第299話 戦略を練る
俺は治るまで動かないと伝えると、凜々花たちは素直に四肢から離れた。軽く力を籠めようとしたが、全く力は伝わらず、凜々花たちという重しが離れたというのに、四肢は殆ど動かせない。
寝返りすら億劫になるほど、身体は殆ど動かない。
俺の視界には天井があり続け、いくら趣があっても飽きて来る。話し相手が欲しいものだが、まいちゃんも凜々花も国家運営で忙しいだろうし、従魔たちは俺がやられたのを不甲斐なく思ったのか鍛えるのに必死、麗華は……分からない。アイツだけは今何をしているのかを教えてくれなかった。まあ麗華であれば、変なことはしないだろうし、特に気にしてはいない。
「――」
声は相変わらず出ない。
声帯に関しては、そこまで無理をした覚えないが、間接的に傷ついてしまったのだろう。そうでなければ、声が出ないことに説明がつかないからな。
「――」
ずっと天井を見続けるのは、あまりにも時間の無駄過ぎるし、今後の攻め方を考えておくか。
あのクジラスケルトン――モディクが教えてくれた。
豊臣たちが本拠地としている場所は、鹿児島県だと。ここからでも遠いというのに、窪田王国からだと更に遠くなる。こちらが攻めようとすれば、体力の消耗が避けられないというのに、向こうは豊臣の【転移靄】のせいで、ほぼ体力の消耗なく攻めて来られる……本当にクソゲー以外の何者でもない相手だな。
豊臣側の戦力は、【魔十二槍】の幻覚を見せる霧を生み出して来るヴェーヌ、ワイトキングから魔人と成り、魂に関する力を専門とするシュペン、攻防優れた能力を持つユニコーンの魔人、クソ医者ことアイン。
ここに先日降したモディクを加えて四人……残り八人の強者が居る。豊臣は勿論のこと、ゴン太……今は“玉藻御前”と言う名前だったか……とにかく、敵は強者揃い。
「――」
こうやって倒れている間も、敵は戦力を増強しているのだろう。
豊臣が魔物を魔人にする条件は分かっていないが、十二人を魔人へと変えている以上は十三人、十四人と増やせない道理は何処にもない。警戒する分、損はしないはずだ。
逆にこっちの戦力は俺と従魔たち、麗華と江梨子。
他には信綱にペドロが共に戦ってくれる、確定メンバーだろう。あとはここに居る凜々花やまいちゃん、アメリカナンバーツーのロジャースは交渉次第と言ったところか。
凜々花たちが共に戦ってくれるのだとしても、まだまだ戦力は足りていない。やはり散り散りになった【先駆者】たちを探すべきなのだろう。今のところ生死不明ではあるが、もし生きているのであれば戦力が大きく変わる。窪田王国に帰還したら、先駆者探しを始めたいが……王に成って直ぐ遠征しておいて、間髪入れずにまた遠征は少々問題か。
少なくとも一か月くらいは内政に力を入れて、俺たちの政権を盤石にしてから、【先駆者】探しを始める。これが最適解か。
今は江梨子が国王代理を務めてくれているから良いが、国に戻ったら俺も政務に追われる毎日になるだろう。国王というものが、どれだけの仕事を抱えているのか分からないが、暇ということはないんだろうな。
まあ国王になることを受け入れたからには、最後まで職務を全うしなければ。
「――」
そんなことを一人考えていたら、扉がノックされた。
返事をしようとしても、声は出ないので、ノックにあまり意味を感じられないが、特に見られて困るようなことはしていなかったため、慌てずにノックの主を迎え入れた。
入って来たのはまいちゃん。手にはトレーがある。
寝っ転がっているせいで、トレーの上に何があるのかは分からない。
「元気そうだね、悟」
「……」
俺は首を縦に振って答える。
まいちゃんもミラーリングするように、首を縦に振っていた。
「良かったよ。少なくとも、現状維持はできていることが確認できて。もしかしたら現状維持すら、できなかった可能性もあったからね」
「……」
回復能力に於いては日本一、世界規模でもトップクラスのまいちゃんが現状維持すら危うい怪我……【シンクロ】の過剰使用は考えて使わなければならない、ってことだろう。
「まあ現状維持ができるなら、時間を掛ければ再生できるだろうし、時間が掛かることは我慢してよ」
「……」
再び首を縦に振って答える。
まいちゃんは首を縦に振らず、ただ笑みを浮かべている。その表情はなんだか怖い。
「――?」
「今の悟は抵抗できないだろうし、凜々花たちは来ない……環境は整っているね」
「――」
俺の勘が駄目だと言っている。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、身体は言うことを聞いてくれない。あぁぁぁ――
モディクは【魔十二槍】の中でも最弱。
これまで戦ってきたヴェーヌやシュペン、アインたちは本気で戦っていません。
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