第83話 勝利後の疲労
やがて時間が経ち、ヒドラを覆っていた煙が晴れる。
しかしそこにヒドラの姿はなく、あるのは地面に落ちる規格外なサイズを持つ魔石、そして異様なお札だけだ。
「はぁはぁ……力を使いすぎた」
そして少し離れたところで、地面に仰向けで倒れている麗華の姿が目に入る。
「麗華!」
心配になって駆け寄るが、疲労で倒れているだけで、命に別状はなさそうだった。
念のためまいちゃんを呼び、診て貰ったが、彼女の診断でも問題はなかったようで、俺の予想は当たっていた。
「こんなに疲れるのなんて、久しぶりだったよ」
「ありがとう。麗華が居なければ、俺たちは全滅していた」
「気にしないで。私も久しぶりに本気を出せて、楽しかった」
地面に転がる麗華の顔は、とても清々しく、いつもの気怠そうな表情からは想像できないレベルの笑みを浮かべている。
俺たちは勝利の余韻に浸っていた。
「じゃあダンジョンから脱出する前に、宝箱の中身を見よう」
ある程度浸った後、立ち上がった麗華は、笑みを浮かべながら宝箱を指さす。
麗華も宝箱に興奮したりするんだなと思いつつ、そりゃあ自分で倒した魔物がクリアした報酬だもんな、と一人で納得しながら、気付かぬうちに宝箱の横に立っている麗華の下へと駆け寄る。
そこには目覚めたばかりであろう凜々花やゴン太たちの姿もあり、彼女が宝箱を開けていないのは、俺が近くに居なかったからだと分かって、慌てて宝箱へと駆け寄った。
「じゃあ開けるよ」
麗華が代表して宝箱を開ける。
開かれた宝箱は、目を潰さない程度の輝きを放ち、やがて光が止むと宝箱のサイズからは考えられない物が置いてあった。
「これは……鎧か?」
「そうみたいだね。宝箱産だから呪いとかが掛かっている可能性は限りなく低いと思うけど、念のためギルドに持っていった方がいいね」
「まいちゃんは呪いを治せないのか?」
「治せないわけではないけど、呪いには掛かった瞬間に死んだり、暴走したりするものもあるから、極力掛からない方がいいよ」
「なるほど……」
掛かった瞬間に死ぬ呪いか……そんなものに掛かってしまったら、まいちゃんがパーティーに居たとしても、対処のしようがないもんな。
「じゃあ鎧は俺が持って帰るとして、このお札はどうすればいいんだろうな」
「触れるだけで呪いに掛かっちゃいそうだけど、そういった事例は報告されていないし、普通に持って帰っていいと思うよ」
ヒドラが落としたであろうお札。
触れることすら憚られる模様が刻まれているため、持ち帰るかどうかを悩んでいた。
しかし知識豊富なまいちゃんからのお墨付きを貰ったため、決心してお札を拾う。
数秒間、身体に異変が起きるかもしれない、とドキドキしながら待ったが、これといった変化は訪れなかったため、お札を懐に仕舞ってから、魔法陣へと乗り込んだ。
光に反射で目を瞑る。
再び目を開けた際に入ってきた光景は――普通に【ジャスケダンジョン】の入口だ。
ダンジョン嫌悪派の襲撃があるかもと警戒していたが、徒労に終わったみたいで良かったな。
「はぁ疲れたな」
「疲れましたね」
「私も疲れた」
「でも手に入れたものをギルドに売りに行かないと行けないから、まだ休めないよ」
「……確かに」
比較的元気そうなまいちゃんに気付かされ、俺たちのテンションは著しく低下した。
「……はぁ、私が代表してギルドに行ってくるから、みんなは帰っていいよ」
「……頼む」
普段であれば断っていたであろう提案だが、あまりの疲労に頭が働いておらず、すんなりと受け入れてしまった。
それぞれが自宅へと帰り、俺もまた従魔たちと共に帰宅した。
あまりの疲労に、風呂に入ることなくベッドに倒れてしまい、一瞬「ベッドを汚しちゃったなぁ」と思ったが、どうせ引っ越すからいいだろうと自分に言い聞かせて、風呂に入ることなく目を瞑る。
意識が暗転する寸前、胸元に変な熱を感じた気がしたが、その違和感が疲労に優ることはなく、そのまま眠りについた。
◇◇◇◇◇
これは夢だ。
それを認識した瞬間に分かった。
「……」
真っ白な空間で、目の前に立つ人影。背格好は俺と似通っているが、顔には不自然なほどに濃い影が掛かっていて、それが誰なのかは分からない。
「……」
無言でこちらを見続ける――顔が見えないため、実際に俺のことを見ているかどうかは分からないが、謎の存在がこちら側を見ているのは確かだ。
「……」
謎の存在は腕を上げ、こちらを指さす。
その行動の意味を探るため、身体を動かそうとしたが、金縛りにあったかのように硬直していて、全く動かせない。
「――」
なんだ?
若干だが顔が動いている。というよりも、顎が動いているような気がするため、これは……何か話しているのか?
「――」
何とか唇の動きから読み取ろうと試みるが、ほぼシルエットの謎の存在から読み取れるはずもなく、一言も読み取れることなく話を終えてしまった。
「……」
急激な眠気が俺を襲う。
きっと目覚めが近付いているわけだが、目が覚めてもこのことを覚えていられるのだろうか……そんな心配を抱きながら、俺は意識が途絶えた。
◇◇◇◇◇
「――ッ!?」
俺は全身から汗を垂れ流しながら、上半身を起き上がらせた。
「……どうしたんだ、俺」
俺には全身から汗が流れている理由が分からなかった。
次回、新居での一幕を描き、第5章が終わる予定です。
ブックマークと★★★★★をお願いします




