第72話 七階層、ゴブリンの砦 1
六階層は苦戦した。
群れて集団と化した二頭蛇は、悟空では止めきれず、俺や凜々花も前衛をしなければならなくなり、何度も毒に侵された。
まいちゃんのお陰で、大事になることはなかったが、苦痛を消すスキルではないため、痛みで頭がどうにかなりそうだった。
七階層に降りて来た今も、その痛みが尾を引いて、思考の廻りが遅くなっているような気がしている。
「……悟空、頼むぞ!」
しかしそんなことは言っていられない。
七階層は今までの階層に比べると魔物が多く生息している。それが七階層へと降りてきて、一番最初に分かった事実だ。
降りて来た俺たちを待っていたのは、大量のゴブリンによる奇襲。
種としてはゴブリンに属することは確かだが、【アニメックスダンジョン・一階層】に生息しているゴブリンとは、基礎ステータスが段違いだ。
「ゴリ!」
悟空は一歩前に飛び出し、ゴブリンの攻撃を一手に受け止めている。
俺たちは横から遠距離攻撃を使って、ゴブリンの数を減らしていく。しかしゴブリンの群れは終わりが見えず、いくら削ろうと、俺たちを囲っているゴブリンを突破できずにいた。
「数が多すぎる!」
「そろそろ悟空くんも限界みたいですから、私たちも前に出るべきですよ」
「そうだな」
凜々花に指摘された通り、最初の内はゴブリンの猛攻を押さえる切っていた悟空も、段々と抜けられ始めていた。
ゴブリンが雪崩れ込んで来ることを危惧して、俺と凜々花も前衛として前に出る。
「「「グギャ!!」」」
ゴブリンの耳障りな鳴き声を耳にしつつ、剣を振るっていく。
【シンクロ】によって、至近距離から一掃することも考えたが、終わりの見えない湧き続けるゴブリン相手に、下手に消耗するのは危ないため、地道に剣で倒すことを選んだ。
「ゴン太、溜めておいてくれ!」
「コン!」
後ろに居るゴン太に頼む。
ゴン太の最大まで溜めた“狐火”があれば、かなりの数を減らせるはずだと考えたからだ。
しかしゴン太が“狐火”を溜め始めると、ゴブリンの不揃いだった猛攻が、ゴン太に向けての猛攻へと変わった。
「ゴン太の“狐火”が、脅威的だと認めたって訳だ」
口ではそう言うものの、俺たちに余裕があるわけではない。
一点を目指すゴブリンたちの猛攻は、先刻までのものとは比べ物にならない程の勢いになっている。
悟空の体毛は赤く耀き、凜々花は飛ぶ斬撃を放ち、俺は【シンクロ】を使って従魔たちの技を真似ている。
消耗のことなど考えてはいられず、ただ目の前のゴブリンを討伐することで手一杯になっていた。
「クソっ、ゴブリンの攻撃が強くなっている!」
剣を振り、ゴブリンの猛攻を受け止める。
ゴブリンの持つ武器は棍棒、剣、斧、槍など多種多様。その全てを捌き切るには、意識を集中させなければならない。
つまり、悟空や凜々花のことを気にしていられる余裕はない。
ただ一心不乱に前のゴブリンの攻撃を捌き、カウンターで仕留める。それをゴン太の“狐火”が溜まり終わるまで続けた。
そしてその時がようやくやって来た。
「コーン!」
「下がれ!」
俺たちは一斉に退く。
それに合わせて放たれた“狐火”。一番先頭のゴブリンに着弾するが、その勢いが衰えることはなく、ゴブリンの最後列を目指して進んで行った。
ゴブリン程度の防御力では、ゴン太の最大火力“狐火”の勢いを衰えさせることすらできない。
しかし未だ衰え知らずかと思われた“狐火”は、ゴブリンたちの丁度真ん中で止まった。刹那、“狐火”が持つ熱エネルギーが一気に膨張し、ゴブリンたちを例外なく呑み込んだ。
「以前よりも、かなり威力が上がっているな」
「やっぱりゴン太くんはすごいですね」
他の従魔たちと比べても、ゴン太の成長速度は著しい。
ゴン太はだいぶ前に進化を経験しているが、次に古参であるたぬ吉は進化の予兆すら見せていないのが、確かな証拠だろう。
「……今の内に、包囲を抜けるぞ」
ゴブリンの数が、再び増え始めていたため、俺たちは慌ててゴブリンの包囲から抜け出した。
ゴブリンの包囲から抜け出した俺たちを待っていたのは、巨大な砦……と言うには若干ちゃっちい砦だ。
「脅威と言えるが、なんかゴブリンに見合った砦だな」
「ゴン太くんの最大“狐火”を当てれば、簡単に崩せるでしょうね」
確かにゴン太の攻撃であれば、簡単に壊せるほどの砦だが、あまりゴン太に頼り切るのはよろしくない。ここはまだ七階層。先は長く、ゴン太の消耗はできるだけ避けるべきなんだ。
「たぬ吉?」
「ポン!」
どうやって砦を攻略しようかと悩んでいると、たぬ吉が一歩前に出て来た。
しかしたぬ吉が使用できる技は、背負った急須から熱湯を蛇のように放出し続ける“湧沸”と、俺たちにバフを掛けるお茶を出してくれる“幸福茶”だけだ。後者はバフであるため、攻撃に使える技は一つだけで、それも威力はかなり低い。
そんなたぬ吉が砦を攻略できるとは思えないが……主人として、ここは信じるべきだよな。
「……頼めるか、たぬ吉?」
「ポン!!」
たぬ吉から元気な返事が聞こえて来た。
そして有言実行するかのように、たぬ吉が光り輝く。
「これは――」
麗華の驚いたような声が聞こえて来る。
彼女も知っているようだ。魔物が進化する際に発する光を。
遂にたぬ吉が進化します。
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