第277話 スイッチ
爆発の衝撃は、龍の身体だけではなく、俺の身体も焼く。
そして【六道】の代償下であるせいで、一般的な冒険者と殆ど変わらない治癒能力しかなく、焼け焦げた皮膚は再生することなく、熱を孕んだまま筋肉をも焼いていった。それに伴って全身に走る激痛。
「くっ――」
いつもであれば苦悶の表情を浮かべているであろう痛みだが、表情筋も焦げ付き、表情を変えることすら困難になっていた。
だがここから吹き飛ばされるわけにはいかない。鱗を破壊することには成功したが、まだその裏に眠っていた肉体は、表皮が焼け焦げただけで、その中の筋肉までは破壊できていない。
だからこのまま張り付き続けて、何度も水蒸気爆発を起こす必要がある。体力も、内臓もボロボロだが、この龍に勝つには多少の無理は必要不可欠だ。
「かはっ――」
だが体力よりも先に、内臓が限界を迎えた。これ以上【六道】の使用を続ければ、今後の生命活動すらも危うくなる。
「あとは任せたぞ麗華」
最期に最大の水蒸気爆発を起こし、俺は龍の背中から落下した。
意識が朦朧としているが、気絶するまでにはいかなかった。これで戦いを最後まで見届けられる。
「ゴリ!」
跳んできた悟空が、落下する俺をキャッチしてくれた。
これで落下死なんて悲しい結末は避けられた。ありがとう。そんな短い言葉すらも、声に出すことができない。
「……」
悟空は即座にたぬ吉たちの元へと合流し、俺のことを地面に寝かせた。思いやる気持ちがないと言われるかもしれないが、俺のことを抱えたままでは、自衛すら危うくなるんだ。この選択で間違っていない。
「……」
首をゆっくりと振り、麗華の方へと目線を向ける。
麗華の表情は真剣。額から流れているのは、龍が発した熱による汗ではなく、強敵を前にしていることによる冷や汗だろう。麗華は【氷結】と【絶氷】という温度を下げることが可能なスキルに加えて、【温度操作】なんてスキルも持っているんだから、普通の汗を流すとは思えない。
「“零冷”」
冷えた。
凍え死ぬような冷気が、一瞬で超広範囲に広がった。この程度で死ぬような存在は、この場に居ない。寒いことには変わりないが。
冷え切った戦場は、巨大な氷を生み出した。その氷塊は龍の頭上にあり、麗華が腕を振り下ろすのと同時に、重力によるものでは考えられない速度で落下した。
「グラァァァァ」
耳が痛くなる絶叫をあげているんだろうが、水蒸気爆発で鼓膜が破れた俺にとっては、そこまでの影響はない。
「うるさい」
麗華が愚痴ると、龍の口が氷によって固められた。
龍の体内にある高温のエネルギーが、口を開くために氷を溶かそうとしているが、温度を操ることができる麗華の氷は、熱で溶かすことはできない。
「“氷針”」
地面から生えた数百にも上る氷の針が、龍の身体を貫いた。
一つ一つの傷はとても小さなものだが、それが数百もできれば、大量の血液を失うこととなる。巨体であるがゆえに、心臓の動きは人のものよりも大幅に高性能だろう。だから出血量も心臓のポンプ性能に比例して多くなる。
「グラァァァ」
痛いのか、ただ煩わしいだけなのか、それは当事者である龍しか分からないが、とにかく氷が邪魔であることには違いないのだろう。巨大な尾を振り回し、麗華に攻撃しようと試みている。
だが麗華は氷に乗り、龍には劣れど、高度な空中機動を行い、尾による薙ぎ払いを悉く避けていた。
「尻尾が厄介」
麗華は氷で巨大な剣を生み出した。
先ほどの言葉から、尾を斬り落とすつもりなのだろう。そう簡単に斬り落とせるとは思えないが、麗華も無策で挑むわけではないだろうし、案外容易く斬り落とすかもしれないな。
「斬られて」
巨大な剣が龍の尾を捉えた。
衝撃波が俺たちを襲うが、たぬ吉たちが守ってくれたおかげで、俺の元へは殆ど衝撃が来なかった。
「うーん」
剣は尾に深く食い込んでいたが、切断するまでには至らなかった。
あと半分くらいか? まあ半分斬っただけでも偉業と言える功績だが、脅威を取り除いたのかと言われると、ノーとしか言えないな。
「れいか」
ようやく【六道】の代償が治り始めた。
未だに声を出すのがやっとだが、どうせ戦うのは当分無理なのだから、声を出せるだけでも十分だ。
「なに?」
「お前は俺の部下だろう」
「うーん、どうなんだろう?」
「今の俺は王であり、麗華は俺の王国に所属している。すなわち麗華は俺の部下だ。そのことを強く認識してくれ」
「……なるほど。分かった」
俺が【皇居ダンジョン】に入場したことで得たスキル【配下強化】は、テイムした従魔だけではなく、俺と相手の認識が配下となっている相手であれば、誰でも適応される。
「すごい力だね」
先刻の氷塊を一回りも二回りも大きくしたものが、龍の頭上に生み出された。
次回、龍との激戦に終止符が!?
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