫〜
着信音が鳴る
扶美子の携帯からだった
音楽に気付いた花陽はすかさず出た
花陽「もしもし」
「蓮の木厚生病院です。阿佐田さんの携帯でお間違い無いでしょうか」
花陽「はい、娘の阿佐田花陽です」
看護師「阿佐田扶美子さんの意識が戻りましてご連絡致しました」
花陽「そうなんですね、母は無事でしょうか?」
看護師「痛みが強い様で鎮痛薬を使って安静にベットで休まれています。本日10時に病状の説明を医師が希望しております。御都合ありますか?」
花陽「向かえます。母と面会は出来ますでしょうか?」
看護師「医師に確認しないと分かりませんが、面会を希望されている事お伝えしますね」
花陽「ありがとうございます。よろしくお願いします」
竜二も花陽が電話越しで話ている姿を見て
仕度を始める
花陽が電話を切ると竜二は実家へ車を取りに行くと伝え出て行ってしまった
ふと歩いて竜二は実家へ行くのかと思った花陽は、ダイニングのカーテンをそっと開くと、竜二が鉄工所から自転車に乗って出て来る姿があった。
行き来するのに自転車も使っていたのだと
花陽は気付く
時刻は七時半だ
ちょっと掃除でも始めようかと花陽は考えた
フロアを掃除機をかけてモップで拭き上げる
洗濯をする
洗い物をする
そして窓を拭き上げる
ふと自宅電話機の上にある貼り紙を見つける
「未来都市開発」
花陽(工事を始めたってそういうことだったんだ…)
暫くその用紙を読む花陽であった
その後、竜二は実家から軽トラックを運転して戻る。トラックには自転車が積んである
自転車を鉄工所へ置いた所で
花陽を乗せ病院へ向かった
今回、扶美子から
許しを請いたいわけでは無い。今お腹に竜二の子を宿している以上最適な環境で出産をしたい。目隠しをしてどこかへ運ばれるなんて嫌だ!
島での環境は正直生活しにくい環境であった
ただ現実逃避をするには良い環境ではあった
でも、今は状況は一変としている
島を2人が出た事で大騒動になってるのでは無いかと不安はあるが、気がかりなのは母の事。母には早速辛い状況を作ってしまった
でも、花陽にはもう一つ気がかりがある。猫の事だ
毎回庭に寄りついてくれていたが不在の状況でもう寄り付かないかもしれ無い…
それまでの食事を与えられず、飢えてしまうのでは無いかと考えたりした
でも、島へ戻ってから極一般的な家庭の生活が出来るとは思え無い。きっとこれから戻るとなると良く無い展開が起こりそうだ
まあ、ここに戻った所で気付かされた事もあった
現実でかかる負担金を何も言わず竜二が納めてくれていた事
仕事をしてくれた事に対して頭が上がらない気持でいっぱいであった
病院へ着き
2人は、暫くデイルームで待つと
「阿佐田扶美子さんのご家族の方どうぞ」と
看護師が主治医の説明があるからと取り持つ
主治医「阿佐田扶美子さんのご家族の方ですね」
花陽「はい、母です」
主治医「検査を諸々行ないましたが、レントゲン撮影で右側の肋骨の損傷が診られました。入院は2〜3カ月必要ですかね…他は血液検査上は問題は無い様です」
花陽「うっうっ…そうでしたか…母との面会は出来ますでしょうか?」
主治医「10分ぐらいでしたら大丈夫ですよ。ただ鎮痛薬で痛みは自制出来ていますが、心配になる様な話は控えてください」
花陽「分かりました」
看護師「では、再びデイルームでお待ち下さい」
花陽と竜二はデイルームへ
数分待つと職員に車椅子を押された扶美子がやって来た。
花陽「お母さん…」
扶美子「花陽、花陽なのね!やっぱり、間違えじゃ無かった!」
竜二「奥さん…お母さん。良かった無事で」
扶美子「えっ、佐滝さん!?花陽佐滝さんと一緒だったの?」
花陽「お母さんには沢山話たい事あるけど…今は治療に専念して欲しい‥いつかは話すから」
扶美子「花陽は島に居るって聞いていたから…いつかは行こうと思ってたの。でもまさかこんな早く私の前に顔を出してくれたなんて」
花陽「島?お母さん、知ってたの?!」
扶美子「でも行った事は無いのよ。勇気が無くてごめんなさい。花陽を連れ戻したいって思ってはいたのよ」
花陽「私の身勝手な行動でお母さんや竜二に辛い思いをさせてた」
扶美子「花陽、佐滝さんとお付き合いしてるの?」
竜二「お母さん、報告遅れてすみません。私達は既に夫婦です。報告が遅れてしまって…こんなタイミングで話すのは失礼極まりないのですが」
扶美子「そ、そうなの…あっ、ごめんね。ちょっと気が動転してイタタタ…」
看護師「阿佐田さん、大丈夫ですか?」
扶美子「あっ、大丈夫です。元々痛みは続いてるので
」
花陽「お母さん、ごめんね!私があの時お母さんを呼ば無かったらこんな事になって無かった。」
扶美子「そんな事言わないで、言わない。花陽。貴方が、ここに居るだけで私は幸せなの。犠牲を図っても貴方に逢えたらっていつも思っていたから…」
扶美子「昨夜はどうしたの?」
花陽「家へ泊まらせて貰ったよ」
扶美子「貴方の家なんだから、貴方の帰るべき家なんだからね。あ〜いなり寿司と唐揚げ作っておいたの悪くなって無かった?」
花陽「ごめん、竜二と頂いちゃった。まだ残ってるけど、お母さんの手料理美味しい」
扶美子「貴方が食べてくれたの。良かった。これからまた居なくなっちゃうの?」
花陽「今こんな状況でお母さんを入院させたまま出て行く事なんて出来無い」
竜二「話は長くなるので‥お母さん、落ち着いたら話ます。」
扶美子「分かりました。悪いんだけど…携帯私に預からせて貰え無いかしら…」
花陽「うん、お母さん、ごめんごめん持ってて」
扶美子「花陽は携帯持って無かったの?」
花陽「うん…5年前に解約してたから」
竜二「今日、再契約して来ます。そしたら連絡しますよ」
扶美子「携帯を持って無かったなんて。それでも生活は不便じゃ無かったの?」
花陽「どうだろうね。島に居た時は特別無かったんだよね…でもこの場所に戻って気付いたよ!普通の生活の良さを」
扶美子「そう、良かった。」
看護師「そろそろ面会時間終了となりますので…」
花陽「あっ、お母さん、必要な物持って来るよ。教えて」
扶美子「うん、でも大丈夫かな。入院セットで賄う予定だし」
花陽「お母さん、家の事任せておいて」
扶美子「任せるって?でも貴方が居てくれると何も言え無いわ」
花陽「ふふ、じゃあまた連絡するね」
扶美子「気をつけてね」
看護師に車椅子を押され
部屋へと戻って行く扶美子を見つめた後
2人はその場を後にしたのだった
そして外来の出入り口で岩田アオトに遭遇する
アオト「こ、こんにちは!」
花陽「こんにちは…、あぁ昨夜の…ご迷惑をおかけしました」
アオト「お会い出来たのですか?」
花陽「あっ、はい。母の意識が戻ったので話が出来ました。」
アオト「そうでしたが、良かったです」
竜二「ほんとにご迷惑をおかけしました。花陽、駐車券」
花陽「あっうん…」
アオト「ではまた」
花陽「あっ、お名前だけでも聞いてもよろしいでしょうか?」
アオト「岩田と申します」
花陽「岩田さんですね、ありがとうございます。それではまた」
竜二「花陽、これから携帯の契約をして来よう。そして本当の籍を入れて来よう」
花陽「あっうん、婚姻届出して無かったね…あっち(島)では正式な夫婦となったのに」
竜二「花陽と生まれて来る子の為にも頑張らないとね」
花陽「竜二さん、私さ、鉄工所開けようかと思ってるんだけどさ。どう思う?お母さんに言おうかと思ったてたんだけど言え無かった」
竜二「良いと思うよ。僕は付いて行くよどこまでも」
花陽「ありがとう。今直ぐは難しいから今は家の事済ませて行かないとね」
竜二「そうだね、お母さんが直ぐ帰っても良い様に先ずは掃除もしていかないとね。さあさ、車に乗って、朝食を食べ行こう!今日も忙しくなるぞ」




