第282話 後処理
龍肉のステーキが全員に行き渡り、その全てを食べ終わったのは、一番最初に麗華が口を付けてから、五時間が経過した頃だった。勿論、調理にも時間は掛かっていたが、一番時間を食ったのは、龍肉への惜しさが故の、あまりに遅すぎる食事スピードだ。
俺の分を一番最後にしていて良かった。
もし俺が最初の方に食べていたら、全て食べ終えるまでの時間がもっと延びていたに違いない。
「よし、勿体ないが、あとは焼却処分でいくか」
全身全霊の火力でも、この炎に体勢がある龍の死体を燃やし尽くせるとは思っていないが、龍の素材としての価値をゼロに近付けることができれば十分だ
右手から全力で炎を出し、龍の死体に触れようとした。
丁度炎が鱗を熱することができる距離まで近付いた瞬間、俺の行動を止めるような声が聞こえて来た。
「悟」
「どうしたんだ麗華?」
その声の主は麗華だった。
声色に焦りは感じられないので、敵が現れたわけではないはずだ。しかしわざわざ止めに来る用事も、これといって思いつかない。
「その龍を燃やすの?」
「ああ。空間拡張鞄に詰め込めるだけの素材は、既に剥がしてあるし、持ち歩くにはこの巨体はデカすぎるからな。帰りに取って帰るってことも考えはしたが、もし潜在的な敵対勢力に素材が渡る可能性があるというデメリットと比べると、破棄の方が幾分もマシだと思ってな」
「そうなんだ」
「麗華も素材を取りたいのか? もしそうなら、早めに取っておいてくれ。まあどうせ燃やし尽くすまで、まだまだ時間はあるだろうけどな」
「ううん。ただお肉が惜しいなって思って」
「……その気持ちは俺も分かるが、空間拡張鞄に入る分は取ってあるから、そこまで惜しむ必要はないだろう。それに龍は魔物だから、出会おうと思えばいつでも出会えるはずだ」
「……そうだね」
麗華の説得も終えた。
その間も燃え続けている右手を、龍の逆鱗が位置する首辺りへと添えた。炎は一気に火力を上げ、龍の全身を包み込んだ。
やはり想定していた通り、龍の身体は全くと言って良いほど燃えてくれない。多少は焦げ付いているように見えるが、出している火力から考えると全く成果が足りていないと言えるだろう。
「んー、やっぱり燃えないなぁ」
火力を上げようと思えば、もう一段階は上げられるだろうが、これ以上の火力は少々体力を消耗し過ぎる。ここが安置であれば、それでもいいのかもしれないが、龍の存在感によって魔物が離れて行っただけで、ここも魔物たちの領域だ。
既に魔物たちを遠ざけていた原因である龍を討伐してしまった以上、いつ魔物たちが寄ってくるかが分からないため、あまり無理をすることはできない。
「悟空、こっちに来てくれ」
「ゴリ」
少し離れたところで、他の子たちと一緒に地面をゴロゴロとしていた悟空を呼ぶ。嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる悟空。
「そこに胡坐をかいて座ってくれ」
「ゴリ」
悟空はお願い通り、胡坐をかいて地面に座ってくれた。
そして俺はその胡坐の上に腰を下ろす。従魔の中では比較的固めの体毛をしているが、一般的には柔らかいと分類してもおかしくない程度の固さでしかないから、椅子として丁度いい。
「ありがとな、悟空」
「ゴリ!」
悟空の足を撫でる。
嬉しそうにしているので、急に呼ばれたことを迷惑には思っていないようだ。
俺は悟空の膝の上に乗ったまま、龍の身体を燃やし続ける。
立ち続けてやったとしても、体力の消耗はほぼゼロに近かっただろうが、これは気分の問題だ。
「ふぅ……凜々花と合流したとして、アイツは向こうに居ることを選ぶのか、それとも俺たちの方へと来てくれるのか……旧文明時代の遠距離とはレベルが違うから、できれば一緒に来てほしいが、向こうでの関係ができているだろうから、かなり悩ましいよなぁ」
俺が膝の上でブツブツと独り言を洩らしているが、悟空は一切気にしていないようだ。
「まあどうせ時間は掛かるだろうし、ゆったりと進めて行こう」
悟空に体重を預けて、龍の身体を炙り続ける。
左手があれば、別のことも同時並行で進められたのかもしれない……はぁ、つくづく嫌な置き土産を残してくれたもんだ。
「……面倒だし、これでも良いか」
俺は左腕があった、肩から炎を出す。
強く意識すれば、炎を腕の形で固定することも可能だが、精神的な疲労が激しい為、周囲へ拡散しないことだけに意識を割いて、右手は自由になった。
「麗華、こっちに来るか?」
「……うん」
麗華は地面に体育座りをして、炎を見続けていたので、なんとなく可哀そうになったので、俺の右側に座ってもらうことにした。
今のこの状況、キャンプの焚火を見ている時のように、心が安らいでいく。危険な世界になったとは、思えない安らぎ具合だ。
次回から、再び京都を目指します。
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