第十四章 松江戸旅館
七瀬一家は家族旅行で潮干狩りと水族館を楽しんだ
そして昼下がりになり旅館へと向かう
旅館の予約は父、勇人がしていた。海岸から山を上って行くと高台にある
カーブが数カ所あった為、楓は酔ってしまった。
楓「おとー、気持悪い〜」
ふたば「ベルトちょっと緩めてシート下げよっか。お父さん一旦休憩取れる場所無いかな?」
勇人「ちょっと待ってね…」
勇人は一旦車を停止させた。
勇人「旅館までは後10kmはあるからな…あっ、この先に姉妹滝休憩所って所があるね」
ふたば「じゃあそこに寄ろう」
澪花「姉妹滝って珍しいね〜なんか由来がありそうだね」
楓「カエデとねぇ~ねの滝」
楓太「楓、ここで吐かれたら承知しないからな。ほら、袋」
楓太は楓に袋を渡した。
そして5分後姉妹滝休憩所、駐車場に入る
外国人観光客も多い。売店やトイレがあり、かき氷も売っている
ふたば「楓、自販機で水買って来るから待ってて」
楓「うん」
澪花「楓大丈夫?…」
ふたばは車を出ると直ぐ滝の音が近くから聴こえて来た為耳を傾けた。
そして自販機へと向かってミネラルウォーターを購入する。楓の心配もあるが、ふたばは滝を観たい衝動へと駆られた。
ふたば「楓、水飲んでみて。そして深呼吸して」
ふたばは楓に指導する。
楓「うん、何とか大丈夫になってきた」
ふたば「お父さん、滝見て来ても良い?」
勇人「お父さんも観に行きたいな。澪花、楓太、楓は?」
澪花「私も観に行きたい」
楓太「僕も」
楓「楓も皆行っちゃうなら‥1人嫌だもん」
勇人「じゃあ皆で観に行こう!」
昼下がりの日中も暑いが滝の音が清涼感を漂わせてくれる。
観光客の後ろを歩いて行く一同"この先姉妹滝"という看板がある。
そして
木製のヒビのある階段を下って行く…
下る度にミシミシと音を立てている
澪花「ちょっと割れたら恐いんだけど…」
勇人「みんな〜足元、気をつけるんだよ」
ふたば「はーい」
ふたばは楓の手を握り歩いて行く
楓太はそそくさと走って下りて行く…
階段を下りると
「滝見喫茶」と書いた喫茶店があった。
季節限定のジェラートが食べられる様だ。
そしてこちらでは、姉妹滝の源泉水で淹れたコーヒーをも販売している様だ。
ふたば「滝観たらここ寄らない?」
澪花「いいね〜、オシャレだね〜でも夕飯食べられなくなるから控えめにね」
一行は更に進んで行く…
滝に到着すると霧に包まれているが虹も出ており綺麗だ
河口は一本の滝だが、上を見ると2本連なり交差している。交差した中心には地蔵様が2体並んでいる。滝の流れは穏やかだ。
七瀬家は皆揃って思わず手を合わせる。
ふたば「まるで私たちの様だね」
楓「うん、うん、ねぇ~ねはずっとねぇ~ねでいてね」
ふたば「それってどういう意味?」
ふとふたばは笑顔の楓の先にいる家族に目を置く。見覚えがあった。
スーツを着ている夫婦。夫は赤ちゃんを抱いている。
ふたば(あの人達って…もしかして鏡太郎さん夫婦じゃ無い?奥さんは沙苗さんだったっけ?えっ?何でここに?そして何でスーツ?)
勇人「じゃあ、そろそろ旅館へ向かおうか?その前に家族写真だ。おーい楓太〜」
勇人は撮って貰う人を探している…そしてスーツ姿の鏡太郎夫婦に依頼をしている様子だ。
ふたば(顔バレしたらどうしよう…あっそうだ!マスク)
ふたばはバッグに入れておいたマスクを装着する
鏡太郎?「皆さん、さあ撮りますね〜、はい」
勇人はカメラの確認をすると夫婦に会釈をして戻って来た。
勇人「ふたば、マスク付けてどうした?家族写真なのに」
ふたば「ゴホゴホ、うん、ちょっとね喉が突然痛くなってさ…」
澪花「ふたば大丈夫?喫茶店は諦めて旅館へ向かおうか」
ふたば「うん…ごめんなさい…私車で待ってるから…お母さん達で楽しんで来ても良いよ」
楓「ねぇ~ねが行けないんだったら、楓もそんなに調子は良く無いし、旅館へ向かおう」
勇人「そうだな。じゃあ戻って旅館へ向かうぞ」
ふたば(あの人鏡太郎さんに似ていた。奥さんも沙苗さんに見えた。でも思い違いかな?もう数ヶ月も過ぎようとしてるのにそんなはずは無いのかな…でもあの表情、声どこか似ていた)
ふたばは振り返る事無く駐車場へと戻るのであった
そして時刻は16時半となり旅館へと到着する
勇人「はぁ~やっと着いたね〜さあ降りて降りて、澪花、子ども達連れて先に受付してくれ無いか?」
澪花「うん、分かった」
4人は駐車場から各々バッグを持参して旅館まで歩く
旅館の名前だけに松の木の塀になっているそして2階建てのお城の様な旅館だ
何故か馬の銅像がある
ふたば「うわ〜、こんな旅館泊まった事無いけど・・高いでしょ?大丈夫なの?(小声)」
澪花「お父さんのポケットマネーだからね!お父さんにはちゃんとお礼をするのよ」
ふたば「はーい」
楓「じゃあ楓はおとーの肩揉んであげよう」
楓太「ん〜じゃあ僕は旅館の売店で父さんにプレゼント出来る物探そうかな」
ふたば「私もそれ便乗!」
澪花「ほんとね〜感謝してあげようね〜」
旅館へと入る
女将「お待ちしておりましたどうぞこちらへ」
澪花は受付に向かう
ふたば達は仲居に案内されソファで待つ事に
フロア内のサウンドが時代劇の御屋敷にいる様な音楽微かに流れている
そして微かに香る松の香り
仲居が冷たい緑茶を運んで来た
3人は緑茶を美味しく頂いた
数分後カードキーを受け取った澪花達は仲居の誘導で
松の部屋へと案内されるのであった
楓太「父さん遅いね、部屋の場所大丈夫かな」
澪花「大丈夫、大丈夫。女将さんには伝えてるから」
仲居「カードキーの使い方ですが…」
澪花「はい、分かりました」
カチャッ
ドアを開けると8畳程のスペースに洗面所、トイレ、浴室があり、松の木の襖を開けると12畳の畳部屋になっていた。
そして長テーブルとおもてなしのお菓子が置いてある
奥はソファに座って外を眺められる様になっている
肝心な外は見晴らしの良い山と奥には海が広がっていた。
澪花「良い景色だね〜そして部屋も綺麗」
ふたば「温泉もあるんだっけ?」
澪花「もちろん、大浴場と温泉は別にあるよ」
楓太「父さん戻って来たら先に温泉へ入って来ようかな」
澪花「そうね、ふたばと楓もお父さん戻ったら温泉へ行きましょう」
ふたば、楓「はーい」
勇人「ごめん、ごめん、遅くなった。板前さんに採れた貝を渡したら明日の朝は楽しみにしてて下さいって」
楓太「お父さんありがとう。早速だけど温泉行こうよ」
澪花「私達も今日は疲れちゃったし、先に温泉行こうって話てたのよ」
勇人「うん、夕食は18時に予約してるからささっと温泉へ入って来よう」
4人「はーい」
そして御一行は温泉へ入りに行くのであった
ゆっくりと温泉へ入ってしまった為、先に待っていた勇人と楓太はマッサージチェアーに座り待っていた
澪花「ごめん、ごめん、あまりにも気持良くて」
ふたば「うん、また入り行こうかな」
楓「ねぇ~ねが行くなら楓も行く」
勇人「良かった良かった…さあ、夕飯を食べに行こう!」
予め指定されていた部屋以外の個室が夕飯の会場になっていた。
5人分の食事が置かれている
すると仲居2人が担当になり鍋に火を付けたり料理を更に運んで来る。
季節料理や旬の魚のお刺身が食べられた。
勇人「ん?この魚は鮪でも鰹でも無いし何だろう?美味い美味い」
澪花「ほんとね〜今まで食べた事無いかも」
ふたば「どれどれ…私も、う、うん!美味しい〜でも何だか懐かしい味がする」
楓「うん、美味しい〜」
楓太「美味すぎる」
勇人「仲居さん、このお魚は何ていう魚ですか?」
仲居「すみません、板前からは今日採れた新鮮な魚としか聞いて無くて…」
澪花「まあ良いじゃない。美味しい料理や新鮮なお刺身に出会えて最高な思い出になったわ」
ふたば(何だか懐かしいなぁ〜最近食べた事ある様な感じだけど思い出せ無い)
一行は豪華な夕食を堪能したのであった
夕食を終え部屋へと戻ると布団が敷いてあった
恒例の何処で寝るか合戦が始まったが数秒で決着
窓際より楓、ふたば、澪花、勇人、楓太に決まった
家族での旅行は久しぶりであった一行は喜びながら目に涙を浮かべる瞬間もあった
勇人が家を建てる前は勇人の実家で一家は住んでいた
部屋は5部屋あり父は農業を賄っていた
澪花は農業を手伝いながら育児、家事を熟して相当疲れが溜まっていたのだが我慢していたのだった
勇人の兄弟は4人おり長女は自立し家庭を持っていた
そして次女も実家の農業を手伝っていたのだが、近所のアパートで1人暮らしをしていた。そして、長男は家庭を持っていたが離婚し実家へと戻って来たのだった。その事を機会に次男の勇人は家を建てるのを決断し今へ至っているのであった
勿論実家の両親からは反対されたのだが、澪花の困憊した姿を見たくは無いのと子ども達が安心して過ごすのには独立しか無いと勇人は考えたのだった
澪花も勇人が独立してくれたおかげで疲れやストレスが落ち着いたのであった
そんな勇人の事を3人の子ども達は知る事も無かった
勇人の母親はふたばを一番可愛いがっていた。そして母親からふたばだけでも…と声があった時には今まで怒らなかった勇人は怒りをこみ上げ母にぶつけたのであった
勇人は3人を分け隔てなく育てたい。そんな一心でいた。勿論澪花も
ふたばには引っ越しは嫌な気持があったのだが、長男が住み込み始めたのを機に密かにストレスを感じていたのだった
幸い今の家では勇人の両親や兄が来る事は無い
気持を察してくれている長女や次女のサポートもあり勇人も今の生活に大満足だったのだ
楓太「父さん、飲もうぜ」
勇人「ん?楓太ビールなんて買って来て、まだ子どもじゃ無いのか?」
楓太「しっつれいな!成人してます〜。後これは僕とふたばから」
勇人「んなんだい?」
勇人は突然のサプライズに涙を更に込み上げていたのだった。そして包装を開けると陶器のオシャレなマグカップと夫婦箸だった
ふたば「マグカップはコーヒーを飲むのに使ってね、そして箸はいつまでも夫婦仲良くね」
澪花「あれ?私にも!ありがとうね」
楓「私からのおとーへのプレゼントは手紙を書いたよ!後で読んでね!後は肩をマッサージします」
勇人「ありがとな〜澪花と子ども達には何処も連れて行け無くて悲しい思いをさせてしまっているんじゃ無いかって毎日の様に思ってた。でもな、今日は今までで一番最高で幸せな日だったよ!ありがとう!」
勇人は涙を流していた。
楓太「父さん、カンパーイ」
勇人「おぅカンパーイ」
澪花「明日帰るんだからほどほどにね。私は先に休ませて貰います」
ふたば「私も今日は疲れちゃったな…明日朝一で温泉行こうっと」
楓「今日はねぇ~ねを抱き枕にして寝よう」
こうして夜も更けて朝を迎えた。
ふたば(はぁ~、5時か。朝風呂入りに行こう)
勇人と楓太はいびきをかいて寝ている。
澪花もすやすやと眠っている
楓はと言うと窓際のソファで布団を被って眠っていたのだった
ふたば(皆起こさないように…そ〜っと)
楓「ねぇ~ね、まさか1人で行こうとしてない?」
ふたば「楓起きてたの!?」
楓「ヤバいよ!いびきで寝られ無かった。ねぇ~ねは普通に眠れてて凄いわ」
ふたば「疲れてたからね〜布団もふわふわで寝心地良かったよ。さぁ温泉行こう!」
ふたばはカードキーを持ち楓と温泉へと向かう
温泉は1階と2階にあるが、2階は朝は運営して居ない為1階へと向かって行った。
人気が無く薄暗いフロア
臆病な楓はふたばの腕をしっかり握っている
この際に楓に本当の事聞いてみよう
ふたば「楓、昨日の朝の事覚えてる?近所のおじさんの話」
楓「何、何、突然恐い事言わないでよ〜ねぇ~ねが言っているおじさんってどんな人なの?」
ふたば「えっ、本当に?お父さん達とおじさんに言われて口裏合わせたりして無いよね?」
楓「ねぇ~ねこそさ、朝からそんな話してきて楓を怖がらせようとしてない?」
ふたば(ん〜本当なんだ…考えてみたら鉄格子の扉の近くに居た時しかおじさん見かけ無かったかもしれ無いなぁ…でも売家なんて看板あったかな…)
ふたば「分かった。もうこの話はしないね!」
1階へ下りると連絡通路があり橋の様になっている そこを下ると温泉室があった
霧に包まれているのでちょっと不気味だ
ふたば「ここ肝心ね、男湯か女湯かは入り口間違え無いように」
楓「右が女湯だね」
ふたば「うん」
女湯に入る
朝風呂へ入るのは2人だけの様だ
ふたばと楓は温泉へ浸かるのであった
ふたば「楓は朝と夜どっちの温泉が好き?」
楓「うーんどっちだろう。まあどちらにしても1人きりは嫌だね。ねぇ~ねがいるからさ」
ふたば「それ答えになってる?」
露天風呂から見る景色は最高だった。緑に包まれ鳥の囀りと遠くから聴こえる海の音…
ふたば「楓。もし…だよ楓がお姉ちゃんの事忘れてしまったらさどうなるのかな?」
楓「楓がねぇ~ねの事?そんな事あるわけ無いじゃん」
ふたば「でももし、私が、お姉ちゃんがね、居なくなったらどうする?」
楓「そんな事あるわけ無いじゃん。楓はねぇ~ねの後を追うよ、ってかそんな話しないで。温泉の心地良さモードが一気に下がるよ」
ふたば「あ〜ごめん、ごめん何となくね。楓ごめん、のぼせて来ちゃったから先出るね」
楓「ま待って〜」
楓「ねぇ~ね。絆ってそんなに浅い物では無いと思う。例えねぇ~ねが楓を忘れてしまったとしたら思い出せるようにさ日記や写真を残しておいて…ねぇ~ねが何度否認したとしても記憶を植え付けようって思う」
ふたば「ありがとう。私も楓と家族の記憶忘れたく無い。でも明日になったら分からない…ってあるからさそうだ!家帰ったら2人のタイムカプセル作らない?」
楓「タイムカプセル?何それ?」
ふたば「本来は未来の自分にって感じで手紙書いてね、土の中に埋めるのよ。それを何十年後に開けて読むと懐かしい〜。こんな事書いてたっけ…って思い出すでしょ?それとは若干違うんだけど・・」
楓「それ良いね!!そこにさ、友希ちゃんも入って貰わ無い?」
ふたば「友希絶対喜んでくれるよ!で、約束は誰にも言わない事。どこに埋めたのかも3人だけが分かる所にしよっ!」
楓「了〜解」
ふたば「ほら、シーッ」
ガラガラガラ(引き戸が開く音)
澪花「あら、もうやっぱりここに居たのね。2人して、お母さんも誘って欲しかったなぁ…仕方無い。1人で入るか」
ふたば「お母さんごめん」
楓「おかーごめん、楓も入ろうかな」
澪花「2人は先に部屋に戻ってなさい。朝食がもうすぐ始まるから。お父さん達も温泉に入ってるからね。部屋で2人でお留守番よ」
2人「はーい」
2人は温泉を出て部屋へ戻る。
仲居も朝食の仕度でバタバタしている様子。でも2人に挨拶をしてくれる
部屋のルームキーを開けて中に入り、洋服に着替えて待つ事にした
そして皆が揃うと個室の会場へ案内され朝食となる
テーブルには定番の料理が置いてあったのだが、その後次々と昨日採った貝で炊き込みご飯やお味噌汁等数品貝料理がおもてなしされるのであった
勇人がチェックアウト中、ふたばは旅館のお土産コーナーでお世話になっている人を思い出しながら菓子を買う
すると紙袋2袋分になってしまっていたのだった
松江戸旅館での宿泊は最高な思い出となったのだった




