第290話 蹄の音
骨による物量攻撃に、変化が起きた。
異常な速度で成長し続けていた骨は、俺が抜け出したのを境に、面での攻撃から点での攻撃へと変化していた。俺たちの逃げ場を塞ぐのではなく、正面からぶっ潰す。俺の技量から、その戦法でも勝てると思ったんだろうな。
「どうする、凜々花。あれは一点集中型の可能性が高いから、生半可な攻撃では破壊できないと思うぞ」
「……悟は、今も【飛ぶ斬撃】に属性を付与できるのか?」
「武器の性質が変わっていないのであれば、【シンクロ】で【飛ぶ斬撃】に属性を乗せられると思うが……」
「では試してみてくれ」
凜々花が【長谷部】を渡してきた。
軽く握ってみる。凜々花と再会した時以上に懐かしさを感じた。
「よしっ」
【シンクロ】で、【長谷部】の【飛ぶ斬撃】に介入して、不可視の斬撃に属性を乗せる。そんな状態で思いっきり振り抜いた。
鈍い音が鳴る。凜々花が放ったものと比べても、負けず劣らずといったところだろう。そこに属性が付与されているわけで、どちらかと言えば、俺の斬撃の方が威力が高いはずだ。
ここで付け足した属性は、従魔たちのものではない。
ゴン太由来の、今となっては俺自身の力だ。豪炎。羽柴が豊臣を名乗るよりも前、【長谷部】でゴン太の“狐火”を【飛ぶ斬撃】に乗せた時と比べると、圧倒的に火力も威力も上がっている。
異常な成長を続ける骨に着弾した。
“火拳”以上に破壊することができたが、それでも完全に止めることはできていない。それどころか成長速度が加速しているように思えた。
「破壊は可能でも、ジリ貧で押されてしまう。やっぱりこの技を使っている人物を、直接叩かない限り、この骨の攻撃は止められないな」
「悟でも難しいか……れいちゃんはどうだ?」
「私? 試してみる」
麗華はその場でしゃがみ込み、地面に触れた。
戦場が冷えた。陸と海の境が曖昧になる。透明な大地として、陸も海も統合された。麗華の【絶氷】と【氷結】は、母なる自然たる大地にも、大海にもその力を及ぼし、その営みを強制的に停止させる。
「やっぱり、骨は一時的に凍らせられても、その異常な成長速度で、破壊されちゃったよ」
大地と大海が凍り付いたままだというのに、敵の骨は一瞬停止しただけで、直ぐに成長を再開させていた。あの骨は自然にも勝る脅威。その一文だけで威圧感がある。
「どうする凜々花。あの骨もあと少しで、ここまで届くぞ。俺たちの攻撃で時間を稼げても、攻撃の主を叩かないと、根本的な解決にはならないだろ」
「……この中で、一番移動が速いのは誰だと思う?」
「移動が速いのは……竜馬だろうな。だがこの攻撃をしてくる奴相手に、有効打を入れられるような攻撃手段は持っていないぞ」
「では悟が騎乗して向かった場合はどうだ?」
「まあ竜馬単騎で行くのに比べたら、多少は遅くなってしまうだろうけど、それでも俺が一人で走るよりかは速いだろうな」
「じゃあ頼んだぞ、悟」
「……ああ、分かった」
竜馬の上に乗り、完全に凍結した海に閉じ込められているスケルトン空母を目指し、一気に駆け出す。竜馬も進化はせずとも、これまでの戦いから十分な成長をしている。
骨は一点集中していた一部を、こちらへと割いて、迎撃に移った。
「竜馬、頼んだぞ」
「ヒヒン!」
竜馬の駆けるスピードが上がる。
骨は氷を貫き、土を巻き上げた。雨のように降り注ぐ土砂だが、竜馬の風の膜によって、俺たちに降りかかることはなかった。風の膜がある限り、間接的なダメージは受けることはないだろう。あとは骨による迎撃を避け続けるだけだ。
俺たちが骨の迎撃を避ければ避けるほど、こちらに割く骨の量が増えていく。俺たち二人からすると、かなりキツイことだが、凜々花たちが楽になるのであれば、トントンといったところだ。
「もう少しで、スケルトン空母の元に辿り着くから、あと少しだけ頑張ってくれ」
「ヒヒン!」
首元を撫でてあげると、竜馬は嬉しそうに嘶き、回す足の速度を上げた。合わせて骨の迎撃も密度が上がっていく。
「竜馬、左から来るぞ!」
「ヒヒン!」
側面から伸びて来る。
点ではなく面。物量で呑み込もうとしているのだろう。実際、点での攻撃の方が、避けやすくてありがたかった。だがまだ竜馬は余裕そうに避けられている。このペースであれば、あと三十秒もあれば、空母の元へと辿り着けるはずだ。
「――ッ!?」
薄い骨が俺たちを囲い込むように展開された。
逃げ場は既に塞がれている。進もうが止まろうが、後退したとしても骨に潰される。袋のネズミ――骨内の馬だな。
「竜馬、進み続けろ」
「ヒヒン!」
竜馬は俺を信じて、進み続けてくれた。
あとは期待に応えるだけだ。
敵の骨は絶えず成長し続けている。
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