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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第63話 まいちゃん

 聖女の父親が放った「娘はやらん」発言から、俺たちの間には気まずい空気が流れていた。

 麗華と聖女は変わらず楽しそうに話していて、俺と大男の間には変わらず無言……何も変わっていないのかもしれない。


「何しに来た」


「娘さんに頼みごとを」


「どんな」


「仲間を治して欲しい」


「症状は?」


「ずっと起きない状態異常」


 短い言葉しか話さない大男に釣られて、俺も端的に話すようになってしまった。よくよく考えてみると、かなり失礼な文言になってしまっているが、特に大男は気にしていなさそうなので、このままで続ける。


「なるほど……」


「そうなんです……」


 再び沈黙が訪れる。

 しかし先刻までの気まずさはなく、俺が彼の言葉を待っているという状況に過ぎない。


「私にお願いって言った?」


「あっ、はい。聖女様に私の仲間を治して欲しくて」


「れいちゃんの仲間なら治しに行ってもいいけど、どんな症状なの?」


「二人組の男に襲撃されて、それから眠ったままになってしまったんです。外傷はなくて、急に眠ってしまったので、多分状態異常だと思っていますけど、詳しくは分かりません」


「【睡眠】かぁ……多分治せると思うけど、何処にいるの?」


「関東の――病院です」


「関東かぁ……遠いなぁ……まあいいや。れいちゃん、連れて行ってくれる?」


「もちろんいいよ」


 聖女は関東ということを聞いて、面倒くさそうな反応を見せていたが、何とか了承してくれたな。

 あとは大男の方を言い包めることができれば、凜々花の下に聖女を連れて行くことができそうだ。


「……まいこが良いのであれば、構わん……手を出すなよ」


「何言ってんの、お父さん」


 漢字は分からないが、聖女は「まいこ」という名前らしい。

 そして大男の親父さんよ、手を出すわけないだろ。相手は、聖女として有名な皇族だぞ。手なんて出せるわけない。


「じゃあれいちゃん、お願いね」


「分かった……行こう、悟」


「あっ、はい」


 俺たちは庭に出る。

 完全に空気と化していたゴン太たちと共に、再び俺たちは氷の部屋に包まれた。そして急激な加速で上空へと至る。聖女は慣れているようで、急加速の際に一切の動揺がなかった。


「飛ぶときに、あの人が何か言っていたけど、良いのか?」


「いいの、いいの。『いってらっしゃい』って言っていただけだから」


「そ、そうですか」


 ……いや、口の動き的にそんな短い言葉じゃなかったはずだ。

 それに表情……は信用できないが、だいぶ怨念が籠っていそうな顔でブツブツとこちらに恨み言を漏らしているように見えた。

 ま、まあもう会うことはないだろうし、気にしなくてもいいよな。


「取り敢えず自己紹介しておくね。私は舞子。一応皇族に属する人間だから、苗字はないよ」


「お――私は窪田悟です。よろしくお願いします」


「悟くんね。てか敬語じゃなくていいよ。慣れてないでしょ」


「……じゃあ普段通りで。よろしく頼む、舞子さん」


「さん付けじゃなくていいよ。れいちゃんみたいにまいちゃんって呼んで」


「……まいちゃん」


「うん! それで!!」


 ひょんなことから、聖女と名高い皇族様をちゃん付けで呼ぶようになってしまった。

 物語の導入でありそうなことを思いつつ、氷の壁の先に見える景色に目をやる。


 ……ちょっと待て、出発地点の北海道や到着地点の西園寺家には、大きな敷地があって、この巨大な氷の塊が着陸できる場所があったが、――病院の近くにこの巨大な氷の塊が着陸できる場所なんてあるのか?


「な、なあ麗華」


「どうしたの?」


「この氷の塊が着陸できる場所があるのか?」


「――ないかも」


「じゃあどうするんだ?」


「……どうしよ」


 どうしよ……ってどうすればいいんだ?

 この巨大な氷の塊を降ろす場所となると、かなり広い敷地が必要になってくると思うが、そんな場所が――病院近くにあるとは思えない。

 しかし少し離れたところにある開けた場所に降りたとして、そこから有名人のまいちゃんを連れ歩いて、病院まで行くとなると、電車は使えない。

 運転手の善悪を問うことができないタクシーも、あまりよろしくないはずだ。


「よし決めた」


「ど、どうするんだ?」


「空から降りる」


「はっ?」


 頭が理解するよりも早く、麗華は実行に移した。

 既に病院上空に到着していた氷の部屋が、消失する。俺たちのことを支えていた足場はなくなり、重力に従って病院の屋上へと落下していく。


「コン!?」


「ポン!?」


「ニャン!?」


「カメ!?」


 ゴン太たちも同じように宙に放られ、どうにかして病院の屋上に激突することを避けようと足掻いている。


「どうしようか……」


「大丈夫だよ」


 空気を裂いて落下するせいで、耳が正常に機能しているとは思えなかったが、離れたところから聞こえてきた麗華の声は、鮮明に耳に届いた。

 刹那、落下していたはずの身体が浮遊感に包まれる。


「全員分の足場に氷?」


 急に足元から氷が発生して、俺たちの身体を持ち上げていた。

 麗華によって生み出されたものが足元まで来たのではなく、言葉通り足元に発生している。その仕組みは分からないが、俺たちが助かったということだけは分かる。


「じゃあ降りるよ」


「はーい」


 まいちゃんは慣れた様子で、全く動じている気配はない。

 そしてゴン太たちもまた、何処か楽しげだった。



次回、北の大地での舞踏会編が終わります。


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