第292話 首魁
無理矢理切り開いた道。
スケルトンたちはまだまだ控えているため、直ぐに閉じてしまうだろう。だから無理矢理にでも突っ込んで、敵の首魁を潰す必要がある。
「竜馬、頼む」
「ヒヒン!」
竜馬は加速した。
スケルトンたちの間を無理矢理進む。当然、スケルトンたちは足を止めるために、多種多様な攻撃を放ってくる。矢だったり、斬撃だったり、魔法だったりな。
「竜馬、風の膜を張り続けてくれ」
「ヒヒン」
風の膜で矢は概ね防げる。
魔法も俺が迎撃すれば、これも概ね撃ち落とせる。
問題は斬撃だ。近接攻撃である以上、風の膜では守り切れない。俺が直接、斬撃を放とうとしている個体を落とさなければ、攻撃を防ぐのが難しい。しかしこんなところで体力を消耗していたら、敵の首魁との戦いで、真面に戦えなくなってしまう。体力の配分が、何とも難しい状況だ。
「【シンクロ】」
“水弾”でスケルトンを仰け反らせて、できるだけ接近を拒む。
数千にも上るスケルトンを、全て対処するのは不可能だが、多少は時間を稼げるはずだ。その間に、敵の首魁の元へと辿り着くことができれば、賭けは俺たちの勝利。辿りつけなければ、俺たちの負けだな。
「見えた」
大量のスケルトンの先、敵の首魁である女の姿が視界に入った。
拳に炎を灯す。この距離であれば、“火拳・改”の射程範囲内だ。
「“火拳・改”」
拳を突き出した瞬間、炎が巨大な拳となって、敵の首魁の元へと届いた。炎は敵の首魁を呑み込み、その身体を焼き尽くす。そう想定していたのだが、そんな考えは甘いと言わんばかりに、炎に包まれている敵の首魁は、平然としていた。
ゴン太由来のこの炎は、かなりの熱を孕んでいるはず。だというのに、アイツは焼き尽くされるどころか、火傷一つ負っていないように見えた。
「まさか、炎ですらダメージを与えられないのか……まあ、十分に時間を稼げただろう。なあそうだろ、麗華」
「うん、十分足りた」
甲板に登ってきた麗華。
その腕には霜が降りている。甲板に添えられる掌。刹那、甲板に存在する敵対存在が、完全に凍結する。それは敵の首魁である女も例外ではない。
「悟、倒せてないよ」
「ああ、分かっている」
あの女がこの程度で倒せる奴ではないというのは、ここまで戦ってきた俺が一番分かっている。麗華の氷は、足切り性能がかなり高いが、それを超えてくる相手には、あまり有効打にはならない。まあ物理攻撃として扱うのであれば、その限りではないが……。
女を包んでいる氷にヒビが入った。
腕の辺りにできたヒビは、どんどん広がっていく。それに合わせて、こちらの緊張度も上がっていった。
――パリーン
硝子が割れるような音と共に、女が氷の中から出てきた。両方の掌から骨が飛び出し、白い杭のようになっている。
「……面倒な力。先に潰す」
初めて聞こえた女の声は、とても低かった。
低いと入っても、男性の中でも上澄みのような低さではなく、ダウナー系と表現できる範疇の低さだ。
その女の姿が消えた。否、消えたのではなく、消えたと錯覚してしまうスピードで一気に移動した。その先は、言葉の通り麗華の前だ。
「“冷鎧”」
氷の鎧が麗華を包み込んだ。
突き出された骨の杭が、氷の鎧に打ち付けられる。ヒビが入った。骨の杭にではなく、氷の鎧にヒビが入っている。
「“火拳”」
ヒビが入ったとはいえ、完全に砕いたわけではない。杭が氷の鎧に突き刺さり、女の身動きを著しく阻害しているはずだ。
そんな考えのもと、俺は接近戦を挑んだ。
炎を灯しながら振り抜いた拳は、女の腹部を捉えた。殴り飛ばせない。流石に膂力の問題ではないと、思いたいな。
「……邪魔」
逆に俺が吹き飛ばされていた。
甲板から落ちそうになるが、何とか踏み止まった。見上げる。麗華を守る氷の鎧に入ったヒビが、より広がっていた。あと十数秒程度で完全に割れてしまうだろう。
「……」
俺は息を潜め、できるだけ目立たないようにする。
これは自己保身のためではない。勝利するための最適解。そう思っての行動だ。しかし何もしないわけではない。【シンクロ】で従魔たちの視界と繋げる。映るのは様々な方向から見た、女の姿だ。
「……今だな」
従魔たちが一斉に襲い掛かった。
女は全身から骨を生やし、従魔たちの攻撃を拒む。麗華や俺の炎ですら、まともなダメージを与えられない防御力を持つ相手だ。当然、従魔たちの攻撃でもまともなダメージは与えられない。そんなことは、俺も従魔たちも最初から分かっている。
「これだけのお膳立てをしてもらって、何の成果も得られないのは、将軍の名に恥じるな」
空から聞こえて来る、聞き馴染みのある声。
見上げてみるが、太陽に被り、その姿はシルエットでしか見えない。だがそれが誰なのか、俺たちは分かる。徳川凜々花。新日本国の征夷大将軍であり、俺たちの仲間だ。
「私たちの国は、攻め落とさせない」
骨を断つ。
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