第78話 【十聖】エイムズ 1
「……なら誰も知らないスキルで戦うよ」
麗華はエイムズに掌を向けた。
俺には、麗華の言う『誰も知らないスキル』の内容は分からないが、それをいつ手に入れたのかは分かる。
このダンジョンで遭遇したダンジョン異常の魔物、ポイズンドレイクを俺たちは討伐している。
俺で言えば【陣頭指揮】、凜々花で言えば……聞いてないから分からないが、戦闘に参加していた麗華も獲得しているはずだ。
そして麗華の掌が熱を帯びていく。
彼女が持つ【絶氷】の力とは真逆の効果だが、スキルに対する適応度が異常に高い彼女が行使すれば、どんな力であろうとポテンシャルの十全を発揮できる……と思う。
「……先刻のポイズンドレイクか」
「それを知っていても、スキルは見せていないからね」
掌に帯びている熱が放出された。
空間が揺らぐほどの熱が一気に放たれ、周囲の熱を吸収しながら進んで行くため、彼女の周りは極端に冷えている。
「――ッ!!」
熱による揺らぎはエイムズの下まで進むと、全身にその熱を浴びせた。
ダンジョン用の装備であれば、ある程度の防火性能を持っているはずだが、熱が到達した瞬間に発火。そして一瞬にしてエイムズの身体を包み込むほどの大火となった。
「――のした」
エイムズの言葉は、きっと木下の名を呼んでいるのだろうが、当の本人は一切反応を見せず、頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
そして決心をした表情を浮かべながら、木下が立ち上がった。
「す、すみません!!」
木下は大きな声で謝罪の言葉を口にする。
そして気付かぬうちに発生していた空間の揺らぎに身を投じ、その姿を消した。
あまりに華麗な逃げ方に、この場に居る誰もが唖然としてしまい、逃げる木下の邪魔をすることができずにいた。
「……逃げられちゃった」
「でも幹部を捕らえられるのなら、それだけでプラスだろ」
「確かに」
麗華は熱の放出を止め、【絶氷】の行使に移ろうとする。
しかし彼女が熱の放出を止めた瞬間、エイムズのことを包み込んでいた炎が一気に鎮火した。
そして炎の鎮火と共に、燃えていたはずのコートが元に戻っていた。
「相手を知らずに、攻撃を止めるのは愚の骨頂だ」
エイムズは懐に手を突っ込んだ。
日本ではあまり危険を感じないその動きだが、銃社会の国家からすれば即制圧対象となり得るその動き。
「麗華!」
「最強が故の危機感の薄さ」
懐から取り出したのは拳銃。
見た目はただの拳銃とそう変わりはないが、銃口から放たれた弾丸は、普通のそれではなかった。
「くっ――」
俺の警告は遅く、弾丸は麗華の胸を貫いた。
いや、警告が遅かったわけではない。ちゃんと麗華は氷の壁を張り、銃口と自分の間に遮蔽を作り出し、自分の身を守ろうとしていた。
だがエイムズが放った弾丸は、麗華が【絶氷】によって作り出した氷の壁を貫き、その威力が衰えることはなく、麗華の胸をも貫いた。
「れいちゃん!!」
まいちゃんが慌てて駆け寄る。
彼女の力があれば、胸を貫かれたからと言っても、命に大事はないはずだ。
俺は麗華への心配を胸に仕舞い、エイムズと向き合う。横にはゴン太たちが立ち、今すぐにでも攻撃を始められる体勢を取らせる。
「君のことは呂布から聞いている。我々の計画を邪魔した敵だと」
エイムズは銃口をこちらに向けてきている。
あの弾速を見た後では、避けられるとは思えないが、心は揺らいでいない。
「……君はギリギリの死線を潜り抜けてきたが故の、一種の諦めがあるようだ」
「……確かに、死ぬときは死ぬって考えは頭の片隅にあるかもしれない。だけどそれはダンジョンでのものではない」
「冒険者になる前に勤めていたブラック企業か」
「情報官と名乗るだけの情報力だ」
「褒めてもらわなくて結構。私は我々の敵となる者を排除するだけだ」
エイムズは感情の起伏を一切見せず、ただ無心で引き金に指を掛けた。刹那、隣にいる従魔たちが動き出した。
「ゴリ!」
最も早く動きを見せたのは、一番新しい仲間である悟空だ。
彼は掌で胸を叩く。それはゴリラが行うドラミングという行動。ゴリラが行うドラミングは、自分の縄張りだと威嚇する行動だが、魔物である悟空が行うのはそれだけではない。
「なるほど、それは知らぬ行動だ」
だがその行動に意味があろうとなかろうと、情報を至高とするエイムズにとって見せたことのない行動は、警戒するに値するものとなる。
俺の考え通り、エイムズは俺たち……主に悟空から距離を取るために飛び退いた。
「タマ!」
「ニャン!」
音の斬撃が走る。
不可視の斬撃が、地面を削りながらエイムズへと迫った。
「だから知っている攻撃は、私には通じない――ッ!?」
斬撃がエイムズの身体に傷を付ける。
その顔は驚きが隠せていない。
以前検証を行った時、俺たちはタマの攻撃の特殊性を知ったが、今までその特殊性を活かせていなかった。だが今放った斬撃は、その特殊性を活かしたもの……つまり初見の技だ。
タマの特殊な力を予想してみてください
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