第十八章 仮面
バラの季節が終わりを迎え
すっかり夏の陽気
ふたばは今日の休日をどう過ごそうか考える
ふとアオトを思い浮かべる…
そしてこの間のラーメン祭りの後、薄手のジャケットを忘れていたのをふたばは思い出す
車の助手席にそのまま放置してるのはどうかな…
普通気遣いの出来る女性は、洗濯して畳んで紙袋へ入れて返すのが正解なのかもしれない
しかし、ふたばの考えは違っていた
もし間違った洗濯をして生地が解れたり脱色したり、縮んでしまったらと思うとむやみな行動は避けようと思っていたのであった
アオトからは何かあったらいつでも連絡してねって言葉には答えられず、あれから1週間にもなる
ふたばはドキドキしながらもアオトへ電話を掛けた
プルルル、プルルル
スバル「ふたばちゃん!おはよう!どうしたの?」
元気そうなアオトの声
ふたば「もしもし、アオト君、今日…何かしてる?忙しいかな?」
アオト「今日は予定無いよ!どこか行こうか?でもね、あしが使え無くてね…」
ふたば「うん、そこは大丈夫。私運転するよ!夏服を買いにアウトレットでも行こうかな…って思って」
アオト「アウトレットデート!良いね!!じゃあ何時ぐらいに会える?」
ふたば「今8時だから9時半頃かな?アオト君の実家に停めれば良い?」
アオト「今日はお店店休日だから、良いよ」
ふたば「じゃあそうするね、ではまた〜」
アオト「またね〜」
ふたば「良かった〜よし、仕度するか〜」
ふたばは珍しくワンピースにした
そして日焼け止めを塗り込みメイクもバッチリさせる
そしてローズの様子は…と探すも見当たらず今日も島へ外出したと思うのであった
家の戸締まりをした後、車に乗り込む
車のエンジンを掛けて、サイドミラーを開く
ふと正面を見ると、荒野に数台の車が止まっているように見えた
車が入り込める道なんて無かったのに
有刺鉄線で繋がれて鉄格子の扉がついているのに
ふたばはまぼろしを見てるような気がして来た為、考えるのを止めて車を発進しアオトの家へ向かうのであった
そして、20分後岩田カットサロンの駐車場へ駐める
アオトが裏口から出て来た
ふたば「おはよう」
アオト「おはよう、朝食食べた?」
ふたば「食べて無いよ」
アオト「軽くどこかで食べようか?」
ふたば「朝マックにする?」
アオト「うん、良いよ!」
アオトは助手席に乗り込むとふたばに
ふたば「そうそう、アオト君、ジャケット忘れたでしょ?はい、これ」
一応畳んだジャケットをアオトに渡すふたば
アオト「あ~、忘れてた。どこに置き忘れたのか考えてたけど・・ありがと!」
ふたば「今日の洋服にはジャケット合わないかな?」
アオト「ジャケット着てるのに重ねてジャケットはね、ハハハじゃあ向かおう」
ふたばは発進する
アオト「例の手紙の事だけど…自分なりに準備してあるよ」
ふたば「ありがと!アオト君に友希や楓を紹介しておきたいな」
アオト「僕はいつでも良いよ」
ふたば「今日は友希も楓も予定あるから予定立ててね」
アオト「今週は何か周りで変な事ってあったかな?」
ふたば「病院では特に変わりは無かったな?七瀬家も変わりは無かったよ」
アオト「それは良かった。そうそう、同僚へ連絡して窪川へ行ってみたんだよ。もう日が経っちゃったからね…女性を発見した現場付近は前回よりも水嵩は減ってて足を入れてみたら歩けて、向かい側へと辿れたんだよ」
ふたば「うん、うん、」
アオト「遺体が発見されたって情報無いし、川の流れは穏やかだったから…やっぱり僕の思い違いかもしれ無いんだよ。そもそも幻を見ていたんじゃ無いかって考えるようになっててね…あれだけ真剣に考えてくれたふたばちゃんには申し訳無いなと思って」
ふたば「とうとうアオト君も幻って思える様になっちゃったのか…」
アオト「それってどういう?」
ふたば「記憶って日が過ぎると段々と鮮明であった事がぼやけて来て次第に忘れて行くって言う事かなぁ…」
アオト「ふたばちゃんは女性の事鮮明に覚えてる?」
ふたば「そう言われると…2ヶ月も経てば鮮明な出来事はもうぼやけてしまってるかな。」
アオト「でしょ、でしょ」
ふたば「はーい、マック到着〜どうする?中で食べるか車で食べるか…」
アオト「中で食べよう」
ふたば「はーい、じゃあ駐めるね」
ふたばとアオトは店内のテーブルでセットメニューを平らげた
アオト「お腹いっぱいになった?」
ふたば「5分目ぐらいかな」
アオト「じゃあ次はアウトレットで食べよう」
ふたば「はーい」
ふたば達は再び車に乗り込み発進する
アオト「予定では来週ギプスは外れるから復帰ももう直ぐ」
ふたば「あまり急がなくても良いんじゃない?警察官の仕事って体調万全にしてからでは無いとキツくない?」
アオト「うん、そうなんだけどね。僕は叶えさせないとならない夢があるんだ。」
ふたば「それって?」
アオト「実家…愛知に帰って交番で地域の人達と交流を深めたいのと…両親が交通事故に遭った事でさ、もう辛いのは自分だけで良い、地域の人達が安心して過ごして行ける様にサポートして行きたいと思ってるんだよ」
ふたば「そう…なんだ…愛知まで500km以上あるからね」
アオト「そこで何だけど・・ふたばちゃんも一緒に愛知に来て欲しいなんて思ったり…」
ふたば(突然のプロポーズ?)「いつ頃になるの?すぐ?」
アオト「勉強をして2年かな…試験受けて学校へ行くんだよ」
ふたば「そうなんだ!私は応援してるよ」
アオト「ありがとう!君の為に頑張る!」
その後、2時間ゆっくりとアウトレットまで向かう2人であった
夏の陽気を迎えた朝、花陽の家のバラは既に枯れ廃れている
花陽(美亜)「胸がムカムカする、気持悪い」
竜二(直也)「美亜大丈夫?今日は寝て休んでな。心配だから付いてようか。」
花陽「ううん、大丈夫だよ。でも今日は家に居るね」
竜二「早めに帰るから」
花陽「行ってらっしゃい」
花陽(生理が来て無いのは3ヶ月?もしかして妊娠したかもしれない!病院へ行って来ようかな)
花陽は山を下った先に診療所と役所があるのを知っていた為向かう事を考えた
花陽(竜二に家に居るって言ったのに出かけるのもどうだろう…でも…きっと許してくれるよね!)
縁側に干した魚を置き、戸締まりをして花陽は出かける事にしたのだった
坂道を上ると鏡太郎の家がある
鏡太郎の妻沙苗は、唯一島で出産を経験しているらしい
花陽は念の為聞いてみようかと考えた
花陽「おはようございます〜」
「…」
「…」
不在の様だ
花陽(鏡太郎さんは朝早くに出かけるのは分かるけど…奥さんと赤ちゃんも居ないのはどうしたのかな…?でも詮索しなくて良いか。まあいいや)
花陽は仕方無く更に坂道を上って行った
漸く頂上へ着く
少し息切れしながらゆっくりと深呼吸をする
山は雑木林というか人工的に作られた様にもみえる
左側奥にアーチが見える
アーチを潜り更に抜けると
現実世界に行ける
何だか吸い込まれそうな気分…
でもサッと目をそらす
頂上の200メートル範囲は特別変わり無く
ベンチがあるのと
太陽光が並んでいる
私が来た時なんて太陽光発電なんて無かったのに…
この時間にベンチに座って休んでいる人は居ない
ここ5年間診療所へ行く機会といえば無く
診療所の他にも役場や学校がある
役場では青い水を飲まされた時と竜二と婚姻届を出すぐらいでしか無く、後は特別顔を出す機会は無かった
診療所の周りは花に囲まれている
2階建ての鉄筋の建物である
島には珍しいガラス戸のドアだ
花陽は診療所へと入った
受付が5メートル先にあり、水色の服を着た職員がいる
花陽「こんにちは」
職員「こんにちは、今日はどうなさいましたか?」
花陽「3カ月生理が来て居ないので妊娠検査をして頂きたいんです」
職員「それは、それは妊娠だと良いですね!バッチを拝見させて下さい」
花陽「はい、こちらです」
職員「そしたらあちらの椅子に掛けてお待ち下さい」
花陽「はい」
長椅子には足を怪我した患者と、下を向いている青年がいる
職員「36番さんどうぞ…」
下を向いている青年が診察室に入って行く
ふと花陽は思った
(失念島には薬はあるのだろうか…必要な器具はちゃんと揃っているのだろうか)と。
数分後下を向いた青年が出て来る
職員「こちらお薬です。1日2回飲んで下さい。そして眠れ無い時にこちらは1錠飲んで下さいね」
青年は頷き診療所を出て行った
職員「美亜さん、どうぞ」
花陽(さっきの青年は36番なのに私は名前で?)
花陽「はい」
花陽は診察室へ入って行く
医師「どうぞ、おかけ下さい」
職員が医師へ伝えている
医師「あぁ、そうですか!妊娠検査ですね。そしたらこちらの容器を渡しますので、あちらのトイレで排尿して提出して下さい」
花陽「はい、分かりました」
診察室の突き当たりにドアがあり、そちらがトイレになっている
花陽は容器に用を足すと
小窓へ置いて出て来た
職員「結果が出るまで椅子に掛けてお待ちください」
医師は書類に記載している様子だが、医師の目の前で結果が判明するのを花陽は待つ
医師「そう、そう他に何か体調で心配だった事は?」花陽「特にはありませんですが、たまに突然立ちくらみがあるんです」
医師「そうですか…」
職員が医師へ結果を見せる
医師「美亜さん、結果が出ました。陽性反応が出ています」
花陽「って事はつまり…」
医師「おめでとうございます」
花陽「あ、そうですか!ありがとうございます!」
医師「そこでですね…美亜さん、この島での生活から一旦離れて貰う事にしようと思います」
花陽「どういう事でしょうか?」
医師「ここでは分娩台や器具が揃って居ないので、安全に出産が出来る様に病院という場所へ移動する事となります」
花陽(病院なら安全だ)
花陽「それでは夫と離れる事になるんでしょうか?」
医師「そこは役場の人と相談してみてください」
花陽「その病院という場所はどこにあるんでしょうか?」
医師「美亜さんが不安にならない様にアイマスクをして移動となります。」
花陽「アイマスクですか…はい…」
医師「こちらで手続きはしておきますので、役場の方へ行って頂き確認してみてください」
花陽「分かりました」
花陽(アイマスクをして搬送なんて可怪しい。やはりこの島から出て実家へ一度戻ってみようかな…でも竜二はどうだろう…竜二は私が記憶を消されてると思ってるはずだし、竜二はもしかすると記憶が本当に消されているのかもしれない…遠回しに探ってみるしかないな)
花陽は診療所を出ると、そのまま向かい側の役場へ向かおうと考えたが、引き戸に触れた所でやっぱり入るのはやめようと考えた
花陽(…今日はこのまま家へ帰ろう)
花陽は来た道を戻って行った
その頃アウトレットへ着いたふたばとアオトはショッピングを楽しむ
そして雑貨と食器等が並ぶお店へと入る
アオト「この食器でご飯食べたいな…ふたばちゃんとお揃いの」
ふたば「いや、こっちよりも私が手にした方が器大きいでしょ?こっちの方が良く無い?」
アオト「うーん、じゃあ今回はふたばちゃんの方にするよ」
ふたば「後、お箸はこれで…マグカップはこれと、これ」
アオト「はい、はい。ふたばちゃんもう僕のアパートに来る事決定、お料理作ってね〜」
ふたば「任せとき〜!」
ふたばは1人になるのが怖かった
それを今支えてくれるアオトに夢中になっていた
アオト「お腹空いたからこれ買ったらフードコート行こうか!」
ふたば「そうしよう!」
再び島へ…
花陽は家の玄関に鍵を掛けると既に開いているのに気付く
花陽「ただいま〜、直也帰ってたの?」
竜二「おかえり、美亜の事心配して話たら帰って良いって帰って来たんだけど・・美亜が出かけてるとは思わなかった」
花陽「うん、ごめんね…診療所へ行ってたの」
竜二「1人で?一緒について行ってあげれたのに。無事で良かった。薬貰って来たの?」
花陽「ううん、今度リターンカフェに行きたいな」
竜二「ん?美亜…焙煎されたコーヒーの味思い出したの?」
花陽「直也…もう、竜二って呼んで良いかな?」
竜二「美亜…じゃ無くて花陽!花陽思い出したの?」
花陽「竜二こそ、思い出した?」
竜二「思い出すって事は無かったよ。…実は記憶は消されてません」
花陽「えっ!!そうだったの?てっきり水を飲んで忘れてしまったのかと思ってた」
竜二「こんな愛しい人を忘れるなんてどうかしてるよ!花陽俺の事忘れてしまったのでは無いかとずっと思ってた。」
花陽「もっと早く気付けば良かった。お互い仮面を被って居たんだね」
竜二「花陽はこの生活はどう思ってる?俺は花陽が幸せならそれでも良いよ」
花陽「実は、診療所で検査して貰ったらね…赤ちゃんが出来たの!」
竜二「僕たちのだよね!?」
花陽「あたり前よ!」
竜二「おめでとう!やったー!」
花陽「うん、それでね…診療所の先生がここでは出産出来無くてアイマスクをして移動になるみたい」
竜二「アイマスクをしてまで移動って何か隠し事でもあるのか…」
花陽「ねぇ、竜二、お父さんの元へ一度帰りたいと思ったんだけどさ、良いかな?」
竜二「花陽…実は花陽は知らないんじゃ無いかと思うけど…社長、即ち君のお父さんは5年前には亡くなってるんだよ」
花陽「えっ…何、何でよ!5年前って私が去った後って事だよね?お母さんは、お母さんはそれから1人?何でよ教えてくれなかったの!…でもそれは無いか…この状況でね。…ごめん」
竜二「悪かった。ごめん…。それと、たまに戻っていたんだ。現実の世界で掛かる税金を入金したり…こっそりバイトをしたり…。それで君が幸せになってくれるなら幾らでも頑張ろうって思っていたんだ。俺は仮面を被っていたんだよ。もっと早くにお互いの事共有出来ていれば良かったね」
花陽「竜二…ごめんね。全く知らなかった。竜二が遅く帰っても気にして居なかったね…そんなに頑張ら無くても。早めに私が気付いてあげられれば…お父さん……そうだね。でももう取り返しはつかないね…」
竜二「そんな事無いよ。お母さんに会いに行こう!そして何もかも話すんだ」
花陽「話て解決するかな?」
竜二「それは分からないけど…花陽体調は?」
花陽「体調は大丈夫。さっき私達が来た場所を振り返って来たのに向かうとなったら…お腹が空いて来た」
竜二「腹拵えをしたら出発しよう!そしてお母さんにちゃんと話そう」
花陽「お父さんにも私達の事挨拶しないとね。それと…リターンカフェにも行きたい」
竜二「そうだね行こう!」




