第58話 【十聖】呂布 1
不用意に動けば、やられる。
それだけの力の差が、俺とあいつの間には存在している。
「……」
額から噴き出た汗が、頬を伝って地面へと落ちる。
刹那、俺は殴り飛ばされていた。何とか【長谷部】で攻撃を受け止めることで、身体に対するダメージは極限まで減らすことができたが、その衝撃を殺し切ることはできず、俺は吹き飛ばされてしまった。
「一撃でこんなに――」
俺は麗華の力によってダンジョン内の洞爺湖へと落下している。
この勢いのまま落下すれば、全身を氷に打ち付けて、直ぐに復帰することは不可能。だから何とかして勢いを殺さなければならない。
「落下と共に剣を振り下ろせば、多少勢いを殺せるか……いや、やるしかねぇ」
大丈夫だ。
社畜時代も不可能な無理難題を上司から振られても、何とか根性でやり遂げてきたんだ。この程度のピンチ、生き抜くのは簡単だろ。
俺は自分を鼓舞しながら、空中で体勢を整える。【長谷部】を両手で握り、顔の前に持っていく。凄まじい空気抵抗により、それだけで疲労が溜まるが、腕を震わせながら無理矢理持ってきた。
「あとはタイミングだけだ……」
落下の恐怖に襲われ、目を瞑りたくなるが、タイミングを取るために目を開き続ける。
そしてその時がやって来た。
「――」
身体を回転させ、剣を振り下ろす。
刹那、思いもしなかったことが起きた。
「なっ!?」
凍り付いた湖が割れた。
大海を割ったモーセと違い、俺が割ったのは湖、それも完全に凍結した氷だが、それでも人にできる技ではない。
俺は目を見開き、目の前で起こったことを理解することで、脳のリソースの大半を割くことになった。
「ぎゃぁぁ」
凍りが割れたことで、俺は湖底に位置する場所まで落下した。
地面に身体を打ち付けてしまったが、水面から湖底までの高さ分のエネルギーだけだったため、衝撃は少なく、直ぐに復帰できる。
「ゴン太――」
ゴン太たちの下へと駆ける。
自分の足の遅さを呪いたくなるが、そんなことをしていても足の速さは変わらないため、アイツに勝てる方法を考えることに頭を回す。
「はぁはぁ」
「コン!」
「カメ!」
「ポン!」
「ニャン」
亀之助がその強固な甲羅を活かして前衛として、男の攻撃を受け止めている。そしてゴン太、たぬ吉、タマが後衛として攻撃を仕掛けていた。
「もう帰ってくるか」
しかし男は余裕そうに、拳だけでゴン太たちの攻撃を相殺している。
こちらの最大火力である“狐火”ですら、一切のダメージも与えられていない。
「はぁはぁ、お前は誰なんだよ!!」
「私はダンジョン嫌悪派・十聖が一人、呂布だ」
「何一つ分からねぇ……が、敵ってことは違わないよな?」
「そうだ。君の敵……いや、君ら冒険者の敵と言った方がいいだろうな」
できるだけ話を引き延ばして、こちらが有利になる情報を引き出さないとな。
「十聖ってことは、十人いるってことか?」
「そうだ……無駄話はここまでにしよう」
「チッ」
俺が舌を鳴らした瞬間、呂布の姿が消える。
焦って周囲を見回すような真似はせず、五感を研ぎ澄まして、空気の流れから相手の動きを探る。
「――っっっ」
横に来たことは分かったのに、あまりに呂布の動きが速すぎて、防御するのがやっとだった。
剣の面を殴られ、再び俺の身体は宙を舞う。しかし先刻ほどは吹き飛ばされず、数メートル身体を吹き飛ばされるだけで済んだ。
地面を転がり、勢いを殺しながら体勢を整え、呂布からの追撃に備える。
「なっ――」
バキッ
絶望。
その音が俺を絶望に誘う。
「かめぇ」
「固いな」
呂布に殴られた亀之助の甲羅にヒビが入る。
強烈なダメージを喰らった亀之助は地面に伏せ、動かなくなってしまう。
ただ俺の中の【テイム】スキルが、まだ死んでいないと言っているため、生きてはいるんだろうが、感情の昂りが抑えられない。
「――」
声にならない絶叫。
一番付き合いは短いものの、家族同然の仲間をやられ、怒りに頭の中が支配されてしまう。
その怒りは、【シンクロ】スキルを通じて、ゴン太たちにも波及する。
「コン!!」
「ポン!!」
「ニャン!!」
怒りは生物のリミッターを解除させ、真なる力を発揮させる。
それはヒトであろうと、魔物であろうと変わらないようだ。違う点と言えば、怒りに支配されたゴン太たちは、魔物としての本能が強まるようだ。
毛を逆立て、牙を剥き出しにして殺気を発し、今までの可愛らしいゴン太たちは居なくなってしまった。
俺も頭の中では冷静に考えられているが、表に出てくる感情は怒りだけで、ゴン太たちのことを言える立場ではないけどな。
「ふざけるなよ」
「ふざけてなどいない。敵である以上、犠牲というのは付き物だ」
「――」
俺は怒りに任せ、【長谷部】を振り抜く。
発生した斬撃は、ギガントトロールを倒した際に発生した三日月状の炎だった。
呂布の所有しているスキル
【膂力増強】etc.
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