第80話 【ジャスケダンジョン・九階層】
殆ど魔物と接敵することなく、俺たちは九階層へと繋がる階段を発見することができた。
そして若干の休息を挟み、九階層へと足を進める。九階層の様相は、八階層とほぼ同じで、階段を降りたことを忘れれば、八階層のままだと錯覚してしまう程、様相が似通っている。
「……ちゃんと九階層だよな」
あまりに似すぎているため、その心配が口から漏れてしまう。
ここにいる誰もがその思いを心に抱いているらしく、誰からも俺の問いかけに対する返事は発せられない。
「……まあ進めば分かるだろ」
「そうですね」
そして俺たちは凜々花と悟空を戦闘に据え、九階層だと思われる階層を進んで行く。
階段を降りて来てからどれほどの時が経っただろうか。そんな疑問が俺の頭には浮かんでいた。
階段を降りて来てから、そこそこの時間が経ったにも拘わらず、未だに魔物との接敵がなかった。それは凜々花の【気配察知】によって、事前に避けて来たわけではなく、そもそも【気配察知】に引っ掛かる魔物が居なかったからだ。
「また襲撃でもあるのか?」
「流石にないと思う」
「麗華が言うのであれば、人の手による異変ではなく、そういう性質の階層なのか……もしくはダンジョン異常が発生しているのか……」
「流石に異常はないでしょ。だって中ボスのポイズンドレイクで発生しているんだから、極めて低確率で発生するダンジョン異常が、そんな高頻度で起こるわけないよ」
「……だよな」
まいちゃんの言うことが全面的に正しいはずだ。
しかし俺の頭に掛かった靄は晴れず、頭のどこかでダンジョン異常を疑いながら、九階層だと思われる階層を進んで行った。
そして歩き始めてから一時間、一切魔物と接敵することなく、十階層へ繋がっていると思われる階段を発見した。
「一回も魔物と出会わなかったぞ。これはダンジョン異常を疑うべきだろ」
「そうね、私もそう思うけど……れいちゃんはどう思う?」
「分からない。ただ異常が発生しているのなら、私も戦う。これは決定事項」
「ああ。俺たちも十階層級のダンジョン異常ボスを倒せるなんて思っていないからな」
六十階層級の中ボスであるギガントトロールの討伐経験があるとはいえ、十階層級とはいえダンジョン最下層のボスがダンジョン異常によって強化された個体を討伐できると、思い込むほど驕ってはいない。
凜々花やゴン太たちも、俺の考えに反対意見はないようで、深く頷いている。
そんな共通認識を持ったまま、俺たちは十階層へと繋がっているであろう階段を降りていく。
階段を降り切り、十階層だと思わしき地に足を踏み入れた瞬間、耳が裂けんばかりの咆哮が聞こえて来た。
「うるさっ!?」
「――」
俺や凜々花、まいちゃんは耳に入ってくる音を多少なりとも減らすため、両手を使って耳を塞いだ。
しかし魔物であるゴン太たち従魔、そして麗華は目を見開き、遥か遠くを見ていた。
「マズイ――っ!?」
――某所
「直接仕留めることはできなかったか」
悟たちの前に現れたエイムズは、椅子にもたれかかりながら、掌の上で溶けている人形を、落胆した様子で見つめていた。
「しかし日本最強と言えど、【富士山ダンジョン】から《《連れて来た》》アイツは倒せないだろうな……そしてスタンピードが起きるであろうジャスケで、戦士を増やさねば」
エイムズは今後の流れを一通り頭の中で構築した後、椅子から立ち上がって部屋を後にした。
誰も居なくなり、暗転しているエイムズの部屋の扉が開く。扉を開けた者は、当然エイムズではないが、一切の躊躇いを持つことなく、机の上に置かれた資料に手を伸ばした。
「……計画は進んでいる。ダンジョン嫌悪派なんて外蓑を被り、資金繰りを行っていたあれから時は経ち、コネも換金先も作ることができた。であれば、我々がダンジョン嫌悪派を名乗り上げるのも終わりが近くなってきたというわけか」
呟きに近い独り言が木霊する部屋だが、外から近付いて来る足音が混ざっているのに気付く。
しかし逃げるには時間が足りず、資料を手に取っている者が部屋に残っている状態で、扉は開かれた。
「私としたことが、資料を仕舞い忘れていた。やはりあの術は容易に使うべきではないな」
返って来たエイムズは、一切の疑念を持つこともなく、机の上に置かれた資料を金庫に仕舞い、再び部屋を後にした。
そして何事もなかったかのように、侵入者は再び部屋に現れる。
「問題があるとすれば、呂布もエイムズも撃退したあの男か。確か……窪田悟だったか? 奴だけは消しておくべきだな……日本最強と行動を共にしていることを考えると、二名体制で送り込むのが最適解だな……風は私に向いている。じっくりと進めて行こう」
侵入者は姿を消した。
部屋の扉は開かれていない。
不穏な話でした。
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