第60話 【十聖】呂布 3
カラン
金属が地面に落ちるように音が聞こえて来た。
そんなことを気にしている暇はなく、何とか【長谷部】の斬撃を避ける方法を考えなければならない。
「“氷花雪月”」
その声に思考が乱された。
しかしいくら待てど斬撃がやってくることはなく、俺の身体を襲ったのは、これまで経験したことのない冷気。
「……麗華」
「――」
目を開けた先にあったのは、全身が凍り付いている呂布と、胸に槍が突き刺さったことを示すような破れた服を着ている麗華。
彼女は美しい氷の花の上に立ち、ゴン太たちや俺を避けて、全ての存在を凍結させていた。
「まだ近付かないで、倒せてないから」
「……バレていたか」
俺が駆け寄ろうとすると、麗華に注意されてしまい、駆け寄るのを止める。刹那、完全に凍結していたはずの呂布が動き出した。
「この程度でやられる奴に、不意打ちは受けないよ」
「なるほど、己の自信が私の評価を高く付けることに繋がったという訳か」
呂布は会話を続けながら、【長谷部】を構えた。
「その剣は、飛ぶ斬撃を放つぞ!!」
「分かっているよ」
念のため警告したが、ギガントトロールと戦った俺を見ているから、【長谷部】の特性は知っているみたいだ。
しかし麗華が何かするよりも早く、呂布の手によって【長谷部】が振り抜かれた。全てを切断する巨大な斬撃が、一瞬にして麗華の下へと到達する。
「……効かないよ」
麗華は掌を突き出す。
特にスキルを使っているとは思えぬ、柔らかそうな掌に斬撃が触れた。
「……化け物め」
全てを切断すると思っていた呂布の斬撃は、麗華の掌によって容易く掻き消されていた。
「この武器、返してあげる」
麗華は地面に落ちている、先刻まで彼女の胸に刺さっていた槍を拾い上げる。
その槍は、創作上において中国の武将“呂布”が所持している方天画戟と銘のついた方天戟だ。
以前、中国史に嵌っている時に調べたことがあるから知っているが、興味のない人では、知らない程度の知名度しかない武器だろう。
麗華はそんな方天画戟を持ち上げ、やり投げの要領で投げた。弾丸を優に超える速度に達した方天画戟は、軌道上にあった呂布の胸を貫いた。
「ぐふっ――」
その勢いに負けて地面に倒れた呂布。
彼の胸にぽっかりと空いた穴からは、命の源たる大量の血液が噴き出し、口からも大量の血液が零れている。
「――」
始めて見たあまりにもグロテスク過ぎる光景。
しかし吐き気を催すことも、逃げ出したくなることもなく、俺はその光景を目に焼き付けていた。
「何か言い残すことはある……って話せないか」
立ち上がることのできない呂布に近付きながら、遺言はないか聞く麗華だったが、口と胸から大量の血を流して話せる状態ではない呂布のことを見て、直ぐにこちらに視線を移した。
「取り敢えず脱出しようか」
「分かった」
俺は甲羅にヒビが入っている亀之助のことを抱え、麗華の背中を追ってダンジョンから脱出した。
「あっ、スタンピードは完全鎮火したみたいだ」
ダンジョンから出ると、スマホが震えた。
確認すると、複数の冒険者によってスタンピードが発生したダンジョンが踏破され、ギルドから北海道全域でのスタンピードが完全鎮火されたことが書かれていた。
「じゃあギルドに行こうか」
「……分かった」
……この北海道全域で発生したダンジョンスタンピードのせいで、【内浦湾ダンジョン】の初踏破が有耶無耶になったりしないよな。もし表彰がなくなったとしたら、わざわざ北海道まで来た意味がなくなってしまう。
「どうしたの?」
「ダンジョンスタンピードが起きる前に、【内浦湾ダンジョン】を踏破したんだが、表彰がなくなってしまわないか不安でな」
「名前を売りたいの?」
「……いや、俺のパーティーメンバーが特殊な状態異常で目覚めなくなってしまったんだ。だから未踏破ダンジョンの踏破での表彰で、聖女に接触できたらお願いしようと思ってな」
「聖女……まいちゃんのこと? それなら私がアポ取ろうか?」
「知り合いなのか!?」
「知り合いもなにも、親戚だもん」
「――」
目の前に希望が居る。
あまりに唐突なチャンスに、言葉が紡げなかった。
「ん……残念」
「なにがだ?」
「うんん、こっちの話」
――洞爺湖ダンジョン ???side
「――」
大量の血を流し、段々と意識が朦朧となって来ている呂布の下へ、カツカツという足音が近付いて来ていた。
「こっぴどくやられているみたいだ」
「……」
力を振り絞り、声のした方へと顔を向ける。
「戦力を失うわけにはいかないし、治してあげるよ」
その人物が呂布に触れようとした瞬間、ぽっかりと空いた穴から大量の氷が噴き出し、その人間を呑み込まんとした。
「危なかった。流石日本最強、瀕死の敵を無駄に放置するわけないか」
先刻とは違い、呂布は身体の芯まで完全凍結していた。
そして既にその人物の姿はなく、呂布という人物がこの場にいた痕跡は一切残っていない。あるのは氷と炎の痕跡だけだ。
西園寺家の一人が、聖女の家系に嫁いでいるため、麗華は聖女と親戚になっています。
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