第303話 作戦会議
小早川への警戒心が原因なのか、書類へと向き合う気が失せてしまった。きっと言い訳だと思われるだろうが、書類仕事を気分が乗らずにやるよりかは、やらない方がまだマシのはずだ。
「許されるのであれば、ダンジョン協会の方に顔を出して、【皇居ダンジョン】に挑みたいんだが、甲斐は絶対に許さないだろうな」
「ええ、許しませんよ」
「早かったな」
「浴室に案内しただけですので……どうされますか?」
「【皇居ダンジョン】に行くかどうかの話か?」
「それは駄目と言ったばかりでしょう。私が聞いているのは、あの女性を信頼するかどうかの話です。悟も分かっているでしょ」
「まあな。あの女は一切油断できない。立場が圧倒的に上の者を前にしても、自己の立場を正確にして、受け入れられる塩梅の要求をしてきた。油断できる要素は一切ないだろうな」
「ええ。私が招聘についての書類を張り出した時、向こうから接触してきたんだけど、あまりにも早くて驚いたのよ。それも商会側のマッチアップだった場合は、早すぎることも頷けるわ」
やっぱり何か裏があるんだろう。
小早川単体で見た場合、かなり優秀だと言える。そんな奴がこんな世界になったとはいえ、野良でフラフラしているとは到底思えない。どこか新興の商会……俺たちに喧嘩を売って来たあそこみたいなところに、所属しているはずだ。
まあただ単に変な奴だった。って言葉に纏められることはできてしまうが、あのタイプが只の変な奴だとは思えないし、何らかの理由があって接触してきたと思って、今後の方針を決めていくべきだろう。
「それで甲斐はどうするべきだと思う?」
「そうですね……正面から潰すべきだと思いますよ」
「その心は?」
「我々を嫌うものがいようと、正当な王政であることに変わりはない。もし商会が一部の民を纏め上げて、打倒窪田王政を掲げたとしても、我々がレオン政権を打倒したように、力で打倒しなければならないが、それだけの戦力はレオン政権が瓦解した時点で、この壁内には存在していないでしょう。ならば正面から潰したとしても、さほど問題は起きないはずです。関係のある商会や企業たちも、自分の命が一番かわいいでしょうしね」
「なるほどな……」
甲斐の主張を纏めると、俺たちの戦力は圧倒的だから、一商会を正面から潰した程度で、困る事態になるはずがないってことか。
「まあ商会に人間を招いて、小早川と甲斐、向こうの人間で協議を行ってもらうのが安牌か?」
「まあそうでしょうね。初めから武力で潰しに行けば、流石に心証が悪すぎるので、協議の破断以降も向こうが抵抗してきたら、仕方なく武力制圧したとするのがよろしいかと」
「よし、じゃあ甲斐はその旨を小早川に伝えた後、商会側の人間にも同じことを伝えてくれ。くれぐれも入場を許可するのは商会長と補佐一人までだ。それ以外の者が入場して来ようとしたら、躊躇なく攻撃してくれ」
「はっ、畏まりました」
甲斐が部屋を去ると、俺は再び一人になった。
机の上に置かれた書類から目を離し、棚に仕舞われた書籍類に目を向ける。そこにある書籍は多種多様。専門的な技術書だったり、大衆向けのコミックなど本当に多種多様だが、法に関しての本は一冊もない。
「これを引けば……」
本を無造作に引いて戻すを繰り返した。
結果、何も起こらない。当然、本棚の先に隠し部屋があるなんてことはなく、これは普通の本棚だ。隠し部屋はロマンがあって、いつかは作ってみたいが、まあ豊臣たちを倒すまではお預けだな。
一冊の本を手に取ったまま、椅子へと戻る。眼前には大量の書類によって山が形成されているが、そちらは完全に無視して、手元の本に目線を落とす。
「『冒険者のすゝめ』か。滅茶苦茶シンプルなタイトルだけど、世界中の冒険者が一度は目に通す名著……まあ俺は初めて読むわけだから、例外なく冒険者が読むという訳ではないが……名著に変わりはないはずだ」
一ページ目を開いた。
そこに乗っていたのは、世界で初めてダンジョンを発見した者の写真と名前。全く見覚えもなければ、聞き覚えもない。ブラック企業時代は冒険者とか全く興味がなかったから、知らないのも仕方ないかと思ったが、ニュースとかで一度も聞いていないのは、少々不思議に思えた。
「まあいいか」
三ページ目、五ページ目とドンドン捲って行く。
冒険者の心得やダンジョンの特性など、様々な役に立つことが記されていたが、今となってはそこまでありがたみのない情報ばかりだった。
「今後の役に立つと思って、手にとってはみたが、既に経験の方が勝っているようだな」
俺は冒険者のすゝめを戻した。
商会との舌戦の結果は!?
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