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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第272話 人間の道

「“人間道”」


 “人間道”に含まれる権能も三つある。

 性、食、睡眠。人間の三大欲求に由来する三つの権能だ。その中で今回使用した権能は、睡眠の権能だ。


「弱っている相手には、十分効くな」


 俺の“人間道”は、ダメージを与え続けた小さい飛竜に着弾した――と言っても、“人間道”は不可視の攻撃だから、基本的に避けることは不可能だがな。


「グラァ……」


 目を閉じた。

 飛行のために動かしていた翼が止まり、その巨体が重力の影響を受け、地面へと堕ちる。だが俺はその下に居る。このままいけば、俺はこの巨体と地面のサンドイッチにされてしまうだろう。


 焦りはない。拳を突き上げた時に感じた重さ程度では、戦闘に悪影響を及ぼす怪我は負わないはずだ。脱出が面倒くさいことには変わりないがな……。

 ――ドカァァァン

 酷い音だ。視界は真っ暗。鼻が曲がりそうな獣臭。舌を噛んだせいでする独特な血の味。押し上げようとしても固い腹部が押し返してくる。

 五感全てが一度に機能し、頭が処理するためにエネルギーを欲していた。だが手の届く範囲でエネルギーへと変えられるのは、視界を埋め尽くす飛竜の腹部しかない。


「……」


 ゴクリという音が鳴ってしまった。

 身体が求めているが、ここでかぶり付いてしまえば、本当に人ではなくなってしまう。

 だがこうしている今も体力がゴリゴリと削られ、気道を確保するのがやっとといった状況だ。何か動かなければ、ジリ貧で呼吸困難になってしまうだろう。


「――」


 口を開く。

 口内の出血で、ネチャリと糸を引いたような気がしたが、そんなことを気にしている暇は、今の俺に残っていない。


 眼前の肉へと、歯を突き立てた。

 やはり歯は固い。全力で殴っても抉ることができなかった肉を、いとも容易く破り、深く突き刺さった。


 口の中に流れ込んでくる血液、それは口の中でねばついていた自分の物とは全く違っていた。それは濃厚なぶどうジュースのような芳醇な旨味、それでいて濃厚な甘み特有の喉に絡みつくような感覚もなく、とてものど越しが良い液体だ。


 この絶品の飲み物を口にして、肉を味わわずにはいられなかった。

 犬歯が突き刺さる肉へと、全ての歯を以て噛み切った。分厚い生の肉が舌に乗る。全身の服が弾け飛んだ――ありきたりな表現かもしれないが、そうとしか表現しようのない爆発的な、味が舌を襲ったのだ。


 強烈な旨味の中に隠れる熱と刺激。表現としては、辛いが最適なのだろうが、常人では耐えられないであろう刺激で、辛いという表現では生ぬるい。俺でも死を覚悟するレベルの刺激だが、それを上回る旨味にもうひと口を求めたくなってしまう。


「はぁはぁ」


 旨味をじっくりと味わいたかったが、気付いた頃には喉を通り、胃へとポチャリと落ちた。普段の食事ではそこまで詳細に分からないが、今回に限っては明確に肉の動きが分かった。


 胃に落ちた飛竜の肉は、【六道】の代償下でも変わらず強化されている胃液によって、瞬時に溶かされた。


「――ッ!?」


 その瞬間、腹の底から莫大なエネルギーが湧き上がって来た。

 それが飛竜の肉由来だということは、直ぐに理解できる。だが湧き上がってくるのはエネルギーだけではない。酷い怒りの感情だ。


 まだ感情に任せて動き出すという事態にはなっていないが、時間の問題と思える程度には、これまでに味わったことのないレベルの怒りが湧き上がって来ている。


「……」


 噛み傷のある腹部を握り、立ち上がる。

 先刻は全く持ち上げることができなかった巨体だが、今の俺は片手で軽々持ち上げることができた。力の度合いを表現すると、【六道】の代償がない状態の膂力を優に超えている。


 片腕しかないのだから、片腕で持ち上げるってのは普通のことなんだが……まあ取り敢えず、飛竜の獣臭から解放された。外の新鮮な空気を、鼻から思いっきり吸い込む。

 鼻にこびり付いていたと思っていた飛竜の獣臭が、新鮮な空気によって洗い流されてくれた。嬉しい誤算だ。


「邪魔だなぁ」


 既に【六道】の代償からは解放されている。

 掌にエネルギーを集中させると――


 これまでに経験したことない火柱が、飛竜の巨体を包み込み、一気に焼き焦がした。周囲に漂う肉の香りに、思わず涎が垂れてしまう。そんな恥ずかしい姿を見られたくないので、熱を帯びた掌で拭うが、絶えず垂れ出てしまうせいで、いくら拭っても効果がなかった。


 諦めた。別にこんな姿を見られたとしても、麗華は気にしないだろう。そう自分に言い聞かせて、こちらへと怒りの感情に任せて向かってくる飛竜の元へと、軽く跳躍した。


「……“火拳”」


 拳に炎を纏い、ただ突き出す。そんな単純なことだけしかしていないが、炎は飛竜の身体を呑み込み、地面に転がる飛竜と同じ状態へと追いやった。


 大きい方の飛竜が漂わせる匂いは、小さい個体に比べてとても食欲を掻き立てる香りであった。



魔物は人を殺すことで己が糧とし、種によっては食すことがある。


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