第288話 開戦前
スケルトン軍団の撃退を約束した俺は、麗華たちと共に京都の街を見物することになった。凜々花も一緒にどうかと誘おうと思っていたが、広忠が話しそうにしていたので、一度二人っきりにしておいた。
あの親子がどんな話をするのかは分からないが、向こうから話して来ない限り、二人のことは忘れることに決めている。
「やっぱり、人々の視線が痛いな」
「うん。まあ危害を加えて来ない限り、特に気になりはしないけど」
「流石、元【日本最強の冒険者】だな」
「人に、特に冒険者から見られるのは、慣れているからね」
人々の目線が痛い主な理由は、たぬ吉たちが居ることだろう。
スケルトンが魔物であろうとなかろうと、ここの住民の魔物に対する印象は、窪田王国の住民の数倍は悪い。まあ向こうはレオンのお陰で、魔物の脅威から離れられていたから、当然の話と言えば、そうなんだが。
「ほとんどの建物が、一度建て直されているはずなのに、古都と呼ばれていた趣が残っているのは、まいちゃんの方針なのか?」
「分からないけど、まいちゃんは京都の街が好きだったから、記憶にある京都の街を残したかったんじゃない?」
「そうか……まいちゃんが好きだった街を守るためにも、頑張らないとな」
「全力で守る。人々から嫌われても、身内から嫌われなければ、構わないから」
それは俺も同じだ。
国王になったからには、国民からの好感度は重要になってくるが、国外の好感度は一切関係ない。だからこの街の住民からいくら嫌われようと、心が傷つく以外のデメリットはないな。
「京都に来たなら、八つ橋とか抹茶とかを食べたいけど、技術継承は上手くいってないのか?」
「もし上手くいっていても、私たちに振る舞ってくれる人はいないよ」
「そりゃあ、そうだな」
観光については、スケルトンたちの撃退を完遂してから、もう一度考えるとしよう。俺たちの手で住民や街のことを守れば、見る目も多少は変わるはずだ。
「相手がスケルトンだとすると、まいちゃんの力が一番役立ちそうな気もするが、それでも苦戦する相手ってことなのか……麗華はどう思う?」
「まいちゃんはトップだから、戦場には出て来ない。戦場に率先して出て来るトップは、あまりいない。だから悟は異常値」
「異常値って……まあ王としての自覚なんてものは、未だに芽生えていないが……」
「慣れれば、芽生える。私だって、日本最強だって自覚はなかった。江梨子って存在を知っていたのもあるけど」
「江梨子が日本最強だってのは、その活躍を見れば、誰でも分かることだからな。ただ江梨子は表舞台にほぼ立っていなかったから、表舞台に立っていた麗華が、日本最強って呼ばれるのは仕方のないことだ」
「……表舞台に立つつもりなんてなかった。それが嫌だったから引退したわけだし」
「まあ有名になるのは、良いことばかりじゃないからなぁ……アンチはどんな善人であろうと、一人は付いて来るからな……」
ちなみに俺のアンチは居なかった。
そもそもアンチが付くほど、俺は有名じゃなかった。【魔境群馬ダンジョン群】制圧の時だって、ニュースではダンジョン協会上層部と“絶氷の薔薇姫”による作戦だって報道されていたからなぁ……。
「そういうのを有名税だって言って、アンチを正当化する人が居るけど、ならそれ相応の見返りがあってもいいだろ、って思わないか?」
「普通の税金だって、私だと支払ってる量に対して、見返りが少ないよ?」
「あー、確かに金稼ぎの天井たちは、得られる福祉が少ないのに、支払う額が桁違いに多いからな……前の俺なんて、雀の涙程度しか払っていなかったから、得られるものの方が多かった。まあそもそもの収入が少なかったから、生活が豊かだったわけではないけどな」
「……」
気まずい空気になってしまった。
こんな空気にするつもりなんて、一切なかったのに、話の流れで気まずい空気を作ってしまった。こうなってしまったら、何らかの外的要因がなければ、元の空気に戻すのは困難だぞ……。
そんな外的要因を求めていると、都合よく、気まずい空気を掻き消すような巨大なサイレンが鳴り響いた。
「何の音だ?」
「多分、スケルトンが来たんじゃない?」
「なるほどな、じゃあ凜々花たちと合流して、俺たちが向かう場所を話し合わないとな」
「うん」
気まずい空気は消えたが、普通に話している場合ではなくなってしまった。スケルトンの力と量が分からない以上、死地になる可能性も大いにある。そんな状況で、談笑なんてしていられない。
「行くか」
「うん」
俺たちは先刻の寺へと向かう。
そこにはまいちゃんと凜々花、広忠の姿があった。その表情は、全くもって芳しくない。
「……マズいのか?」
「ああ。敵の首魁が、数千に上るスケルトンを引き連れて、行軍している」
「数千……全力を出さないと、負けるな」
「現場の指揮権は、凜々花にある。悟たちは凜々花の指示の元、動いて」
「ああ、分かった」
俺たちは作戦を立てた後、迎撃に向かった。
正体の分からない相手との、戦争が始まります。
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