第265話 今後の展望
第一回評定を終え、部屋に残っている江梨子と麗華、そして外で待機してもらっていた従魔たちと共に、今後のダンジョン探索についての話し合いを行っている。
「【皇居ダンジョン】は追々進めていくにして、地下にあるダンジョンは、誰に任せる?」
目線を江梨子へと向け、疑問を投げかけた。
江梨子は組織のトップで、以前のように【皇居ダンジョン】を任せるということに決まっていて、麗華は実働部隊のトップだ。だからここに居る二人には、地下にあるダンジョンの管理は任せられない。
他の幹部たちもそれぞれに仕事を割り振っているため、地下のダンジョンの管理は、この国の民数万の中から探し出さなければならなかった。
「元ギルド職員、できればギルド長クラスが国民に居れば、安心して任せられるが、まあそんな都合よくはいかないだろうな」
「そりゃあそうだろ。いくら数万の民が居るからと言っても、基本的に集まっているのは、力を持たない人たちだ。いくら事務方とは言え、ダンジョンに関わっていた人が、一般の民としているわけがない」
「……」
俺も江梨子も、現実はうまくいかないということが分かっている。
だから民の中から、事務方面で優秀な人を探し出すために、求人を出すということで、後回しになった。
「じゃあ次は京都――まいちゃんのことだ」
「悟の腕を治すために、できるだけ早く行っておきたいが、まだ難しいだろうな」
「もう慣れたから、あまり不便することはないが、やはり戦闘になると、以前のような動きはできない。【皇居ダンジョン】の一階層程度であれば、片腕があれば十分だが、以前地下で遭遇したワイトキングクラスになると、かなり厳しいだろう」
「問題は時間と戦力だ。世界の変革前であれば、空を進むことができたから、殆ど時間を掛けずに行けたが、空にも魔物は居るから難しい。それにこの国防衛を考えると、私か麗華のどちらかは最低でも残らないいけない。この国最難関候補の富士山ダンジョンの前を通らなければならないことを考えると、悟一人に行かせるわけにはいかないからな」
「……【皇居ダンジョン】で敵みたいな転移系の能力を得る」
「かなり確率は低いだろうが、それが一番確実性があるだろうな」
麗華の意見は、現実的ではないが、最も現実的な意見だ。
この国で王様に成った以上、俺が京都へと向かうのは現実的ではないからな。
「だが転移系の能力を得るまで、この国に籠っているわけにもいかないだろ。【十聖】との戦いで全国へと飛ばされた【先駆者】、凜々花の居場所を探さないといけないわけで、俺たちが居なくても一か月は持つ国造りをしないといけない」
おかしなことを口にした自覚はないが、江梨子と麗華が黙ってしまった。口にしたことを頭に浮かべてみるが、全く分からない。
「……悟。本当に他の【先駆者】や凜々花が生きていると思っているのか?」
「当たり前だろ。一番戦闘面で弱かったまいちゃんが生きているんだ。他のみんなだって生きている可能性の方が高いはずだろ」
「……確かにあの子が一番弱いというのは、私も同意見だ。だがあの子が生き残ったからといって、他の人たちも生きているというのは暴論だろう。そもそも転移の先は、敵の真の首魁であった豊臣――羽柴の手によって決められている。だから何らかの思惑で、あの子が生かされたという可能性もゼロだとは言い切れないだろう?」
「……」
江梨子の至極真っ当な晴朗に、俺は何も言えなかった。
そして心のどこかで、既に仲間たちは死んでいるのでは、そんなネガティブな思考があった。
関わりが少ない【先駆者】たちの死は、思うところはあるが、そこまで気にしてはいない。だが凜々花は別だ。彼女のお陰で、俺はブラック企業を離れることができた。
人によっては、俺のことをダンジョンに無理矢理連れて行き、間接的に殺そうとしている最悪な女だと言うかもしれない。だが俺は、そうは思わない。
彼女が俺のことを長期間の昏睡状態へと追い込んでくれなければ、ブラック企業から首を切られることも、ゴン太の魔力が身体に入り込むこともなかったはずだ。
全て結果論かもしれないが、結果論の何が悪いんだ。世界が弱肉強食に変わる前から、全て結果論だろ。
勉学だって最終的に見られるのは学歴。研究だっていくら時間や過程を積み重ねようと、一番最初に特許や論文として出した人の勝ちだ。
社会に出てもそうだ。どれだけ相手に気に入られようと、物を売れなければ意味がない。どれだけ助手として優秀で、全て仕切っていたとしても、それは上司の成功だ。仕事として名が残るのは、上司なんだからな。
人生ってのは、結果が重要なんだよ。だから凜々花がどれだけ俺に損を齎そうと、それを覆すだけのプラスを齎してくれた。結果、今の俺がある。誰が何と言おうと、彼女は俺をブラック企業から救い出してくれた、恩人なんだよ。
だから生きていて欲しいし、また会いたいんだ。
「悟、大丈夫か?」
「えっ?」
頬に触れる。
気付かぬうちに、涙が流れていたようだ。
元ブラック企業戦士の悟は、死に対してそこまで恐怖していなかったです。だから凜々花のせいで死にかけても、そこまで恨んでいません。
……悟はヒトから脱する前から、どこか壊れていたのかもしれません。
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