第71話 【ジャスケダンジョン・六階層】
ポイズンドレイク戦の戦利品を確認し終えた俺たちは、六階層へと降りて来た。
六階層は三階層までと同じように、深い森林地帯によって構成されている。違う点と言えば、今までの階層とは違って、天から注ぐ疑似太陽からの陽光が明るく照らしていた。
「明るいな」
「そうですね。今までに比べると、見通しがだいぶ良くなっています」
「まあ明るくなっているだけで、障害物があることに変わりはないから、奇襲の受けやすさに関しては、あまり変わらないけどな」
確かに明るくなっているおかげで、視覚的には遠くまで見通せるのだが、視線を遮る木々や草むらによって、魔物の姿を隠されてしまっている。
まあ明るかろうと、暗かろうと、凜々花の【気配察知】がある限りは、奇襲を受ける確率は極めて低いけどな。
階段近くに魔物が居ないことを確認した後、六階層を進む。三階層までと比べると、だいぶ背の高くなった草むらを掻き分けて、森の中を進んで行く。
「近くに居ます」
「警戒しろ!」
俺の声に対する返事が返ってくるよりも早く、魔物は襲い掛かって来た。草むらから飛び出し、最前列に居た悟空に襲い掛かっているのは、頭が二つある蛇、その名は“二頭蛇”だ。
そのまんま過ぎる名前に、初めて聞いた時はセンスがないなと思いかけたが、ゴン太たちの名付けの際にだいぶ悩んでいることを思い出し、センスがないと思うのは止めた。
そして今の俺には、そんなことを考えている暇はなく、どうやって悟空の下から二頭蛇を退かすのかを考えることが最優先だ。
「たぬ吉!」
「ポン!」
ゴン太やタマの攻撃では、組み合っている悟空にも当たってしまう。ならば威力が低くても、二頭蛇だけにダメージを与えることができるたぬ吉の“湧沸”で狙うのが最適解だろう。
悟空は二頭蛇の二つの頭を両手で掴んでいるが、案外押し込む力が強いらしく、悟空の丸太のように太い腕がぷるぷると震えている。
「やっぱり“湧沸”だと、真面なダメージを与えることができないか」
「ぽん」
“湧沸”は悟空の下から距離を取ろうとした二頭蛇の胴体に着弾したが、貫通するどころか、傷一つ付けることができなかった。
「いや、たぬ吉を責めているわけじゃないぞ。威力が低い代わりに自由度が高いのが“湧沸”、それが分かっていて頼んだんだ」
幸い、二頭蛇が“湧沸”のことを警戒してくれたおかげで、悟空の下から距離を取ってくれたが、威力がバレてしまった以上、次はないだろう。
これから俺たちが取るべき戦略は、二頭蛇に接近させることを許さず、遠距離から仕留める。これが勝利のために必要なことだ。
「ゴン太、タマ、亀之助!」
「コン!」
「ニャン!」
「カメ!」
“狐火”、音の斬撃、水の塊が一斉に放出され、少し離れたところにいる二頭蛇へと迫る。
「シャァァ!」
二頭蛇は舌をチロチロと出しながら、鳴いた。
すると二つの頭の先に、液状の球体が発生する。それは見るからに毒がありそうな濁った紫色をしており、本能が受けてはいけないと言っている。
放たれた球体は、ゴン太が放った“狐火”と亀之助が放った水の塊と直撃した。その瞬間、液状の球体が弾ける。液体は飛び散り、こちら側に多く飛んできていた。
「クソっ……避けられない」
ほぼ霧状になった液体は、どうやっても消し切れない。
せっかく手に入れたスキルも、ここでは役に立つことはないだろう。
二頭蛇によって生み出された液体に毒性がないことを願いつつ、全身で霧状の液体を浴びた。
「……?」
いくら待てど、毒による異常は現れない。
一瞬だけあの液体に毒性はなかったのかもしれないと思ったが、その場合、六階層の魔物が放った攻撃にしては弱すぎると、その考えは直ぐに捨てた。
いくら考えても答えを出せない疑問だったが、まいちゃんの口から齎された情報により、簡単に解決した。
「私が居る限り、毒で死ぬことなんてないから、安心して」
「あっ」
忘れていた。
俺たちの後衛に居るのは、世界でも有数のヒーラーである聖女まいちゃんだ。十階層ダンジョンの毒程度、容易く無毒化できるのだろう。
「相手は弱っている。畳みかけるぞ!」
二頭蛇は音の斬撃を相殺することができず、その身で斬撃を受けている。ダメージ自体はそこまで大きいわけではないが、ピット器官で認識できない攻撃を放ったことに対し、二頭蛇は恐怖を抱いていた。
恐怖は動きを鈍らせ、回避能力を著しく低下させている。
この場では、新たに手に入れたスキルが役立つ。
ポイズンドレイクに勝利したことで手に入れたスキルは、【陣頭指揮】。効果は、スキル所有者が前衛として戦うことによって、パーティー全体の基礎ステータスが上昇するというものだ。
パーティーも基礎ステータスも目で確認できるものではないが、攻撃の威力から凜々花や従魔たちに影響を及ぼしているのは確かだ。
「シャ、シャァ」
凜々花の攻撃がトドメを決めたらしく、二頭蛇は魔石へと変わった。
「はぁはぁ、六階層になって、一気に強くなったな」
「まあ中ボスを超えた後だからね」
「最下層まであと半分……キツイが、頑張ろう」
「はい!」
七階層へと繋がる階段を目指し、六階層を進んで行く。
悟はスキル【陣頭指揮】を手に入れたことにより、前衛として戦うことが運命付けられました。
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