第61話 京都行こう
「西園寺さん、この度はダンジョンスタンピードの鎮圧に協力していただきありがとうございます」
俺と麗華は、北海道のギルドを統括する札幌ギルドに来ていた。
そこでイカつい顔をしたギルド長が、麗華に対して頭を深々と下げている。ここにギルドの力関係が現れているよな。
「それで、そちらの方は?」
「私の仲間の悟」
「窪田悟です。関東を中心に活動していて、Eランク冒険者です」
最後の言葉を聞いた瞬間、ギルド長は尊敬するような顔から、一転して見下すような顔へと変わる。ランクが低い冒険者に価値はないってことか。そう考えると、あそこのギルド長はかなり良い奴なのかもしれないな。
「なに、その目」
ギルドの温度が一気に下がる。
当然、その原因は“絶氷の薔薇姫”西園寺麗華だ。彼女から漏れ出る冷気は、全てギルド長に向けられているが、それでもギルド全体を冷やすだけの力はある。
「――す、すみません!」
ギルド長は慌てて頭を下げる。
しかし麗華の蔑むような目は変わらず、漏れ出る冷気も未だに出たままだ。俺としてはできるだけ早く聖女とのアポが欲しいんだが、ここに割って入る度胸は、俺にはない。
「悟は、洞爺湖ダンジョンの中ボス、ギガントトロールを倒したんだよ」
「――っ!?」
そりゃあEランクの冒険者が六十階層ダンジョンの中ボスを倒したなんて聞いても、信じられないよな。俺だって信じない。
「もういいよ……一つだけ伝えておくけど、私は悟と冒険者家業を再開させるよ」
「――」
「行こう、悟」
「あ、ああ」
麗華に腕を引っ張られ、ギルドを後にした。
数秒後にギルドから聞こえて来た絶叫。それは【日本最強の冒険者】の復帰を祝う讃美歌なのか、ライバルが増えることに対する絶望の叫びなのか、どちらにしても俺が気になっているのは、俺と冒険者家業を再開させるという聞き捨てならない言葉だけだ。
「俺と冒険者家業を再開させるってどういうことだ!」
「そのまんまだよ?」
「言葉の意味は分かっている。どうして、引退していた冒険者を再開するんだって聞いているんだ」
「だってゴン太たちが可愛いんだもん」
麗華はしゃがみ、ゴン太の頭を撫でる。
確かにゴン太たちは可愛いが、引退していた最強の冒険者を引き戻すだけの理由になるのか?
「……取り敢えず、まいちゃんに会いに行こうか」
「えっ?」
氷に包まれる。
凍結させられたというわけではなく、氷でできた球形の部屋の中に閉じ込められたというのが正しいだろう。
「じゃあ飛ぶよ」
「とぶ?」
“とぶ”。それが“飛ぶ”だということに気付くまで、三秒のタイムラグがあった。そして理解したのは、氷の部屋が動き出してからだった。
「――」
「コン!?」
「ポン!?」
「ニャン!?」
「カメ!?」
俺は悲鳴すら上げることができなかったが、ゴン太たちは声は上げているものの、俺に比べるとだいぶ余裕そうだ。
氷の部屋が飛んでいる。意味が分からないかもしれないが、飛んでいる。そう表現するほかない。
「はぁはぁ」
ある程度の高度を維持するような動きに変わり、だいぶ揺れが収まったため、安心感から地面に座り込んでしまう。
「大丈夫?」
「大丈夫……とは言い切れないが、まあ大丈夫だ」
「そう?」
「ちなみに、これってどういう原理で動いているんだ?」
中から見た感じだと、火が噴き出しているわけでも、プロペラが回っているわけでもないから、見た目からは動力が分からない。
「私が動かしているだけだよ?」
「動かしているだけって……その原理が知りたいんだが」
「私は自分が生み出した氷を操れるから、この氷も操っているだけだよ」
なるほど。
そういうスキルもあるってことか。
「もうすぐ着くよ」
「えっ?」
時空が歪んでいるのか?
まだ飛んでから十数分しか経ってないだろ。時空が歪んでいなければ、体感速度的にあり得ないだろ。
「立ってないと、腰打つよ」
注意されて、慌てて立ち上がると、それと同時に俺たちを囲っていた氷が消えた。そう、溶けたのではなく消えた。
「ここは?」
「京都にある私の家だよ」
「京都……」
ここが京都だということが信じられず、スマホの位置情報を確認してみるが、確かに地図アプリは京都を指していた。
「本当に京都だ――っ」
スマホから目線を上げると、そこには大豪邸と言われて想像するような、一般的な大豪邸が建っていた。一般的な大豪邸とは? と思うかもしれないが、本当に一般的な大豪邸と評するのが正しい大豪邸だ。
「まいちゃんは、ここから少し離れたところに住んでいるから、歩いて行こうか」
「あっ、はい」
門から出る麗華の背中を追う。
もし一人で残って、不審者に間違われても困るため、駆け足でその背中を追った。
次回、【日本の聖女】との出会いです。
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