第264話 戴冠式
「これより皇居を中心とした、一定領域を王領として定め、統治する王の戴冠式を始める」
新たに作った王城のバルコニーでそう宣言しているのは、旧レオン政権にて親衛隊として名の知れていたペドロだ。
装着している純白の鎧は、刻まれていたレオンのマークが消され、俺たちで考えたマークが刻まれている。
「善政の裏に悪政を敷いていたレオンは、民を強引に兵として己が逃げるために利用し、この国を去った」
数万に及ぶ民が集まり、ざわざわとしていた広場は、レオンの悪政を読み上げるペドロの声に耳を貸し、静まり返っている。
そしてペドロがレオンの悪政の全てを読み終えると、特大のブーイングが鳴り響いた。
「そんな悪王に変わり、新たな王に成るのは、そんなレオンを撃退し、民を兵から解放した英雄、窪田悟だ!!」
「……」
急ごしらえだが、王という立場に見合う服を纏って、ペドロの居るバルコニーへと顔を出す。
ざわざわの音から、その数をある程度想像できていたが、目にすると驚きが大きい。数万に及ぶ民衆は、巨大な広場を埋め尽くしている。
「私はレオンのようなカリスマ性はない。そして壁を作るスキルも持ち合わせていない。だが悪政を敷くつもりも、魔物と戦うことを強制するつもりもない。私が君たちに望むのは、以前の暮らしを取り戻すために努力することだ」
俺は極めて普通の声で話している。
だが江梨子の風の力によって、広場全体に満遍なく届いているだろう。一番奥に居る人も、希望の眼差しでこちらを見ているのが証拠だ。
「日本政府は倒れ、弱肉強食が許される世となった。私が王に成るのだって、この場に居る誰よりも力を有し、前国王のレオンを上回ったからである」
正面からの戦いでレオンに勝ったわけではないが、王に成るからには、最強である必要があるため、ある程度の箔付けは必要だろう。
「だが荒事を好まない人もいる。そんな人を切り捨てるのは簡単だ。だが人を数字としてしか見ずに、簡単に切り捨ててしまえば、人として終わってしまう」
ヒトでなくなってしまったからこそ、俺は精神面だけは人でありたい。そんな思いから、言葉がスラスラと出て来る。
「だから私は切り捨てない。人として、最低限度の保証ができるように、しっかりとした制度を設ける。だから君たちの命を預けて欲しい。勿論、私が君たちの期待に応えられなかったときは、この席を降りるつもりだ」
俺にできる演説はこの程度が限界だ。
嘘はついていない。旧日本国憲法のような平和に傾倒した法を作るつもりはないが、民に武力を持つことを強制するつもりもない。そもそも己が意志がなければ、一定以上の強さは得られないだろう。
「……」
静かだ。
目を瞑りたい。だが民の反応を見届けるのも、王としての責務のはずだ。
「「「ウォォォォォォ!!!!」」」
民による割れんばかり叫び声。
安堵感から腰が砕けそうになるが、気合でその場に立ち続ける。演説は終わったが、最も重要な部分が終わっていないのだから。
「これは建国に際し、新たに作られた王冠。これは力を象徴するのに、最もふさわしい魔石を飾りとして使用した武の象徴だ」
「……」
ペドロによって、魔石をふんだんに使用した王冠が被せられる。
叫び声は拍手へと変わり、それが賞賛のものであるというのは、誰の目からしても明らかだろう。戴冠を拍手で迎えられる……概ね戴冠式は成功で終わったということだ……疲れたな。
「どうだった?」
「よかった」
『窪田王国【ダンジョン協会】“冒険長”西園寺麗華』
「素晴らしい王様っぷりだったぞ。あの勇ましさを維持できれば、王としてやっていけるだろう」
『窪田王国【ダンジョン協会】“総裁”佐藤江梨子』
麗華には、地上の魔物を間引きする冒険者たちのリーダー“冒険長”、という役割をお願いした。元々冒険者として名が売れていた、麗華にしか頼めない役割だろう。
そして江梨子には、以前と同じようにダンジョン協会の“総裁”を頼んだ。まあ以前のように、下部組織であるギルドに全てを任せて、皇居ダンジョンの管理だけをする、なんてことは不可能だから、名の通りの活動はしてもらうつもりだ。
だから以前と同じダンジョン協会だとは言い切れないがな。
「口にしたのだから、しっかりと実行してもらうぞ」
『窪田王国【治安維持隊】“隊長”上杉桃花』
「……武で王となるには、少々技量が足りないだろうな」
『窪田王国【治安維持隊】“指南役”柳生信綱』
ペドロこと上杉桃花には、事前に話していた通り、【治安維持隊】の隊長を頼んだ。人一倍正義感の強いペドロであれば、公正に動いてくれるだろう。
そして剣の達人である信綱には、【治安維持隊】の戦力向上のための“指南役”を頼んだ。まあ【治安維持隊】は発足したばかりで、所属しているのはペドロと信綱だけなので、ペドロの個人コーチでしかないが、将来的には数多くの弟子を抱えることになるはずだ。
「では窪田王国、第一回評定を始める」
『窪田王国“国王”窪田悟』
遂に悟は王と成りました。
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