第69話 【ジャスケダンジョン・五階層】
五階層を構成しているのは、四階層と同じで平野だ。
しかし四階層に比べると、草むらの背が高く、五階層の方が見通しが悪い。
「俺たちにとっては、こちらの方がいいな」
「そうですね」
見通しが悪いということは、奇襲を受けやすくなるというデメリットがあるが、【気配察知】持ちの凜々花が居る俺たちにとっては、相手に気付かれにくいというメリットのみを享受できるからな。
「――来ます!」
凜々花に言われて気が付いたが、少し離れたところの草むらが揺れていた。しかし草むらが揺れているだけで、魔物の姿は見えない。
背が高いと言っても、俺の腰ほどまでの高さしかないため、全身が隠れている魔物の大きさも、そこまでしかないということだ。
「悟空、下がれ!」
「ゴリ!」
悟空が下がると同時に、揺れる草むらから魔物が飛び出してきた。
うねうねとしているその姿は、地上にいる生物と何ら変わらないが、所有している毒の威力が格段に強いと言われている。
「あいつはポイズンスネークだ。攻撃を喰らわない方がいい!!」
「ゴリ!」
俺の言葉に、警戒度を強めた悟空がポイズンスネークから大きく距離を取った。
前衛が動くのに合わせて、パーティー全体が後ろに下がるが、ポイズンスネークは気にせず突っ込んでくる。
「私が出ます!」
リーチのある【長谷部】を持っている凜々花が一歩前に出た。
向かってくるポイズンスネークに対し、タイミングよく剣を振り抜き、刃がポイズンスネークの身体を捉える。
この【ジャスケダンジョン・五階層】は、魔物による奇襲をメインのギミックに据えているようで、魔物自体の耐久力はかなり低いらしい。
凜々花の斬撃は、ポイズンスネークの身体を軽く切断し、一撃で魔石へと変えた。
「ここは私のスキルがあれば、簡単に超えられそうですね」
「確かに、凜々花の【気配察知】があれば、基本的に奇襲は受けないからな」
「念のため、警戒を強めておきます」
再び悟空には前に出て貰い、草むらを掻き分けながら、六階層に続く階段を目指して進んで行く。
ポイズンスネークは他の魔物に比べると群れないようで、一度に接敵する数が単体であることが多く、一番多い時でも三体のポイズンスネークとの接敵で済んだ。
「次は六階層だと思っていたが……」
「残念、違ったみたいだね」
まいちゃんの言う通り、残念なことに階段を見つけても六階層へと行くことはできなかった。
階段の手前。俺たちが階段を降りるのを邪魔するように立っているのは、巨大なポイズンスネーク。それは【洞爺湖ダンジョン】において、ギガントトロールがそうであったように、目の前に居る魔物もまた、ダンジョンの途中に居る中ボスだ。
「こいつは“ポイズンドレイク”か……」
あれはトカゲのように四足を持つ東洋型のドラゴンを祖に持ち、その血が薄まりながらも、ドラゴンの力の一部をその身に宿している……という論文が出されているドレイク種の中でも毒を操る個体、それがポイズンドレイクだ。
説明臭くなってしまったが、一つ分かっていることとすれば、たかが十階層ダンジョンの中ボスで、出てきていいような魔物ではないということだ。
「……ダンジョン異常だ」
「私がやる」
「いや、俺たちにやらせてくれ」
「あれは強いよ? 今の悟たちでは手も足も出ないほどには」
「それでもだ」
「良いんじゃない? 悟くんたちがやりたいって言うなら、やらせてあげなよ」
「……分かった。悟、頑張ってね」
「分かっているよ」
スカして返事をしてみたが、俺一人ではなくゴン太たちや凜々花と共に戦うため、そこまで恰好はつかなかった。
「じゃあ行くぞ」
「はい」
俺と凜々花、そして悟空が前衛として、ポイズンドレイクと相まみえる。
近付いてみて分かったが、ゴツゴツとした身体は見るからに強固な鱗に覆われ、口からは呼吸に合わせて毒性を帯びているであろう霧が吐き出されていた。
「――来るぞ!!」
先にポイズンドレイクが動いた。
牽制のつもりなのか、口を大きく開いて毒性を持つ息吹を放とうとしている。
だがその攻撃は、俺たちに対しての牽制にはならない。当然、いい意味ではなく、悪い意味でだ。
「ゴン太、“狐火”だ!」
「コン!」
ゴン太の“狐火”とポイズンドレイクの息吹がぶつかる。
ぶつかったことにより生み出された衝撃は、俺たちのことを吹き飛ばした。
「――」
地面に転がり、衝撃を殺す。
体勢を立て直し、ポイズンドレイクの方を見る。
「――ッ!?」
そこにポイズンドレイクの姿はなかった。
あの巨体が隠れられる場所などないはず……そんな考えが頭の中に浮かんだ瞬間――。
「クソっ」
俺の身体が吹き飛んでいた。
アイツは俺が認識できないほどの速度で移動し、尻尾による薙ぎ払いを俺にお見舞いしたんだ。
麗華たちが立つ場所まで吹き飛ばされ、身体を地面に打ち付けてしまう。全身に激痛が走り、立ち上がることすらままならなくなってしまった。
「大丈夫そう?」
「――くれ」
「分かったよ」
まいちゃんの手が身体に触れると、一瞬で痛みが消える。
「頑張れぇ」
「ああ」
俺は痛みの消えた身体で、脱兎の如く駆け出した。
ポイズンドレイクの息吹が直撃していれば、一撃で壊滅していました。
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