第94話 竜馬の力
「最後は竜馬の技名を決めていくわけだが、どんな力を持っているのか、全く分かっていない」
「はい!」
「ヒヒーン!」
この部屋には俺と凜々花、竜馬しかいない。
最初に比べると、だいぶ返事が寂しくなっているが、全員の返事が終わるまで待つ必要がなくなっているため、場を仕切っている俺からすると、こちらの方がありがたいけどな。
「じゃあ竜馬の能力を確認するために、【アニメックスダンジョン】に行くか」
「はい、大丈夫です!」
「ヒヒン!」
俺と凜々花は、竜馬を連れて【アニメックスダンジョン】へと向かった。
久しぶりに来た【アニメックスダンジョン】は、変わらず人の姿がない。【テイム】という珍しいスキルを扱っている側からすると、人が少ない【アニメックスダンジョン】は検証する上で最適なダンジョンだ。
まあ移動の際に人から見られ過ぎているから、目立たないなんてできるわけないんだけどな。
「じゃあ竜馬、自分のできることを教えてくれ」
「ヒヒーン!」
竜馬は大きな鳴き声をあげたが、その場から動こうとしない。
ただ首を振り、こちらに何かを伝えようとしているだけだ。
「うーん……背中に乗れってことか?」
「ヒヒン!」
これまで横に振っていた首を、今度はたてがみをファサファサと揺らしながら、肯定の意を伝えてきている。
「背中に乗るのか……」
断じて馬の背中に乗ることに対して、恐怖感を抱いているというわけではない。
竜馬は普通の馬ではなく、馬に似ている魔物だ。最もそのことを表しているのが、頭から首にかけて生えているたてがみを押しのけるような形で生えている、ステゴサウルスの背中の板。これがあるせいで、背中に乗ろうとすると、身体に刺さってしまう。
つまり、できれば乗りたくない。だが乗らなければ、竜馬の力を知ることができないのであれば、乗らないと終われない。
「……よし」
俺は背中の板を掴んで、竜馬の背中へと飛び乗った。
鞍もなければ、鐙もないため、背中に乗ったとしても安定しないだろうと思っていたが、想像以上に安定感がある。予想だが、ダンジョン探索を経て身体能力が常人のものを優に超えているからだろう。
そして杞憂していた背中の板も、あと数十キロ単位で太らない限り、刺さらないだろう……そう思えるほどに余裕がある。
「おお、高いな」
思ったままの感想が出た。
初めて馬の上に乗ってみたのだが、目線がだいぶ上になって、辺りを見回しやすくなっている。今は洞窟型のダンジョンだから、殆ど変わっていないが、これが平原型とかになれば、索敵範囲はかなり広がるだろう。
「竜馬、じゃあどんな力を持っているのか、教えてくれ」
「ヒヒン!」
返事と共に竜馬は駆け出す。
すると一瞬にして凜々花のことを置き去りにし、道中のゴブリンたちを、身体にぶつけることなく吹き飛ばしていた。
その光景から予想するに、竜馬の前方数メートル先に風の壁か何かを作り出して、敵の接近を防ぐ力ということだろう。
竜馬は吹き飛ぶゴブリンを気に留めることなく、ドンドン速度を上げていく。既に警察に止められる程度には速くなっており、上に乗っている俺が振り下ろされても可笑しくない速度が出ている。
しかし落ちるどころか、一切の風圧さえも感じていない。
「馬上者を保護するのが、竜馬の能力ってことか?」
「ヒヒン!」
竜馬は走りながら、器用に首を縦に振った。
なるほど、竜馬は移動特化の能力構成をしているというわけか。俺と従魔だけでダンジョン探索する上では、かなり有用な力になると思う。だが基本的に俺は凜々花や麗華、まいちゃんと共にダンジョンに挑んでいるから、必要になる場面は限られてくるだろうな。
それにしても、竜馬は何処まで行くつもりなのだろうか。手綱がない以上、声掛けで止まってもらう必要があるのだが。
「竜馬、止まってくれないか」
「……」
止まるという話になると、途端に聞こえないフリをして、一切止まってくれない。
本当にどうしたものか……流石に階段は止まってくれ――ないですよねぇ。
竜馬の力を把握してから十分の時が経った。ダンジョンを進み続けた俺たちは、最終階層ボス部屋の前に立っている。
「なあ、竜馬」
「ヒヒン」
先ほどから竜馬が部屋を開けろと訴えかけて来ている。
今の俺であれば、ここのダンジョンボスを突破するのは容易だが、竜馬の我儘を聞き続けるという点においては、よろしくないだろう。
どうしたものかと悩んでいると、背後から地面を蹴る音、つまり誰かが走っている音が聞こえて来た。
「凜々花か? いや、凜々花にしては速すぎるだろ」
「ヒヒン?」
凜々花もダンジョン探索を通じて身体能力が上昇しているし、【脚力強化】も手に入れているとはいえ、竜馬のトップスピードに追い付けるとは思えない。
だがここに来るまでの間、誰ともすれ違わなかった。つまり俺たちを後から追いかけて、直ぐに追いつけるだけの脚力を持った誰かが、追いかけて来ている……備えだけは万全にしておくか。
俺は剣の柄に手を添え、足音の持ち主が現れるのを待った。
そして足音は着実に近付いて来て、一番近くの曲がり角手前で止まる。
「誰だ!」
その距離であれば十分に届く声量で話しかけた。
しかしいくら待てど、返事が返ってくることはない。
「……」
ダンジョンをクリアして、入り口へと帰還するのが安牌だ。
しかし凜々花が追いかけてきている可能性も考慮すると、追いかけて来た凜々花が、そこに居るであろう人物と接敵した際に、危険な目に遭う可能性も捨てきれない。
「顔を見せないのであれば、攻撃するぞ!」
やはり俺の声が木霊するだけで、曲がり角の先から返事が返ってくることはない。
「じゃあ攻撃するからな!」
再三の警告をしたにも拘わらず、返事が返ってくることはなかったため、俺は攻撃をすることに決めた。
「【シンクロ】」
選んだ攻撃は、自由度の高い“湧沸”だ。
掌から出た熱湯は、ゆっくりと曲がり角へと進んで行き、曲がると同時に霧散した。
「何ッ!?」
言葉の通り相殺されたのではなく、霧散した。
それは以前戦ったことのあるアイツを想起させる。
「エイムズか」
コツコツという足音が鳴った。
そして曲がり角の先から姿を見せたのは、以前と同じようにコートを着ているエイムズだ。
「君には死んでもらうよ」
エイムズは拳銃を向けて来た。
エイムズとの再戦!
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