第304話 協議後の会話
様々な書籍を手に取って戻すを繰り返していると、扉がノックされた。合わせて聞こえて来た声が、甲斐のものだったため、特に警戒することなく開けるように言う。
「協議が終了しました」
扉を開いたのは、予想通り甲斐だ。
その手の中には一枚の書類がある。足元から顔に向かって、じっくりと舐め回して見るが、特に傷とかは負っていないように見えた。まあここに来るまでに、ポーションとかを使用している可能性を除外できない以上は、武力行使が起きていないと断言することはできない。
「どうだった?」
「概ね、事前の予想通りでした。向こうは伝手を理由に、若干脅しの意を含んだ言葉を何度か吐いて来ましたが、法的根拠を理由にきっぱりと断りました」
「向こう側の反応はどうだった?」
「少々イライラとした様子でした。あの場では我慢して、特に文句などを言ってくることはありませんでしたが、絶対に不満を呑み込んだということはないでしょう。あの顔は復讐心に呑まれた者と、とても似ていましたから」
「なるほど。つまりは搦手、もしくは武力で抵抗して来る可能性が高いってことか。武力で来てくれる方が、こちらとしてはかなりありがたいが、もし搦手で来た場合、少々面倒くさいな」
協議前から予想していたことだが、向こうは搦手でやってくるだろう。武力に関しては、武力で王となったレオン政権を正面から打倒したという圧倒的実績がある。対して搦手に関しては、特に実績などは見せていないから、そちらで来る方が確実。
「どのような搦手で来るのか、できるだけ調べておいてくれ、甲斐」
「はっ、畏まりました」
甲斐は再び部屋を後にした。
残された俺は、手渡された書類に目線を落とす。記されているのは、協議の書き起こし文。甲斐が言っていたように、商会側の不満が読むだけで分かるような、刺々しい文が最初から最後まで記されている。
だが俺が注目したのは、商会側の文ではない。そもそも商会側が不満に思っていることなど、初めから分かっていたためなので、注目する必要はない。そんな俺が注目しているのは、小早川が発した言葉たちだ。
かなりの分量があるため、読み終えるまでにかなりの時間を要するだろうが、まあ代わり映えしない書類たちに向き合うよりかは、幾分もマシな作業だ。
そんなことを思いながら、書き起こし文を手にしたまま、自室へと戻る。ここに居たら別の仕事を割り振られる可能性も大いにあるため、仕事に集中するのであれば、自室の方が何倍も捗る。まあ自室への入室を許可している者が、そこそこいるため、集中できない日は全く集中できないんだが……。
「ふぅ、よくよく考えたら王様になっても仕事に追われるのか……昔とかは王様とかお金持ちとかを羨んでいたけど、実際当事者になってみないと分からない苦悩がいっぱいあるのか」
そんな関係のない思考に寄り道しつつ、書き起こし文を小早川の発言を中心に読み進めていく。
そこそこの量を読み進めてきたが、今のところは普通の舌戦のようにしか読み取れていない。小早川が何らかの小細工や、己の利益になるようなことを発言していると思っていたが、俺の思い違いなのか?
「うーん、一通り読み終えたけど、俺たちが不利益になるような発言は一切していないように思ったな。なんらかの不利益になる発言をしていたとしても、俺や甲斐の目を潜り抜けてしていることになるから、俺の身内で発見するのは難しいだろうな……」
書き起こし文から目線を外し、ソファーの上に寝っ転がる。
これは旧日本国時代に作成された超高級ソファなので、寝っ転がっても身体中が痛くなるようなことはない。そんな状態で天井を見上げた。
広がる天井は、とても美しく作り上げられている。レオンから政権を奪取してから、かなりの時間が経過している。皆の働きもあって、城はほぼ完成していた。
この城は俺の要望ではなく、江梨子や甲斐が必要だと言うから、作られた城だ。主な理由としては、権威を作るためだと言っていた。王であるためには、武力だけではなく権威も必要らしいからな。
「厄介な事象は、早めに片付けておいて、【先駆者】探しを始めていきたいな。はぁ、力で解決できたら、何倍も楽なのに……はぁ、王様ってのは大変な職業だねぇ」
俺は書き起こし文を机へと投げ出し、全身をソファに預ける。
風呂は入っていないので、仮眠にはなってしまうが、現実を忘れるには寝るのが一番だ。
目を瞑り、意識が遠のいていく。
目覚めた後は大量の仕事に追われるだろうが、今だけは全てを忘れて眠るとしよう……。
商会の妨害方法とは⁉
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