第291話 抜け出した先
完全に骨によって囲まれ、真っ暗になった。
前後の感覚がなくなっては困るので、自力で明かりを灯す。燃え上がる拳だが、この炎は俺自身の体力を燃料とするため、酸素はほぼ減らない。
竜馬の上に乗ったまま、拳を突き出す。
距離的には届かない。だがインパクトの瞬間、火力を最大まで一気に上げることで、炎が巨大な拳と化して、骨に対してパンチを放った。
「“火拳・改”」
“火拳・改”は正面の骨を砕き、希望を切り開く。
暗かった道を照らす、一筋の灯。俺をブラック企業から救い出した、ゴン太の炎は、俺の腕へと移り、京都を救う灯へと変わった。
「進んでくれ」
「ヒヒン!」
俺の期待に応えるように、竜馬はこれまで以上の加速を魅せた。
背中側から追いかけて来ている骨を置き去りにして、空母までの距離を詰められた。
そしてその時がやって来た。
想定よりも時間が掛かってしまったが、無事にスケルトン空母の前まで来ることができた。甲板には大量のスケルトンたちと、中央に居る人のような存在――多分魔人と思わしき者が立っている。
竜馬の上から降り、スケルトンに囲まれている人らしき存在に対して、軽く会話を試みた。
「お前が、この骨たちの親玉だな」
「……」
離れていれば人間と誤認する姿をしているというのに、その女は一切口を開かない。これまでの魔人たちは皆、人の言葉を離していたので当然だと思っていたが、魔人に成ったとしても、人の言葉を喋れるようになるという訳ではないのか?
「何とか言ったらどうだ――ッ!?」
女がこちらに掌を向けて来ると、大量の骨が伸びて来た。
圧倒的な成長スピード。発生点から距離が近い。直ぐに逃げきれないと悟った。正面から破壊するしか、俺たちに逃れる術はない。
「“火拳”!」
炎を纏った拳を突き出した。
骨との接触。生み出された地点から距離が離れていないせいか、俺たちの接近に対して迎撃してきた時よりも、より頑丈になっていた。だが“赫猛”で強化した状態であれば、何とか破壊することはできた。しかしもう少し強度が上がったら、破壊するのは難しいかもしれないな。
取り敢えず、空母上での初撃は防げた。
あとはこちらが攻撃に転じることができれば、流れを変えられるだろうが、まあこれは希望だ。一先ず凜々花たちが合流するまで、この橋頭堡を確保し続けるのが最低条件だろう。
「……」
「来るぞ!」
「ヒヒン!」
女は掌から骨の弾丸を飛ばしてきた。
勘が受けてはいけないと警鐘を鳴らしたため、相殺するのではなく避けることを選択した。それが最適解だったかどうかは、その攻撃を受けるまで分からない。だが自分の勘を信じ、これから避ける選択を採るだろう。
掌はこちらに向けられたまま。だが弾丸も、骨の物量攻撃もしてこない。ただ時間が過ぎていく。凜々花たちの合流を考えれば、時間はこちらの味方のはずだが、なんだか不安になってくる。
「……」
声は出さず、軽く竜馬の身体を叩いた。
俺の意図を理解してくれた竜馬は、鳴き声を出すことなく、ただ首を縦に振った。一歩、前に出る。刹那、一瞬で最高速度まで加速する。
「……」
これまで一度も動きを見せて来なかったスケルトンたちが、一斉に動き出す。しかし囲い込むわけではない。ただ俺たちの歩みを邪魔する、時間稼ぎの消耗品のような動きだ。
やはり何か狙いがあって、攻撃をしていなかったのだろう。まあスケルトンの動き自体が、ブラフという可能性も捨てきれないが、どちらにしても女の元へと至らなければ、勝てる戦いも勝てなくなる。
「竜馬、ただ一直線に進んでくれ。俺が道を開く」
「ヒヒン!」
「【シンクロ】」
借りる力は、使い勝手の良い“湧沸”だ。
熱湯を自由に操り、スケルトンの頭部を狙う。スケルトンたちは人型ではなくとも、四肢と頭部がある五体で作られている個体が多い為、狙いは弱点の可能性が高い、頭部へと定めた。
一番手前に居た個体の頭部を貫くことはできたが、そこで“湧沸”の勢いは止まってしまった。このままやっても、ただ体力を削るだけで、道を開くなど到底不可能だろう。であれば、作戦を変えなければならない。
「無理してでも、押し通る」
両腕に炎を灯した。
レオンに破壊された左腕も、右腕同等の火力を出せている。それぞれ拳を同時に突き出した。傍から見たら、かなり滑稽な姿だろう。しかしそれで成果を出せるのであれば、どれだけ滑稽であろうと構わない。
炎は巨大な拳と化す。
拳と言っても、それは物体ではなく炎に過ぎない。炎の拳はスケルトン数十体を呑み込み、数秒経って焼き尽くした。
「はぁはぁ、やっぱり範囲攻撃ってのは、燃費が悪いな」
呼吸が乱れ、体力も消耗しているが、道は開け、有言実行した。
あとは敵の首魁を撃破するだけだ。
スケルトンもかなり強いです。
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