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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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第263話 窪田悟王

 甲斐が目を覚ますよりも先に、魔物が姿を現した。と言っても、今の俺たちからすると脅威は感じられない相手だ。半透明の流体ボディ、その中心部分にある魔石、魔物と言われたら、大半の人が頭に思い浮かべるゴブリンと双璧を成すパブリック魔物――スライムだ。


「江梨子、甲斐のことは頼むぞ」


「私が居なくとも、悟の従魔が居れば安全だろうがな」


「念のためだ」


 一歩前へと出る。

 目の前に居るスライムは、極端に大きいわけでも、毒々しい色をしているわけでもなく、ただ半透明な水色の流体ボディを艶やかに輝かせながら、ゆっくりと近付いて来ている。全く危険さを感じられない。


 ぷるぷるとして揺れている身体が可愛らしくも見えた。

 だがゴン太たちに対して感じた、生物としての可愛さではない。物体としての愛くるしさであり、生物としての魅力を感じているわけではない……つまり倒すことに対して、罪悪感を抱くことはないだろう。


 拳を握る。試しに炎を出してみるが、出力に揺らぎはない。それどころか以前よりも増しているように思えた。


「“火拳”」


 炎を纏った拳を、今もゆっくりと近付いて来ているスライムへと振り下ろす。

 一瞬での流体ボディは蒸発し、魔石だけがその場に残った。これがドロップなのか、体内にあった魔石が残っただけなのかは分からない。だが特別強いわけではない、ということが分かっただけでも十分な収穫だろう。


「滅茶苦茶弱い魔物だった」


「そうだろうな。なんたって最弱の魔物と名高いスライムなんだからな」


 本当に意味が分からないダンジョンだ。

 一階層の魔物がこんなにも弱いというのに、【先駆者】の力を以てしても未踏破ダンジョンであり続けている……なんとも他のダンジョンでの常識が全く通用しないな。


「取り敢えず帰るとしよう」


「いいのか? 一階層くらいはクリアしておいた方が良いんじゃないのか?」


「このダンジョンは一階層から広いからな。時間を掛けて、じっくり進めていく必要があるんだよ」


「……じゃあ帰るか」


 俺たちは出口を目指し、先刻下って来たばかりの坂を上っていく。

 下りに比べて、上るのには少々時間が掛かってしまった。ただ疲労はない。この程度で疲れが溜まるほど、俺たちは弱くないってことだ。


「悟、ここを出たら王としての仕事が待っている。色々と苦労を掛けるだろうが、王という大任、よろしく頼む」


「……な、なんだよ、急に畏まって」


 出口の前で、江梨子が頭を下げて来た。

 あまりに急な出来事で、返事をするのに時間を要して、さらにどもってしまった。


「これから悟には、私の願いで迷惑をかけてしまう。だからきちんと頭を下げておこうと思ってな」


「……別に気にしなくても良かったんだが。俺としても安定した地盤を作るには、王は必要だと思っていたからな」


「まあ悟が気にしようと、気にしまいと、これは私の自己満でもあるから、お願いを受け取ってくれるかい?」


「もちろんだ。土壇場になって、やっぱやめるなんてことは言わねぇよ」


 もうここまで来たんだ。

 ゴン太を取り返すためにも、もう止まれない。


「じゃあ出ようか」


「ああ」


 俺たちは【皇居ダンジョン】を後にした。

 ダンジョンの外は、入る前とほとんど変わっていなかった。そもそもダンジョンに入っていた時間が短いため、当たり前と言ったら当たり前なんだが、相手が転移できることを考えると、何か起きていても可笑しくはなかっただろう。


「麗華、何もなかったか?」


「うん、“王の軍勢”にされていた人が起き始めたくらい」


「そうか、であれば良かった」


 俺たちは、レオンとの激闘を広げてなお、崩れ落ちることなく健在の建物へと入った。そこで始めたのは、今後の国家運営のために必要な役職と、方針についての会議だ。


「王様は悟でいいな」


 江梨子が首を振りながら、こちらに確認を取った。

 この場に居るのは俺と江梨子、麗華と甲斐、あとは信綱にペドロ、そしてロジャースだ。ロジャースに関しては、今後の国家運営に関わることはないだろうが、別の場所で騒ぎを起こされては困るため、この場に呼んである。


「異議なし」


「私は悟でなければ、王であることは認めない」


「私じゃなきゃ、誰でも良いわよ」


「納得だ」


「……」


 麗華は異議なしと言い、ペドロは過大な信頼を俺に寄せているようだ。

 そして甲斐は面倒くさそうに、立場を押し付けるかのような口ぶり、信綱は大きく首を縦に振り、ロジャースは自分の立場を分かっているようで、口を噤んだままだ。


「じゃあ王は悟に決定だ」


 王冠もなければ、厳かな式典もない。

 そして書類に残すわけでもないので、俺が王に成るというのは口約束でしかない。だがそれでも俺が王に成ったことに、変わりはないだろう。


「窪田王一世……窪田悟王?」


「いや、今まで通りの呼び方でいいから。それに世襲するつもりもないんだから、一世呼びは止めてくれよ」


「じゃあこれからも悟で」


 その麗華の笑顔は、とても可愛らしかった。


 ――【第3章 皇居】完



事前に告知してあった通り、複数投稿は終わります。ですが一日一話投稿は続けるので、これからもお楽しみください。


これにて第3章完結となります

【第4章 王と皇】もお楽しみください


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