第279話 VS龍決着
「【シンクロ】」
【シンクロ】の対象は麗華だ。
掌から冷気が零れ出る。初めて使うというのもあって、出力の制御が大雑把になってしまう。取り敢えず自分に被害を及ばせないため、掌を突き出した。
生み出された氷塊はとても巨大だ。
それは麗華が生み出したものに匹敵する――もしかしたらそれ以上かもしれない。そんな巨大な氷塊が、龍に対してなども爆発を与えている氷塊の、さらに上に誕生した。
「――」
声を出したわけではない。
だが従魔たちには気持ちが届いたようで、一斉に龍から距離を取った。麗華は大丈夫なはずだ。龍との距離が元々開いているし、俺の攻撃は単純な物量攻撃であって、麗華の使っていた水蒸気爆発ではないからな。
「……」
『やったか』なんてフラグを建てる言葉は口にしない。
ただ口を閉ざしながら、事の顛末を見届ける。それがフラグを建てずに戦うためには必要不可欠なことだ。
「――ッ!?」
落下が齎した衝撃波は、麗華によって作られた氷の壁を砕いた。
これは麗華の体力が底を突きかけていたというのもあるだろうが、シンプルに衝撃波の威力が高かったというのが主な要因のはずだ。
「カハッ――」
衝撃波によって吹き飛ばされた。
地面を転がり、口から大量の血が吐き出された。これは【六道】の代償というよりも、単純に吹き飛ばされたのが原因だ。
「広忠は大丈夫か」
「ああ、なんとか」
広忠は俺よりも吹き飛ばされていたが、ダメージは俺よりも少ないように見えた。理由としては、俺は攻撃に意識を割いているのに対して、広忠は自衛だけに意識を割くことができたから、受けたダメージが俺よりも少なかったのだろう。
「それは良かった。広忠が死んだら、凜々花との合流が遠のいてしまうからな」
「酷い言い草だが、王としてはそのくらい淡泊の方が向いているな」
突き出された手を握り、引っ張り上げてもらう。
自力で立とうと思えば立てただろうが、身体に負担を掛けたくなかったから、広忠に手伝ってもらった。目線の先にあるのは、一切の身動きを取らなくなった龍の姿だ。それは数多の氷塊で身体を破壊され、無敵だと思わせられた強固な鱗はボロボロと剥がれ落ちている。
「これで倒れてくれて良かった。これ以上の戦いは、かなり厳しかったからな」
一人呟く。
近くに立つ広忠には届いていただろうが、特に言葉が返ってくることはなかった。理由は分からない。ただ答える必要はないと思ってくれたというのは確かだ。
「この宝の塊をどうするか……」
「持って帰れるなら、かなりの成果になるはずだが、一度東京まで変える必要があるだろうな」
ギルド長としての経験が豊富な広忠が言うんだ。この龍を持ち帰ることができれば、国王初遠征の実績として十分に満たしているだろう。だが東京まで戻るとなると、京都に着くのはもっと遅くなってしまうはずだ。
「……持っていけない分は燃やしておくか」
ここに放置して苦労していない誰かの手に渡った場合、癪に障るから、持っていけない分は燃やし尽くして、価値をゼロにしておこう。
「捨てるの?」
「麗華、大丈夫だったか?」
「うん。疲労は限界だったけど、別に怪我した訳じゃないから」
「それなら良かった」
駆け寄って来たたぬ吉たちを撫でながら、一緒に近付いて来た麗華の頭も撫でる。ずっと戦って来て、大量の汗をかいているだろうに、髪の毛は風呂に入ったばかりのようにサラサラとしていた。
「……」
麗華が気持ちよさそうな表情を浮かべているのに対して、広忠の視線はとても痛かった。
「なんだ、広忠」
「うちの娘というものがありながら、“絶氷の薔薇姫”にも手を出すんだなと思ってな」
「……ノーコメントでとしか言えない」
「まあ別にいい。こんな弱肉強食の世では、強者がモテるってのは当たり前の話だ」
確かに弱肉強食である以上は、強者が何をしようと許される。それが弱肉強食なんだろうが、旧文明の倫理観が消え去った訳ではないから、それを前面に出すわけにはいかないだろう。特にウチの国は、レオンという弱肉強食の権化みたいな前例がいたせいで、強者の印象は悪いだろうからな。
――グゥ~~
「――っ」
麗華が珍しく恥ずかしそうにしていた。
「龍のせいで飯を食えてなかったし、改めて作るか。和牛はなくなっちゃったけど、一番の素材がそこにあるからな」
「龍?」
「そうだ。龍肉はきっと美味いはずだからな」
飛竜でもあの美味さだったんだ。
本物の龍ともなれば、全身の服が弾け飛ぶのは前提として、蕩けるような感覚に陥るような料理を作れるはずだ。
龍との決着の後は、龍料理。
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