第75話 七階層、ゴブリンの砦 4
俺は体力の消耗を実感しつつ、大量のゴブリンたちを魔石へと変えていく。
先刻のゴブリン将軍レベルの強者は出てきていないが、ゴブリンの数が増えすぎて大量の消耗スピードが速すぎる。
「……もうすぐ終わるよ」
麗華の言葉は、俺たちに希望を齎した。
しかしその希望は、絶望に変わってしまう可能性も孕んでいる。ここを切り抜けたとしても、その先に待っているのは更なる強者。ゴブリン将軍を超える力を持ったゴブリン種が出て来るはずだ。
「……ここからゴブリンを倒すのに、ゴン太は力を温存してくれ」
「コン!」
変わらずゴン太は俺たちの中で最大火力を持つ。
ゴブリン将軍を超えた存在が出て来たとしても、ゴン太の最大溜め“狐火”さえ命中させることができれば、倒せると踏んでいる。
「来ます!」
凜々花の警告。
それがなくても、肌で感じる殺気がその強大な存在を教えてくれる。
「グギャァァァ!!!!!」
ゴブリンが作り出した砦の最奥、そこには最もゴブリンの中でもトップクラスの武力を持ち、今まで倒した魔物中でトップクラスに強かったギガントトロールにも迫る実力者が居る。
姿を見せたそれは、ゴブリン特有の緑色の肌、二メートルを優に超える上背、それを支えるだけの筋肉、体格に似合った巨大な大剣。
ゴブリン大将軍と呼ばれるその魔物は、この階層のゴブリンたちを統べる存在であり、俺たちにとって最大の壁となる魔物だ。
「来るぞ――」
俺たちは吹き飛ばされていた。
何が起きたのかが分からず、壁に激突してから周囲を見渡してみると、大剣を振り抜いたであろう構えを取るゴブリン大将軍の姿と、壁に激突したであろう凜々花やゴン太たちの姿が目に入った。
「ただの風圧だけで、この威力だと……」
言葉が出ない。
あまりにゴブリン大将軍の力が圧倒的過ぎて、俺の頭にある語彙では表現し切れない。それほどまでに力の差があり過ぎる。
「グギャァァァ!!」
「――ッッ!?」
ゴブリン大将軍は再び大剣を構えた。
もう一度大剣を振り抜かれれば、俺たちは陣形を立て直すことができなくなってしまう。
「ゴン太!!」
「コン!!」
俺の声は離れたところにいるゴン太に届いたようだ。
ここからでも見える巨大な“狐火”。いくら大きくなろうと変わらない心地いい暖かな熱だ。
浮かべられた巨大な狐火が、ゴン太の意思の下で動き出した。
当然、狙いはゴブリン大将軍に定められており、ゴブリン大将軍だろうと避けられる距離ではない。
「たぬ吉、タマ、亀之助!」
念には念を入れて、三人の遠距離攻撃によって、逃げ道を完全に塞ぐ。
これでゴン太の“狐火”は着弾するだろう。これでもダメだった場合は、麗華に頼るしかないな。
「コーン!!」
「グギャァ!!」
まさか、大剣で切断するつもりか!?
だが凜々花の【長谷部】のように、【魔斬り】の能力がなければ魔法は切断できないはずだ。
それなのに大剣を構えるということは、あの大剣は【魔斬り】の力を持っているのか……いや、そんな相手にとって好都合な事態は早々起こらないはずだろう。
俺の心配をよそに、“狐火”はゴブリン大将軍の下へと迫った。
迫り来る巨大な“狐火”に対し、ゴブリン大将軍は大剣を振り抜く。
「大丈夫なはずだ」
振り抜かれた大剣は、周囲の俺たちを吹き飛ばす突風を発生させる。
“狐火”が揺らぐ。
「ダメなのか」
俺の弱気な発言が、静かなこの場に木霊する。
しかし“狐火”が揺らいでいるのは、突風による影響であり、“狐火”そのものが切断されたというわけではなかった。
「グギャァッ!!!」
ゴブリン大将軍の叫びが七階層全体に響き渡る。
階層が揺れている……そんな錯覚に陥るほど、強烈な叫びだ。
「……」
『やったか』なんてフラグを建てるような発言はしない。
俺にできることは、ただゴン太の力を信じ、勝利できたことを確信することだけだ。
そして狐火の着弾によって生まれていた煙が晴れる。
煙が晴れたそこにあったのは……。
「やれなかったのか――」
全身が焼け焦げていながら、二つの脚で立っているゴブリン大将軍の姿がそこにはあった。
「ぐぎゃぁ」
ゴブリン大将軍はゆっくりと身体の向きを変える。
その視線の先に居るのは、当然“狐火”を放ったゴン太だ。
「凜々花ァ!!」
「はい!」
凜々花に俺の想いが通じたらしく、【長谷部】を投擲してきた。
目の前に突き刺さった【長谷部】を引き抜き、【シンクロ】を発動させる。
「ゴン太……」
ゴン太は無理して“狐火”を溜めた反動で、動けずにいる。
俺は、そんなゴン太の下へとゆっくりと歩いて行くゴブリン大将軍の首を狙い、【長谷部】を振り抜いた。
発生した斬撃は、ゴン太の狐火を借りることで使える三日月状の炎。
そんな斬撃が、背中を向けているゴブリン大将軍へと着弾した。
「ぐぎゃぁ」
ゴブリン大将軍は膝をつき、地面に倒れ込む。
体力の消耗が激しく、倒れてしまいそうになるが、声を張り上げた。
「一斉攻撃だ!」
俺の声に、ゴン太を除いた従魔たちの一斉攻撃が始まる。
“湧沸”、音の斬撃、水の塊、連続パンチが倒れるゴブリン大将軍を襲った。
「遂に終わったのか」
「よく頑張ったね」
仰向けで倒れる俺を見下ろすのは、まいちゃん。
彼女は麗華の隣に立っていたため、一切の怪我を負っていない。
「このダンジョンは七階層が鬼門で、あとの階層はボスまで楽らしいから、もう少し頑張って」
「それは良かった」
積み重ねた疲労と安心感から目を瞑ってしまう。
昨日は二十歳の集いで爆酔いしたせいで、投稿できませんでした。
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