第287話 聖と生
閉じられていた扉の先に居たのは、これまた見覚えのある顔だ。
彼女と初めて出会ったのは、北海道全域で起こったスタンピードで麗華と出会った後、その伝手を使って京都に来た時のこと……まいちゃんこと舞子だ。
「まいちゃん!?」
「久しぶり、悟」
「まいちゃんも凜々花と一緒に居たのか」
「偶然だったのか、恣意的だったのかは分からないけど、転移させられた先が一緒だったからね」
「そうだったのか……」
まいちゃんと凜々花が一緒に居たことで、俺が京都を訪れた理由が一気に満たされた。
この後の展開がどうなるのかは分からないけど、わざわざ京都を探し回る必要がなくなったのは、帰還までの時間をだいぶ短縮できるから、かなり嬉しい展開だ。
「それで、悟は会談を申し込んだわけだけど、どういった御用かな?」
「ああ、見てわかる通り、ちょっと片腕を失っちまってな。まいちゃんにこれを治して欲しいんだ」
「なるほどね……まあ私の力があれば、欠損した四肢程度であれば、簡単に治せるよ」
「……ってことは、条件があるのか?」
「そう。以前までであれば、私たちは仲間だった。けど時間が経って、私たちは立場が変わった。悟は窪田王国の人間で、私は新日本国の天皇であり、凜々花はウチの征夷大将軍。いわば別の国の人間になっちゃったってこと。友好国であれど、対価なしに施しをするのはダメってことは、悟も分かっているでしょ?」
「ああ、同じパーティーメンバーって訳でもないのに、腕の再生を頼めるほど、図太い神経はしてない」
そこそこの期間、同じパーティーとして活動してきたのが原因だと思うが、まいちゃんが末端とはいえ、皇族の人間だったことをすっかり忘れていた。
この日本列島を治めるうえで、天皇家の存在は他の理由を圧倒する正統性があるだろう。長らく天皇家が籍を置いていた京都というのも重要で、この日本列島において、もっとも正統性がある集団はまいちゃんだと断言してもいい。
そんなまいちゃんに腕の再生を頼むのは、なんだかよろしくない気もしてくるが、まいちゃん以外に心当たりがない以上、ここで治してもらえなければ、一生左腕は帰って来ないと覚悟した方がいい。
「……こちらからのお願いを聞いてくれるのであれば、その腕を治すのも吝かではない」
「ああ、俺にできることであれば、なんでもやろう」
「では私たちと共に、撃退を手伝ってもらえないか?」
「撃退? 凜々花が言っていた、ここの民を殺伐とさせている原因のことか?」
「その通りだ。私たちはとある勢力から、何度も攻撃を受けている。凜々花のお陰で、相手の動きを逐一知ることはできるが、それでも数で負けているせいで、被害をゼロにすることはできていない」
凜々花が【気配察知】のスキルを有しているから、防衛戦に勝利できているだけで、勢力的にはその敵の方が勝っているということか。
「その敵勢力の詳細について、何か分かることはあるのか?」
「殆ど分かっていない。分かっていることと言えば、敵勢力の大半が人ではないということかな」
「人ではない……魔物ってことか?」
「魔物と言い切るには、少し情報が足りないと思う。私たちの街を襲っているのは、人骨や動物の骨。それが魔物であれば、スケルトンと呼ばれている者たちだね」
「そこまで分かっているのに、魔物だと断定できないってことは……もしかして本物の骨が動いているって疑っているのか?」
「そう。私たちがそう思っているのには理由があって、敵の首魁が魔物じゃなくて人だったの」
「骨を率いる人……ネクロマンサーとかのスキルは存在しないのか?」
魔物をペット化させる【テイム】が存在しているのであれば、霊系の魔物に特化したスキルがあっても可笑しくないはずだ。
「確かにその可能性もあるけど、私たちにネクロマンサーというスキルの知識はなかったから、断定はできなかった」
「なるほどな……まあどちらにしても、俺たちはそれの撃退及び殲滅を手伝えばいいってことか」
「うん。取り敢えず、報酬は前払いってことで」
椅子に座っていたまいちゃんは立ち上がり、対面に居る俺の方へと歩いてきた。久しぶりに近く見るまいちゃんの顔は、なんだか大人びて見えた。以前の顔は、二十歳を超えているとは思えないほどの童顔だったが、今の顔は二十歳を超えていると言われても納得できる顔だ。
「じゃあ触れるね」
「頼む」
まいちゃんの手が、左肩に触れる。
刹那、眩い光が視界を埋め尽くす。その光は優しさに溢れているため、目が焼かれることはなかった。
「――ありがとな、まいちゃん」
「いいよ。きちんと、腕分の働きはしてもらうから」
目を開けると、そこには失っていた左腕がある。
何度かグーパーしてみたが、特に違和感はない。ぶっつけ本番では無理だろうが、多少の運動を済ませれば、十分戦えるはずだ。
遂に悟の左腕が戻って来ました。
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